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変化の激しい半導体産業において、日本が再び世界の最前線に返り咲くための重要な鍵は「人財(人材)」にあります。技術研究組合最先端半導体技術センター(LSTC)とPwCコンサルティングの挑戦は、その再興の未来を力強く切り拓いています。2022年12月に設立されたLSTCは、最先端半導体技術の研究開発と人材育成を推進し、国内各地域のコンソーシアムを結ぶ連携ハブの役割も担います。PwCコンサルティングは、半導体業界の深い知見や産学官連携の幅広い経験、グローバルな俯瞰的視点でLSTCの人材エコシステムの構築をサポートしています。両者のコラボレーションが目指す「半導体ニッポン」の再生に向けた道筋について、LSTC人材開発部門の部門長 貴島 和美氏と、半導体業界に精通するPwCコンサルティングのディレクター近藤 芳朗が語り合いました。
(左から)貴島 和美氏、近藤 芳朗
出演者
技術研究組合最先端半導体技術センター(LSTC)
人材開発部門
部門長
貴島 和美氏
PwCコンサルティング合同会社
ディレクター
近藤 芳朗
近藤:
LSTCの半導体人材の育成に関する取り組みが注目を集めている理由の1つは、日本が半導体先進国だった1980〜90年代のかつての存在感を取り戻すことに加え、その地平を越え、さらに「向こう側」の興隆を目指すチャレンジでもあるからです。本対談ではまず、その取り組みの現場を確認していきましょう。はじめに、最先端デジタルSoC(システム・オン・チップ)設計人材の育成事業を紹介していただけますでしょうか。
貴島:
私たちLSTCは、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)からの委託に基づき、AI(人工知能)アクセラレータや最先端SoCなど、とりわけ次世代半導体の中核領域における人材育成に取り組んでいます。
受講プログラムは、初級・中級・上級の3コースから構成されます。初級コースではEDAツール(半導体設計ソフト)の基礎を学びますが、汎用プログラムの学習だけにはとどまりません。受講者は、細分化された各工程で自分の学びたいカリキュラムを選択でき、5カ年計画の中でしっかり学べます。講座は対面学習とオンデマンド配信の両対応です。
中級コースでは、市場ニーズのボリュームゾーンである28nm(ナノメートル)ノード以細の半導体の設計者を育成します。AIアクセラレータの開発などを通じて実装スキルを身に付けることに加えて、例えば、誤った設定から生じる各種の問題を実際に解決する力を養うプログラムを用意するなど、より実践的な取り組みを目指しました。受講者は現役で企業に在籍しているエンジニアも多く、各社の課題や状況に即して深い知見を培えます。
さらに上級コースは、米国を拠点とする企業でのOJT(実地研修)を含む本格的なプログラムです。期間は最低でも半年間、場合によっては1年〜1年半を設定しており、実際のオープンソースプロジェクトに参加することができます。研修先の海外企業のグローバルな人材に学び、技術研鑽だけでなくディスカッションやプレゼンテーションのスキルも磨けるなど、上級設計者としての実力を高める内容です。
近藤:
最先端SoC設計者の育成は、産業競争力や技術主権、環境対応力を支える基盤となる取り組みだと考えます。先端SoC設計は性能・省電力・信頼性など差別化の源であり、今後成長が期待されるエッジAIの専用化に必須だからです。プログラムでは先端ノードやチップレットなどの複雑化・高度化のトレンドもしっかりとフォローされており、国内のエコシステム形成に資する取り組みになっています。何より、参加者の実践を「仕組み化」している点も心強い限りですね。SoC設計では、実践力が極めて重要と考えるからです。その意味で、LSTCの体系的なプログラムは、非常に意義があります。
また、LSTCの重要な柱として、産業界のみならず、大学などの研究機関およびアカデミア、経済産業省や文部科学省からの参画など、いわゆる「産学官の連携」があります。こうしたつながりを重視しながら人材を育てていくことの狙い、そして各者が果たすべき役割について、どのようにお考えでしょうか。
貴島:
日本ではこれまで、産業界は産業界、アカデミアはアカデミアとして、各々が独自に活動する傾向がありました。しかし半導体業界においてはここ1〜2年、両者のあいだにかなり密接な連携の形成が加速しています。かつてはそれぞれの「目指す方向」に差異があったかもしれませんが、今は日本の半導体産業の再興とそれに資する人材育成という点で一致していることが背景にあり、要因の1つでしょう。産業界のニーズをアカデミアが的確に捉え、最適な人材を育てる「好循環」を確立したい——その思いは、産も学も共通なのです。もちろん、強力に推進するためには、国の支援も不可欠です。私たちも、文部科学省や経済産業省からさまざまな支援と助言を受け、活動しています。
近藤:
半導体業界における産学官連携は、それを通じて即戦力を持つ人財育成にもつながると思います。また、産学のそれぞれが単独では保有の難しい高額設備やEDAツールを、共有して試作を進められるなどのメリットも考えられます。基礎から応用の橋渡しとなるアイデアジェネレーションの機会にもなったり、資金のリスクをうまく分担することでイノベーションや起業も生まれやすくなったりもするでしょう。今後、国内だけでなく国際的にも産学官連携が進むとより高度でグローバルな視点を持った人財育成の機会も出てきそうですね。これからもますますLSTCの役割が重要となることが良く分かりました。
技術研究組合 最先端半導体技術センター(LSTC)人材開発部門 部門長 貴島 和美氏
近藤:
少し視点を変えて、技術と人材の関係について考えます。一般的に、テクノロジーにブレークスルーが求められる局面では、地域や専門性の境界を越えられる人材が求められます。いまLSTCのオフィシャルサイトを拝見すると、「2nm世代以降」との表現が見られ、そこを見据えた取り組みが述べられています。最先端の半導体、とりわけ2nmよりも微細な半導体が求められる現在の局面と、そのような局面での人の育て方に関して、LSTCではどのようにお考えですか。
貴島:
LSTCでは現在、2nm世代以降の最先端半導体技術を視野に入れ、研究開発と人材育成を進めています。関連する研究開発プロジェクトはNEDOから3件受託していますが、機微に触れる情報が含まれることを考慮し、対象に学生を含めていません。ただし、人材育成の観点から大学や研究機関に参画いただくことで、最先端の技術や知見が還流する未来図を期待しています。
近藤:
研究開発では、国内企業だけでなく海外企業とも協働されていると伺っています。内側に向かって閉じることなく、必要な知見を広く海外からも積極的に取り込み、研究開発を加速する姿勢は重要ですね。
貴島:
おっしゃる通りです。例えば、NEDOからの委託を受けた「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業/先端半導体製造技術の開発(委託)」では、Beyond2nmおよび短TAT半導体製造に向けた技術開発に関して、欧州の研究機関と緊密に連携しています。
近藤:
最先端の領域に取り組んでいる研究機関や企業とのグローバルでの連携を通じて、技術や知見をアカデミア側にも還流させ、人財育成にもつなげる取り組みであることがよく理解できました。
近藤:
日本の半導体産業を未来に向けて力強く復興させるためにも、人材育成の基盤づくりはLSTCの最重要テーマだと理解しています。LSTCではそのために、人材育成検討委員会を設置し、その傘下に4つのワーキンググループ(WG)を設けていますね。「地域への貢献」も含めた連携が重要なテーマとなっており、LSTCが担う地域連携のハブとしての役割も相当に大きいものです。
貴島:
WGには現在、大学地域産業連携WG、設計人材WG、新事業創出WG、未来共創人材WGの4つがあります。LSTCは、各地方の経済産業局の下でコンソーシアムの人材育成活動を支援しています。例えば、産学官の関係者による連携会議にオブザーバーとして参加し、各地域の活動状況を把握する、などです。こうした地域連携の事務局機能・取りまとめでは、PwCコンサルティングに支援していただいています。
国内では現在、北海道・東北・関東・中部・近畿・中国・九州の7地域にコンソーシアムがあり、LSTCはそれらを横串でつなぐハブとして機能しています。ただ、各地域で取り組みのスピード感は異なり、保有するアセットもそれぞれです。例えば、半導体産業が集積する九州地区の活動は数年前から活性化していますが、近畿では今年立ち上がったばかり、といった具合にグラデーションがあります。
そこで、これから立ち上がろうという段階の地域に対しては好事例を横展開し、他地域からのサポートの仕組みも整えながら、早期立ち上げを支援しています。ただし、その地域ならではの特色を尊重し、特長を生かす活動であることが重要です。数年後には、その地域だからこその人材が育まれ、その結果として半導体産業全体が活性を帯びることを目指しています。
近藤:
私たちPwCが地域連携の事務局機能・取りまとめを支援する過程で多くの方々と関わり、お話を聞く中で、地域に共通の課題もあれば、地域に固有の課題もあり、その対応もさまざまだということを実感しています。各地で産業構造や関係者の集積度、地形的要因など事情が異なることから、共通の課題には好事例を横展開しつつ、地域固有の課題にはその地にあった方法で、当地での連携を通じて対応していくのが良いと思います。
大学地域産業連携以外にも、先端研究と連動した新事業を創出する人材や、半導体を活用して未来を創造する人材の開発・育成にも取り組まれているそうですね。
貴島:
はい。人材育成のWGや新事業創出のWGでは、最先端半導体を用いた新事業・新産業の創出力を高めるプログラムを組んでいます。新しい技術の研究を通じた即戦力の養成に、一丸となって取り組んでいるところです。
近藤:
半導体を作る・使うだけでなく、半導体によって新事業や新産業を創出していくトップタレントの育成にも取り組まれているのは、半導体が関わる産業の裾野の広さを鑑みると大変重要なことだと思います。
PwCコンサルティング合同会社 ディレクター 近藤 芳朗
近藤:
各地域には、産業構造やアカデミアの学び舎の在り方も、それぞれの特徴があります。地域コンソーシアムの活動とも関わるものですが、LSTCとして、今後どのような人材育成のコミュニティを目指していきますか。
貴島:
地域の特性を大切にし、地域と共に人を育み、成長していくコミュニティの形成を目標としています。各地域の強みを互いに尊重し、補完し合いながら共有する。その結果、日本全体が成長軌道を描くようなスパイラルを確立する――そして、地域格差を半導体産業の興隆のマイナスにさせない、地域格差が半導体を学ぶ人材の障壁にならないよう、「誰も取り残さない」人材育成に向き合い、半導体産業を盛り上げたいと考えています。
近藤:
多くの人を巻き込みながら、人材と地域、地場産業と業界全体が共に成長していけるという、いわば「共育」のコミュニティ形成を目指しているわけですね。そんなインクルーシブな半導体業界を盛り立てるには、人材不足を補うための分母の拡大と、さらに分子の拡大という2面のアプローチが重要になりそうです。
貴島:
まさにその通りで、分母の拡大は、裾野を広げることを意味します。半導体への関心を促す取り組みを、大学院生・大学生はもちろんのこと、高専生・高校生・小中学生まで視野を広げて展開しています。一方、分子の拡大を図るには、半導体への関心は高いものの、進路を迷っている層に向けて、業界理解を深める施策を強化します。
その一環として、2025年12月18日(木)に東京ビッグサイトで開催される「SEMICON Japan」で「学生によるアイディアソン~半導体と創る未来~」というイベントを開催します。
近藤:
「半導体の性能向上でロボットの自律化が進み、ヒトと自由に共存できるようになった世界はどうなるか」というテーマ設定の下、身近な生活・社会で起こり得る変化と新しい製品・サービスのアイデアを考え、発表していただくものですね。どのような発想が生まれるか、今から楽しみです。
近藤:
「SEMICON Japan」は、もう開催目前ですね。来場予定の若手技術者や学生など、高度な半導体人材の予備軍となる方へ向けて、メッセージをお願いします。
貴島:
さまざまなことに興味を持って学んでほしい、というのが最も期待することです。半導体業界に限らずとも、誰であれ、世の中には知らないことのほうが多いものです。常に関心の視野を広く持ちながら、高い視座で、ぜひ世の中を俯瞰(ふかん)していただきたいですね。自分の研さんのためにも常に向上心を持ち、アンテナを高く立てていれば、自分に合った仕事やフィールドに自ずとたどり着くはずです。
最近、「文理分断」という言葉を耳にしますが、いわゆる理系の人にもリベラルアーツの考え方は必要です。幅広い知識を身に付け、自分の「好き」を大事にしていただきながら、その先に半導体産業への扉が開くなら、こんなに嬉しいことはありません。
近藤:
私たちは今、AI向け半導体市場の拡大や後工程技術の重要性の高まり、地政学リスクの影響など、前例のない変化のただ中にいます。これらの課題に対処し、「半導体ニッポン」の再生を果たすため、PwCコンサルティングはLSTCと緊密に連携して、人材育成への貢献を続けます。PwCグローバルネットワークを生かして、共走・融合・協調を促しながら、技術革新と事業創造に寄り添っていきたいと考えています。
最後に、LSTCの今後の展望をお聞かせください。
貴島:
日本の半導体産業は1990年代後半から厳しい局面が続いてきました。その復活には、先の先を見据える視点と、人材育成が何よりも重要です。研究開発と人材育成の両輪を担うセンターとして、LSTCはしっかりとその役割を果たしていきます。
そのためにも、高度専門人材の採用・活躍を促す啓発活動を推進します。また、世界に目を転ずれば、「日本で活躍したい」と願う外国籍のスペシャリストももちろん多くいらっしゃいます。そんな方々に、インクルーシブな就労・生活環境の整備をサポートすることもLSTCの使命です。
半導体に興味がある人、業界を目指す人たちが何かで困った際、「LSTCに聞いてみよう」と思っていただける──そんな存在を目指し、今後も各所と連携し、日本の半導体産業の発展に貢献していきます。
近藤:
技術革新だけではなく、グローバルな人材ネットワークと多様な人々の共創によって、日本の半導体産業は再び存在感を示すことができると考えます。技術や共創を支えるのは人財です。人財育成は一朝一夕には成しえませんし、継続的な取り組みが必要です。また、半導体人財の裾野を拡げるためにもまずは多くの人に知ってもらうことが重要だと思います。しかしどうしても半導体の話題は難しく聞こえて敬遠されてしまいがちですので、日常生活にもはや欠かせないものであり、今後もAIやロボット、自動運転など次の世代に期待されている分野であるということを、分かりやすく伝えていきたいと考えています。
本日は、研究開発から人材育成、グローバルでの連携まで、半導体人材育成に関するLSTCの取り組みとその思いを詳しく伺いました。ありがとうございました。
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