インドの直接税の税務訴訟について

2016-10-28

インドでは税務訴訟が頻発しており、インドで事業運営をする上で避けて通ることが難しいものになっています。実際私が担当させて頂いている日系企業も昨年末から3月末にかけての2012年3月期または2013年3月期を対象とした直接税の定期税務調査の結果更正通知を受け取った会社の多くが税務訴訟の手続きを進めています。そこで今回はインドの直接税の税務訴訟の手続きについて説明させて頂きます。
インドでは日本と同様に税務訴訟の手続きには所定の段階が設けられており、最初から裁判所に審理を求めることは出来ません。更正通知の内容に不服がある納税者はまずCommissioner of Income Tax(Appeals)(以下CIT(A))またはDispute Resolution Panel(以下DRP)のいずれかに不服申立てを行います。次にIncome Tax Appellate Tribunal(以下ITAT)、高等裁判所そして最高裁判所へと進んできます。
最初にいずれかを選択することになるCIT(A)とDRPですが、共に税務当局に属しており、税務当局の担当官が不服申立てを審査します。両者の手続き上での主な違いを下記に纏めました。

 

CIT(A)

DRP

対象案件

全ての税務係争

国際税務(移転価格や恒久的施設など)に絡む税務係争のみ

決定の期限

なし
(実務上1‐3年程度)

更正通知の草案が発行された月の月末から9カ月以内

税金の預託

必要

不要

なお、DRPでは処理する税務係争が多すぎて決定までの期限内に十分な審理の時間が取ることが難しいため更正通知の草案通りの決定が下される傾向にあります。このため、実務上DRPに比べるとCIT(A)の方が納税者勝訴率の確率が高いと言われています。
次にITATですが、CIT(A)やDRPとは異なり高等裁判所や最高裁判所と同様に税務当局とは別個独立した機関となっています。また、担当官は法務省に属しており、所定の採用試験を通過した者が務めます。このため、納税者にとっては合理的な決定を期待できる環境となっており、実務上ITATでの納税者勝訴の確率はDRP、CIT(A)と比べて高いと言われています。ただ、ITATは多くの税務訴訟案件を抱えている一方で決定の期限はないことから、決定を受けるまでに実務上1‐3年程度かかるのが一般的です。また、税金の預託も必要となります。
現在最高裁判所まで税務訴訟が進んだ場合にはその解決までに10年以上の年月が必要となっています。モディ政権は税務訴訟の早期解決を政府の1つの目標としています。このため、政権発足以降毎年税務訴訟手続きの改正を行っており、この傾向は今後も続くと予想されます。このため、インドで税務訴訟を検討される際には日本とは税務訴訟の環境が全く異なることを念頭に入れつつ最新情報の収集に努めることが肝要と考えています。
最後に私事で恐縮ですが、5月をもちまして日本に帰国することとなりました。長い間このコラムをご愛読頂きまして有難うございました。少しでも皆様のお役に立てることがございましたら幸甚です。