
グローバルプロジェクトマネジメントにおける9つの留意点
20年以上にわたる日本、米国、アジア、欧州の複数拠点を巻き込んだグローバル環境での実経験をもとに、グローバルプロジェクトにおける9つの留意点を提示します。
2021-12-21
先端技術をもとにしたデジタル化の進展によって日々の生活は便利さを増し、スマートフォンを使ってほとんどの手続きや用事を済ませることができるようになりました。サステナビリティに関しても例外ではありません。先日も大手テクノロジー企業が、最も環境にやさしい道順を案内するサービスを開始したことがニュースとなりましたが、欧州では、消費者個人の生活がどれだけの二酸化炭素排出につながっているかを可視化する、カーボンフットプリントトラッカーと呼ばれるモバイルアプリもすでに広がっています。また、一般生活の中では飛行機を利用するインパクトがとても大きく、「飛び恥(フライトシェイム)」という言葉に代表されるように、欧州では域内の近中距離のビジネス出張においては、飛行機よりも鉄道の使用を推奨する企業が増えている傾向も見られます。
消費者がサステナビリティを重視して自分の消費行動を選択できる情報網が整いつつあることは、今後のBtoCビジネスを大きく変化させるでしょう。環境活動家のグレタ・トゥーンベリさんが日本を名指しして批判したことに加えて、英国グラスゴーで開催されたばかりのCOP26において日本に「化石賞」が与えられるなど、日本の環境対策の後れを揶揄される例がありました。今後、こうした声がSNSなどのデジタル媒体を通じて、より大きく拡散されるようになるでしょう。欧州で暮らしていると生活レベルに浸透しつつある環境配慮を強く感じますが、日本は消費面でも事業経営面でも、ESGの取り組みが大きく後れていると言わざるを得ません。
特に経営面のESGトランスフォーメーションという観点で、欧州は大きく動き始めています。ドイツでも総選挙を終えたところですが、環境対策を優先する「緑の党」が大きく躍進しました。その支持層は若者が多いと言われており、ドイツ政府がコミットしている環境目標が今後さらに短縮化される可能性も出てきました。ドイツでは2023年1月より、人権と環境に関するデューデリジェンスの義務(通称LkSG)が従業員数に応じて段階的に施行されます。世界的なパンデミックを経験するのと並行して、世界各地で起こる自然災害の深刻なニュースも多く、2021年は、気候変動を念頭とした環境対策に改めてアクセルを踏み込む1年となりました。
ESGトランスフォーメーションを検討するにあたって欠かせない要素が3つあります。
1つは、規制対策の観点だけではなく、自社のパーパス(存在意義)に照らし合わせた中長期的ビジョンとして、社会価値や環境価値を創出する具体的な道筋を立てること。2つ目は、デジタルトランスフォーメーション(DX)と結び合わせて改革を進めること。これは、データの可視化を通じてサプライチェーン全体にわたる二酸化炭素排出量のトラッキングがネットゼロの取り組みにおいては不可欠にもなることから、DXの後れが環境対策にも影響する可能性があることを意味します。そして最後の3点目は、一人一人の意識を今から変えていくことです。いかなるトランスフォーメーションにおいても、その施策が現場に浸透して定着するかどうかは各人の意識に依るところが大きく、啓蒙のためのチェンジマネジメントが促進要因になるのです。サステナビリティの意識が高い若手を変革の原動力にすることも、重要な加速要因になりそうです。
製品サービスのブランドとして、また雇用主としても、ESGへの取り組みの本気度が企業価値を大きく左右します。ESGのうち、環境要因(Environment)には、気候変動への企業の貢献(温室効果ガス排出量の削減、効率的なエネルギー使用、廃棄物管理など)が含まれます。社会的要因(Social)については、人権、労働基準(サプライチェーン、児童労働、職場の健康と安全など)が課題となるでしょう。ガバナンス(Governance)の要因は、さまざまな利害関係者間の権利と責任および期待を定義する原則とルール(管理と手順)を指します。
企業におけるサステナビリティとは、長期的な価値を生み出す組織能力です。その考え方は、イノベーションの新たな道しるべといっても過言ではありません。環境・社会・ガバナンスの要因に照らして、監査・税務、戦略策定から業務改革まで、包括的に焦点を当てる組織能力の早急な強化が求められていると言えるでしょう。
パートナー,PwCコンサルティング合同会社
15年以上にわたり日系グローバル企業の本社と海外拠点において日本人および外国人経営幹部を巻き込む変革コンサルティングに従事。本社機能の再編、地域統括会社の機能強化、バックオフィス機能の組織再編と業務改革、海外営業組織の再編と能力強化、M&A(DD/PMI)、海外経営幹部の選抜と育成、チェンジマネジメント、組織文化改革など国内外のさまざまな変革プロジェクトの経験を持つ。
シンガポールとニューヨークでの駐在など海外経験が豊富で、日本だけでなく、アジアや欧米のベストプラクティスに精通している。タレントマネジメントやチェンジマネジメントに関する講演や寄稿も多数。
2021年8月よりPwCドイツに赴任。
20年以上にわたる日本、米国、アジア、欧州の複数拠点を巻き込んだグローバル環境での実経験をもとに、グローバルプロジェクトにおける9つの留意点を提示します。
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