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2015-08-20
石油・ガスや鉱物資源などの探鉱・開発・生産を行う企業(以下「採掘企業」)は、資源国政府に対して、通常、税金やロイヤルティーなどを支払います。資源国には中東、アジア、アフリカなどの発展途上国が多いことから、資源国政府に対して、採掘企業から支払われた資金の流れの透明性を高めることで、政治腐敗や紛争を予防し、また、資源国の成長と貧困削減につながる責任ある資源開発を促進することを目的とした国際的な取り組みを実現するために、採取産業透明性イニシアティブ(Extractive Industries Transparency Initiative:EITI)が形成されています。EITIの目標は以下のとおりです。EITIに参加する国が増加することによって国際的な資源安全保障が強化され、資源の確保を輸入に頼っている非資源国の日本にとって、安定した資源確保の維持・強化につながることが期待されています。
発展途上にある資源国は、EITIへの加盟要件を満たすと「候補国(Candidate Country)」となり、2年半以内に全てのEITI認証要件を満たすと「遵守国(Compliant Country)」と認定されます(2015年4月現在、候補国は31カ国、遵守国は17カ国)。EITIは、これらの国に対して、採掘事業に関連する歳入と歳出の管理、および、その情報管理・説明責任を高める責務を求めています。資源国政府が不当な資金利用を行うことなどを防止するとともに、採掘企業が資源国に対して適切に税金などの資金を支払うことを担保しています。また、EITIの目標に賛同する先進国である資源国や消費国は、「支援国」としてEITIに参画し、発展途上国が安定的に持続可能な国家を構築することを支援しています。日本もEITIの目標を支持する支援国となっており、日本の採掘企業に対してEITIへの支持を奨励する姿勢を表明しています。
昨今、いくつかの支援国では自国の法制度として、一定要件を満たす採掘企業に対して、資源国政府へ支払った税金やロイヤルティーなどの金額などの開示を要請することによって、EITIの目標である「資源国政府に対する資金の流れの透明性向上」に寄与する動きがあります。主な国の法制度化の状況は以下のとおりです。
既に法制度が施行済
国名 |
法律の名称 |
状況 |
ノルウェー |
‘Report on Payments to Governments’(‘Lov om rapportering om betalinger til myndigheter mv.’, hereafter ‘the transparency rule’) |
2014年1月1日発効、2014年1月1日に開始する会計年度から適用 |
英国 |
The Reports on Payments to Governments Regulations 2014 |
2014年12月1日に発効、2015年1月1日以後開始する会計年度から適用 |
カナダ |
The Extractive Sector Transparency Measures Act (ESTMA) |
2015年6月1日に発効、2016年1月1日後に終了する会計年度から適用 |
法制化検討中の国
国名 |
法律の名称 |
状況 |
EU |
EU Accounting Directive - chapter 10 REPORT ON PAYMENTS TO GOVERNMENTS |
2013年6月承認、EU加盟国は2015年7月までに発効する必要がある |
米国 |
Section 1504 of the Dodd-Frank Act |
2012年8月にSECが最終ルールを承認したが、2013年7月に連邦裁判所によって無効とされ、再検討が行われている |
オーストラリア |
Corporations Amendment (Publish What You Pay) Bill 2014 |
2014年10月に上院議会に提出 |
各国の法制度または法案の主目的や求めている報告事項の大枠は類似するものの、法制度の対象となる企業や開示が必要となる支払額水準などが異なっています。
既に法制度が施行済
国名 |
対象企業 |
開示対象支払額 |
ノルウェー |
採掘事業または原生林の伐採を行うノルウェー登録企業または上場企業のうち、以下の2つを満たす企業
|
NOK800,000以上 |
英国 |
採掘事業または原生林の伐採を行う英国登録企業で、
|
£86,000以上 |
カナダ |
カナダまたはその他の場所で石油・ガス、鉱物の商業的生産に携わっている、あるいはそのような企業などを支配している法人、信託、パートナーシップ、その他の非法人型組織で、
|
CND100,000以上 |
法制化検討中の国
国名 |
対象企業(法案より) |
開示対象支払額 |
EU |
採掘事業または原生林の伐採を行う大企業(以下のうちの2つを満たす場合)、公益会社
|
EUR100,000以上 |
米国 |
米国上場している石油・ガス、鉱物の商業的生産に携わっている企業(米国企業、外国企業、国有企業) |
USD100,000以上 |
オーストラリア |
各国で資源採掘活動に携わっている、または資源採掘活動に携わっている企業の持株会社であるオーストラリア公開企業、親企業(以下のうちの2つを満たす場合)
|
AUD100,000以上 |
上述の支援国における採掘事業に参画している日本企業には、各国の法制度に基づき開示義務が課される可能性があります。
日本の採掘企業は、世界各国の資源国で採掘事業を行っており、自らが事業を営むケースや、現地子会社を設立してその子会社が事業を営むケースなどさまざまです。また、採掘事業には多額の出資や掘削・生産などのための大規模な設備などが必要とされ、生産物の取引金額(すなわち売上高)も多額に及びます。そのため、日本の採掘企業あるいは子会社が前述の法制度または法案の対象企業に該当する可能性も想定され、海外法制度を適切に遵守するためには主に以下のような準備を行うことが必要と考えられます。
前述のとおり、法制化に取り組んでいる国のほとんどは、EITIの支援国であると同時に資源国でもあります。つまり、途上国である資源国政府に対する資金の流れの透明性向上を支援するとともに、資源国として自国の歳入・歳出の管理や説明責任の実行にも応える点でも法制化を行う意義があると考えられます。一方で、日本は、EITIの支援国であるが資源国ではないことから、日本自国の法制度として採掘企業に対して資源国政府への支払いに関する開示を要請する必要性はそれほど高くないと考えられるものの、各国の動きを踏まえ、今後の日本の動向が注目されます。
PwCは、これらの法制度の影響を受ける採掘企業に対して、各国法制度に関する情報提供、法制度を適切に遵守するための準備支援や、法制度適用後の監査・保証業務などを提供します。特に、日本企業(その海外子会社を含む)が海外法制度の適用対象となるかどうかについては、当該法制度の理解や解釈を早期に行うことが重要です。PwCあらた監査法人では、PwCネットワークを利用して、現地PwCから詳細な情報を入手するとともに、現地実務を踏まえたアドバイスを提供します。
PwCあらた監査法人
パートナー 加藤 真美
パートナー 小林 昭夫
シニアマネージャー 熊田 崇史
マネージャー 伊東 恭子