
ブロックチェーンのガバナンスと安全管理上の考慮事項
ブロックチェーンは幅広い領域での応用が期待される一方で、そのテクノロジー的優位性を生かすためにはガバナンスやマネジメントの視点が欠かせません。本稿では暗号資産販売所を例に、ビジネスの各フェーズにおいて考慮すべきガバナンスについて概説します。
中編ではPwCが考える「安全・安心な情報を共有できる」世界観と、健康証明を活用したリスク管理やビジネスへの応用方法を紹介しました。
話を現実に戻すと、健康証明のプラットフォームは、既に国内外で政府や企業により提供されています。PwCコンサルティングもその一つです。緊急事態宣言直後から、従業員の安全と健康の確保および感染防止を最優先とした出社対応方針を打ち出すと共に出社管理システムを導入し、全従業員の日々の出社予定を管理していますが、この仕組みを拡張する形で、従業員の健康情報とブロックチェーンを活用したMinimum Viable Product(MVP)を開発し、一部で実証実験を進めています。これは、オフィスに出社予定の従業員が出社管理システム上で「出社予定あり」と申告すると、各々の健康情報を蓄積したデータベース(MVP)で従業員の状態を突合し(健康情報が登録されていない場合は登録を依頼)、出社の可否を判断します。そして出社当日、従業員から出社管理システムに提出された体温をもとに健康情報データベースが出社の安全性を再度確認し、通知するという仕組みです。
ただ前編で紹介した通り、こうした開発は各国独自で進められる傾向が強く群雄割拠の様相を呈しているため、今後、各国で登録された健康証明を入国手続きで使用したり、海外の健康証明を国内施設で利用したりするには、乱立した健康証明を相互利用するための標準方式を定める必要があります。そして、個人情報を除いた健康証明の発行記録を、第三者の信用を必要としないブロックチェーン基盤に載せることで、一定の信頼性を担保し、国をまたがった利用が可能になるのです。この基盤をベースに各国・各事業者が創意工夫をすることで、さらなる利便性向上が図れると考えます。
このように多方面にわたるステークホルダーが関わる中でブロックチェーン基盤を構築する場合、コンソーシアムの形成が最も効果的な手段です。今回のユースケースでは、利益享受者は世界中の人々、主要な参加者は国、運輸・輸送企業、人が集まる大型施設、医療機関などが想定されます。コンソーシアムの各参加者が、各自の領域で作成した管理データを共通プラットフォームに載せ、さらに他国データも取り込むことで、データ連携効果を最大化することができると考えられます。
コンソーシアムの実現にあたっては、国の後押しが不可欠です。内閣の安心・安全な経済活動への回復加速に向けた舵取りのもと、健康情報管理基盤の利活用を中心に据え、各省庁が積極的かつ効果的に連動・協業することが強く求められます。
最後に、健康証明普及までのロードマップを提示します(図表11)。COVID-19の発生により注目される健康証明を有効に活用するためには、現在の乱立したサービスを横断して情報を共有できる体制構築が必要であり、それにはブロックチェーンの活用が効果的だと考えます。
将来的には自己主権型IDと統合され、個人が健康情報を主体的に管理する社会の実現を想定しており、このような社会の実現に向けてブロックチェーン技術も、個人情報の秘匿化技術、健康証明や自己主権型IDに関するプロトコルの整備、ブロックチェーンネットワーク間の相互接続といった進化が求められます。ブロックチェーンの利用者は主要な法人や官公庁、医療機関から始まり、国内商業施設や飲食店、やがては個人へと広がっていくでしょう。利用の拡大に合わせて、個人情報保護や行動制限に関するさらなる法整備、海外法との整合なども必要とされると考えられます。
COVID-19の世界的感染拡大により、自身の健康状態の把握と健康情報の迅速かつ正確な共有の重要性が、世界全体であらためて認識されています。ウィズコロナの世界を健やかに生きるために、また今後起こり得るパンデミックの発生に備えるために、私たち一人ひとりがデジタル健康証明を活用し、社会全体で適切にその情報を共有しながら日常を送るという生活様式は、近い将来、当たり前になるかもしれません。
*1:PwC, 2020年. “Time for Trust, The trillion-dollar reasons to rethink blockchain”
※法人名、役職、インタビューの内容などは掲載当時のものです。
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