
ブロックチェーンのガバナンスと安全管理上の考慮事項
ブロックチェーンは幅広い領域での応用が期待される一方で、そのテクノロジー的優位性を生かすためにはガバナンスやマネジメントの視点が欠かせません。本稿では暗号資産販売所を例に、ビジネスの各フェーズにおいて考慮すべきガバナンスについて概説します。
前編では新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響と現状の課題、社会変容に対するブロックチェーンの適用可能性、テクノロジーを活用したCOVID-19対策の国内外の例をまとめました。
私たちが、人と人との関わりを大切にする人間らしい生活様式を取り戻すためには、経済活動の活性化とCOVID-19感染拡大阻止の両立が必要で、そのためには人々の健康データ(健康情報)の活用が重要です。医療機関が発行した健康に関する情報(PCR検査結果、退院証明など)のうち、陰性証明をはじめ自身の健康を証明するものを「健康証明」と呼びます。電子化した健康証明をスマートフォンなどに登録し、いつでもどこへでも持ち歩くことができれば、家族や職場など、日常生活の中で接する人々に安心を提供でき、安全にコミュニケーションを取ることができるようになるでしょう。ブロックチェーン技術を活用して健康証明の正確性を担保し、安心・安全な情報を共有できれば、よりよい世界を築くことができると私たちは考えます。
先に私たちが考える理想をお話ししましたが、健康証明を信頼あるものにするためには乗り越えなければならない課題があります。
そもそも感染リスクを評価する情報の一つであるPCRといった検査の結果の証明書は、基本的に紙で発行されます。全ての国民に対して紙の陰性証明書の携帯を義務付けるというのは現実的ではありませんから、いつでも必要な時に自身の健康を手軽に証明するには、健康証明のデジタル化が求められます。
また、時の経過や人と接する場所、場面、さらには職種によって感染リスクは異なることが想定されるため、それらを加味した感染リスクのレベル分けも必要になります。検査結果一つとっても、同じ陰性でも検査内容の強度、検査結果の信頼性、検査実施時期などによって安全度は変化します。そのため健康証明に確固たる信頼を付与するためには、健康に関連するデータを指標化し、安全度がレベルにより可視化された状態にすることが有効と考えられるでしょう。これを実現できれば、ビジネスにおいても、サービス受領者は客観的評価を受けた健康証明に基づく安心・安全なサービスを選択でき、サービス提供者も同じ指標のもと、健康証明を保有する顧客を選択することが可能となって、感染リスク低減と経済活動を両立できるようになると考えられます。
では、健康に関連するデータの指標をどのように定義すればよいのでしょうか。健康状態の証明方法には、体温検査、PCR検査などの検査結果や、ワクチン接種の有無、医療行為による回復の推移などが考えられます。また、これらが誰によって測定されたか、つまり自己申告かそれとも医療機関による証明なのかも、指標の信頼性に影響すると考えられます。さらに検査日からの経過日数や「3密」行動など、レベルダウン要素も考慮しながら評価することで、人々の健康状況(感染リスク)の定量的な可視化の可能性は高まるでしょう。これらの指標を用いて可視化された健康状況を「健康証明レベル」とここでは定義します。
この健康証明レベルは、感染拡大防止と経済活動の両立を実現する上で非常に大きな意味を持ちます。例えば同レベルを8以上に分け、職業や施設、勤務形態や移動手段に応じて、求められる健康証明レベルを分けていきます。職業を例にすれば、人との接触機会が多く感染リスクが高いエッセンシャルワーカー、施設であればスタジアムや大きなホールに代表される大型収容施設への入場、勤務形態であれば移動距離が長くなる海外出張などに、高い健康証明レベルの取得を義務化するのです。
一方、人との接触回数が少ないオフィスワーカー、身近な飲食店・小売店、移動距離の短い鉄道・バス・タクシーの利用などには低い健康証明レベルを求めるのに留め、リスクを許容する基準を定めた上で、経済活動とのバランスを図るのです。このように、感染リスクを伴う職業や行動によって段階的な健康証明レベルを義務化することで、感染リスクの最小化と経済活動の両立を図ると共に、健康維持をインセンティブとした、社会全体の安全につながるエコシステムの形成を目指すことができるようになります。
健康証明レベルの普及は人々の健康維持へのモチベーションをさらに喚起し、経済活動に好循環を与えると考えられます。例えば、ワクチン接種や体温測定連続100日を達成するとレベルアップするといったゲーミフィケーションを取り入れたり、健康証明レベルと各種ポイントプログラムを連動させてレベルアップをポイント獲得に結びつけたりしてもよいかもしれません。健康証明が高いレベルでないと参加することができない有名アーティストのライブイベントや旅行ツアーの開催なども、インセンティブ施策の一つになるでしょう。健康証明レベルの可視化は、各地域による観光誘致につながる可能性もあるのです。
前述の通り、ウィズコロナの世界においては、健康証明はさまざまなビジネスへの活用の可能性を秘めています。私たちはこれを、独自のコンサルティング手法である「未来創造手法」を用いたアイディエーションと組み合わせることで、新規性が高くチャレンジングなビジネス企画を創造できると考えています。ここでは、アイディエーションの例として自社向け施策、顧客向け施策、 他社との差別化施策の3点を挙げます。
真っ先に考えられるのは、従業員の健康配慮によるエンゲージメント向上です。エンゲージメントとは、従業員と会社がお互いに貢献し成長できる関係になっているかといった観点から、従業員と企業の絆の強さを表す概念で、従業員による自発的貢献意欲を指します。これを向上させる施策として、健康証明レベルの付与が考えられます。
COVID-19感染拡大の最中、来店客急増と感染対策に奔走する現場を慰労する目的で、小売各社が従業員に金銭を支給するという例が多数見られました。一方で、感染リスクの高いエッセンシャルワーカーにおいては、金銭的支援だけでは感染への不安を拭い去ることはできません。そこで、定期的な検査機会の提供と感染対策器具の配布を実施した上で、出勤者に対し一定の健康証明レベルを義務付けるのはどうでしょうか。この施策により、検査費用の負担減、優先的な検査機会の提供、同僚からの感染リスク低減、周囲からの風評被害の未然防止、感染の加害リスク減少などの従業員メリットを創出することができます。エッセンシャルワーカーのケースに限らず、将来的には来訪者(患者・顧客など)にも健康証明を適用できれば、職場の安全度をさらに高めることが可能になります。
顧客に対して安心感を訴求し、関係性を強化するという施策が考えられます。非対面営業の導入で手間やコスト省力化といったメリットが顕在化する一方で、営業現場では、顧客との関係性の希薄化をはじめ、悪影響を危惧する声も出てきています。健康証明を活用した安心・安全な対面営業により、対面・非対面双方のメリットを生かしたハイブリッドな営業スタイルを実現できるでしょう。
デジタルを積極的に活用して社会変化にいち早く対応し、先進性をアピールすることが大きな差別要素になります。特にCOVID-19の影響で低迷している公共交通機関やエンターテインメント・イベント・旅行業界などでは、健康証明による安全性の訴求とインセンティブ付与、限定イベント開催、特定顧客向けキャンペーンなどの施策実施が、他社との差別化を図る上で効果的でしょう。
あくまで健康証明を実現した上での話ではありますが、このような自社向け、顧客向け、他社差別化の施策は、人々の健康増進と社会の安定に貢献するサステナブルな取り組みであり、企業ブランド価値の向上が期待できます。
後編では、PwCの一部で実証実験を進めている従業員の健康情報とブロックチェーンを活用したMinimum Viable Product(MVP)の開発について紹介をします。
※法人名、役職、インタビューの内容などは掲載当時のものです。
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