
ブロックチェーンのガバナンスと安全管理上の考慮事項
ブロックチェーンは幅広い領域での応用が期待される一方で、そのテクノロジー的優位性を生かすためにはガバナンスやマネジメントの視点が欠かせません。本稿では暗号資産販売所を例に、ビジネスの各フェーズにおいて考慮すべきガバナンスについて概説します。
COVID-19の拡大は世界経済に多大な影響を及ぼし、人々の生活を一変させました。多くの企業は従業員や顧客の安全、感染拡大防止のために大胆なデジタル化に踏み切り、今やリモートワークは業務形態の選択肢の一つとして幅広く受け入れられつつあります。
そんな中、ブロックチェーンがデジタル化の追い風を受け、再び注目されてきています。特定の管理主体に依存せず信頼を担保できるブロックチェーンの特徴を生かし、COVID-19流行下のデータ保全や在庫管理などに活用するケースも出始めています。一方でブロックチェーンは技術も市場もまだまだ成熟していません。実際、ブロックチェーンに係るユースケースの9割は実証実験に留まり、商用化に至っていないとも言われます。
このように次に飛躍するための準備段階にあるブロックチェーンが今後、ビジネスプラットフォームとして普及するためには、どのような課題を克服するべきなのか。過去の事例から得られた知見や課題を紐解きながら、連載で考察します。今回は、ニューノーマル時代におけるブロックチェーン活用シーンの考察や、PwCが取り組むブロックチェーンを活用したCOVID-19対策、事態の収束と経済活動の再開に向けたテクノロジー活用の可能性について前編、中編、後編に分けて取り上げます。
本題に入る前に、COVID-19が日本経済に与える影響について、現状を確認しましょう。全国の感染者数の推移を見ると、収束までにはまだ時間を要すると思われ、COVID-19に起因した企業倒産件数も増加している現状にあります。緊急事態宣言の発令と感染者数推移から、「Stay Home」が感染者数の抑止につながるのはほぼ明らかになりました。その後、ワクチンなど抜本的な解決策がない状況で感染増加を抑止するためには、ソーシャルディスタンスを継続せざるを得ず、観光業や旅客輸送業、飲食業などの売上に影響を与えているものと考えられます。*1*2
特に、人の移動(人流)に依存した公共交通機関の業績影響は大きく、航空会社は国際線を中心に旅客数が激減し、危機的状況にあります。また、観光業も同様に大打撃を受けており、日本政府のGo To Travelキャンペーンによる救済措置の対象となったことは周知の通りです。*3
COVID-19は、働き方にも大きな影響を及ぼしています。PwCグローバルネットワークが2020年6月に実施した350社以上の人事部門、グローバルモビリティ関係者を対象とした調査「COVID-19:グローバルモビリティと海外派遣者へのインパクト」によると、約1/3の企業が、COVID-19拡大は、海外派遣の在り方やグローバル異動の必要性に根本的なインパクトを与えると考えており、海外派遣者数は減少すると予想しています。また、半数の企業がクロスボーダーでのリモートワーク勤務者は増加すると予測しています。*4
PwCは先ごろ、グローバル調査「世界の消費者意識調査2020」を発表しました。COVID-19の発生を経て消費行動が加速度的に変化する中、カスタマージャーニーのさまざまな局面に与えた影響を明らかにし、企業と消費者間の関係が今後どう変化し得るかを考察しています。本調査では、消費者体験は安全性とアクセス容易性に根ざす必要があること、デジタル利用が高まり消費者行動が多様化すること、また、健康ケアに対するイノベーションを優先することで長期的に顧客の支持を受けることになることを示唆しています。*5
このように、COVID-19の流行が人々に与えた不安やストレスは価値観やニーズの変化を引き起こし、人々の行動パターンをも変えています。こうした変化の一部は一過性のものではなく、ニューノーマルとして社会に定着する可能性があります。
COVID-19による顧客ニーズの変化に対応するためには、企業と顧客、従業員、取引先との関係におけるデジタル化の推進はもはや不可避と言えるでしょう。図表2に、各ステークホルダーとの関係をいかにデジタル化するかの例を示しました。デジタル化適用領域の中には「信頼をデジタルで創造するエコシステム」を構築することがカギとなる領域が少なくありません。そこで有用と考えられるのが、ブロックチェーンです。図表2の(1)~(4)の領域は、ブロックチェーン適用により、高付加価値を提供できる可能性が高いと考えられます。以下に内容を記します。
治療・感染状態などの情報をブロックチェーン上にアップロードして従業員の健康を逐一把握・証明することで、職場環境の安全性確保を実現できる可能性が高まります。
例えば食料や医療品などを自治体の住民に配布するとします。交換所の混雑情報をブロックチェーン上で共有し、分散化を図ることで、人が集中するのを避けられるだけでなく、受け取り手が本人であるかの自動確認をも実現できます。
署名や捺印といったアナログな作業のために出社せざるを得ない方は少なくないのではないでしょうか。ブロックチェーンを用いれば、契約業務の電子化と、付帯する請求や契約変更、支払いといった各業務の自動化を、高い安全性のもとで運用できるようになると考えられます。
在庫可視化・配分最適化・転売防止・追跡による真正性証明などを目指し、複数ステークホルダーを含むサプライチェーンマネジメント(SCM)の体制を構築することで、在庫不足の回避や偽造防止といった効果も期待できます。
ではここからは、ブロックチェーンをはじめとするテクノロジーが、COVID-19対策そのものにいかに活用できるのかを考えてみましょう。現在、各国において、Bluetoothやブロックチェーンなどを活用したソリューションが多く存在するようになっています。PwCグローバルネットワークにおいては、スペインで従業員向けのPCR検査結果管理のソリューションを、キプロスで医療機関向けに検査結果記録を行う基盤を、米国で航空会社向けに乗客・スタッフ・機体の座席をそれぞれ検査し、「COVIDフリー」を保証できるフライトを実現するソリューションを提供しています。ただ、こうした取り組みは国ごとに行われる傾向があり、足並みが揃わず乱立の様相を呈しているのが実情です。今後は、国レベルで連携できるような構想を踏まえた設計が必要と考えられます。
各国では渡航制限が部分的に解除され、スポーツ観戦が人数制限付きで再開されるなど、私たちは元の生活を少しずつ取り戻しつつあると言えます。しかしながら、残念なことに感染拡大には歯止めがかかっていません。日本では、厚生労働省によるアプリケーションを用いた感染状態の全国調査に始まり、情報把握・管理支援システムや接触確認アプリの導入により、COVID-19感染の情報収集・開示・拡大阻止の対策を講じています。今後は、感染可能性の警告に留まらず、感染の抑止と経済活動の両立に向けた施策も必要とされています。COVID-19との共存を前提とし、いかに安全対策を採っていくかが重要視されるでしょう。
感染拡大阻止と経済活動活発化の両立を前提とすると、感染症対策には長期に渡った取り組みが必要です。感染拡大阻止のためには、感染リスクの最小化、感染把握の迅速化、二次感染最小化のいずれも必要ですが、感染リスク最小化のためのデジタル施策はいまだ明確な形になっていないと思料します(図表4)。
テクノロジーを活用し、それを有機的に連携させることが、現状を打破する大きなきっかけになる可能性があります。例えば、海外で登録された健康データを国内で参照・確認できるようになれば、再検疫の省力化や隔離期間の短縮を実現できるかもしれません。海外での陰性証明を用いて入国が可能となれば、隔離されたり帰国を強制されたりするリスクを低減できることから、インバウンド需要をより喚起できる可能性があります。データを活用したデジタル施策が安全・安心な人流を後押しし、経済活動の活発化にも貢献すると筆者は考えます。
上記を実現するためには、国内外の多数のステークホルダーが、それぞれ保有するデータを公共活用すること、すなわち信頼できるデータ基盤が必要です。リレーショナルデータベース(RDB)やアクセス制御などの既存技術では安全性や信頼の面から実現が困難なことが予想されますが、その解決を担う期待がブロックチェーンにあります。ブロックチェーンの活用には、データ信頼性の課題を克服し、国を挙げて感染拡大阻止と経済活動活発化に貢献するデータ基盤を構築できる可能性が秘められています。
以上、前編ではCOVID-19の影響と現状課題を認識した上で、社会の変容に対するブロックチェーンの適用可能性について考察し、国内外の感染拡大の対策におけるテクノロジーの活用状況についてまとめました。中編と後編ではブロックチェーンを活用したCOVID-19および将来発生し得る新型感染症への対策について、PwCが考えるテクノロジー活用のあるべき姿とそれに向けた取り組み、実現へのロードマップをお届けします。
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