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2021-06-14
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大の影響を受けて、税制および国税当局の執行の在り方も大きく変わろうとしています。
デジタルトランスフォーメーション(DX)を含め、税務環境の変化は納税者にどのような影響を及ぼすのでしょうか。また、アフターコロナの社会における税務行政への対応にあたり、企業側にはどのような備えが必要になるのでしょうか。こうした状況に対し、PwC税理士法人において、長年、移転価格税制に関連する企業課題の解決に取り組んできた移転価格グループのプロフェッショナル3名が、税務を通じた社会貢献を切り口に、移転価格税制の最新動向について考察します。
本鼎談のパート1では、2021年1月に国税庁が公表した「アフターコロナにおける税務行政の在り方に関する一考察」をベースに、PwC税理士法人の国際税務サービスグループのメンバーが税務を通じた社会貢献を切り口に意見交換し、デジタル化への提言などを行いました。引き続きパート2では、移転価格税制の重要課題の一つである相互協議をテーマに、その適切な対応方法について議論を深めていきます。
PwC税理士法人 国際税務サービスグループ(移転価格)
パートナー 黒川 兼
ディレクター 城地 徳政
ディレクター 藤澤 徹
(左から)黒川、城地、藤澤
黒川:
BEPS(Base Erosion and Profit Shifting: 税源浸食と利益移転)プロジェクトについて伺います。2015年9月に経済協力開発機構(OECD)は同プロジェクトの最終報告書を公表し、それから5年以上が経過しました。各国・地域において国別報告事項(CbCR)・マスターファイルをはじめとしたBEPS対抗措置が導入・実施されたことに伴い、納税者の確実性および予測可能性を確保するため、相互協議・紛争解決の実効性を高めることがより強く求められるようになりました。日本の相互協議の現状について教えてください。
城地:
日本の相互協議の現状については、発生・繰越件数ともに増加傾向にあります。特に繰越件数は 500件を超えており、過去最多の水準です。繰越件数の地域別内訳(図表1参照)をみますと、アジア・大洋州地域における繰越件数は262件であり、米州や欧州と比べて、圧倒的に多くの事案が未処理として残っています。さらにその内訳として、移転価格課税事案に係る繰越件数の割合が、米州や欧州と比べて高いと言えます。
PwC税理士法人 ディレクター 城地 徳政
図表1:相互協議事案の繰越件数
出典:国税庁.「令和元事務年度の「相互協議の状況」について」
https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2020/sogo_kyogi/index.htm
藤澤:
アジア・大洋州地域の相当部分はアジア諸国が占めていますね。日本課税事案が多いのでしょうか。かつて国税局で調査に関与した私の感覚からすると、相手国課税がそれほど生じているとは思えないのですが。
城地:
この移転価格課税事案には、もちろん日本による課税事案も含まれていますが、アジア諸国による相手国課税の事案も相当数あるものと推察されます。したがって、今後、中国をはじめとするアジア諸国との協議をいかに効率的に進め、紛争の解決を図っていくか、という点が大きな課題と考えます。
黒川:
アジア諸国による相手国課税事案の増加が、相互協議全体の繰越件数が年々増加傾向にある原因のひとつになっているのですね。
PwC税理士法人 パートナー 黒川 兼
黒川:
OECDのBEPS最終報告は、BEPS対抗措置による新たなルールの導入に伴って生じ得る不確実性や、予期せぬ国際的な二重課税の発生に対し、紛争を解決するための相互協議をより実効性あるものとするための措置を勧告・提言しています。具体的にはどのようなものでしょうか。
城地:
具体的には、行動計画14(相互協議の効果的実施)において、紛争を解決するための相互協議をより実効性のあるものとするために17項目にわたる「ミニマムスタンダード」(最低限の措置として各国がその実施にコミットしなければならないもの)を勧告しています(図表2参照)。
図表2:BEPS行動計画14におけるミニマムスタンダードの概要
注)行動14「紛争解決メカニズムの効率化(国税庁仮訳)」を基に作成
http://www.nta.go.jp/sonota/kokusai/beps/pdf/003.pdf
黒川:
では、この17項目の「ミニマムスタンダード」のうち、いくつかの項目を取り上げたいと思います。まずは、6番目の「ミニマムスタンダードの遵守状況のピアレビュー」についてです。各国・地域から、実施結果が続々と公表されていますね。
城地:
これは、各国・地域の行動計画14のミニマムスタンダードの実施状況についてモニタリングおよび評価をするものであり、ご認識のとおり、その各国・地域からの評価結果についてはOECDより報告書として公表されています。このピアレビューにおいて、各国・地域のミニマムスタンダードの実施状況がモニタリングされ、その実施が担保されていくこととなります。
次に注目したいのが、10番目の「MAP(Mutual Agreement Procedure:相互協議)担当職員の権限確保」と13番目の「MAPの税務調査部門からの独立」についてです。相互協議手続きを機能させ、協議での合意・解決を実効性あるものとするためには、相互協議部局独立した権限を有していること、課税に直接関与した調査部局の影響を受けることなく独立性をもって判断できる権限を有していることがとても重要であるとされています。
黒川:
アジア諸国においては、相互協議担当職員の調査部門からの独立性が必ずしも担保されていないように見受けられます。これまで協議の際に課税を行った調査担当部局の職員が参加しているケースもあったと聞きます。そうすると、相互協議部局において解決に向けた柔軟な譲歩というのは、なかなか提示しづらくなってくるのではないでしょうか。
藤澤:
私は、移転価格調査・事前確認審査・相互協議のそれぞれの部署で勤務した経験があります。国税庁での職務は、職務の納税者である企業の所得を検討する立場である一方、過去の実績を把握している立場、将来の所得を予測する立場、二重課税排除を担う立場と、それぞれがとても強い使命感を負っています。しかしながら、OECD移転価格ガイドライン(1.13)の「移転価格の算定は厳密な科学ではなく、税務当局および納税者の双方の立場に立った判断を行うことが求められていることを想起すべきである」という点に鑑みると、移転価格においては、二重課税の排除はとても重要な側面を持つと感じました。
城地:
移転価格の執行に関わる複数部署の担当者は、各部署の目的や使命を達成すべく業務を真摯に遂行しています。すると必然的に結果をそれぞれがどう評価するかという問題が生じます。この問題に触れているのが11番目の「権限ある当局の業績指標」についてです。これは、相互協議部局担当職員の業績指標や業績評価基準について、「協議において維持された調査所得金額または税収の維持などの基準によって評価されてはならないと明確に定めるべき」との指針が示されています。つまり、適切な業績指標に基づいて評価されることを定めるべきということです。例えば、「解決した相互協議事案件数」や「一貫性(同様の事実・状況であれば『consistency:一貫した方法』に基づいて適用されるべき)」といった指標が挙げられます。
黒川:
調査で更正処分を受けた場合、納税者の立場からすれば、二重課税さえ排除されれば、関係当事国によって税率の差はあっても、どちらかで納税すればいいという面もあります。しかしながら、調査期間中、納税者は調査官に対して、自分たちの移転価格が正しいということを主張する一方で、相互協議による更正処分金額の減額を考えることがあるかもしれません。
城地:
確かに、それも一つの見方ではありますが、一貫した方法の適用は、行政の透明性にもつながるものです。言い換えれば、納税者にとっては、納税にあたっての予測可能性が高まるということではないでしょうか。
藤澤:
確かに、クライアントに対して、リスク評価を説明する際には、当局の一貫性が一つの大きなポイントになっています。相互協議担当者によって、アプローチが多少異なっても、例えばある国においては、この分野で確たるポリシーを持っているため譲歩を得ることは難しいといった情報があることは、納税者にとってはとても重要です。また、将来の移転価格リスク低減を検討する上でも有用です。
黒川:
日本の国税庁の相互協議室の担当職員数は、約50名の規模と聞きました。日本との協議件数の多いアジア諸国など、他国の状況はいかがですか。
城地:
12番目の「MAP機能の十分なリソース確保」で取り上げられているとおり、特にアジア諸国においては、相互協議を担当する部局が租税条約交渉など他の業務を行っていたり、専担的に協議に行うセクションの組織的な整備がなされていなかったりします。また、協議にあたって十分なマンパワーなどのリソースが確保されておらず、円滑かつ迅速な協議の進展を阻害する要因の一つとなっていると考えられます。
黒川:
OECDから、2020年11月にディスカッションドラフト(討議草案)が公表されました。その内容について教えてください。
城地:
まずは、「実効性ある紛争解決の実施」についてです。BEPS行動計画14(相互協議の効果的な実施)については、現在も2020年レビューが進行しています。2020年11月にディスカッションドラフトが公表されてから、BEPS最終報告書における17のミニマムスタンダードの強化・拡充が大きな論点となっています。
2021年2月にはOECDのパブリックコンサルテーション(公開諮問)が開催されました。OECD事務局の説明によると、移転価格に係る相互協議において75%が完全合意とされているものの、残りの25%は不合意または部分合意などとなっており(図表3参照)、必ずしも二重課税が完全に排除される結果とはなっていないようです。
PwC税理士法人 ディレクター 藤澤 徹
図表3:移転価格に係る相互協議の結果(OECDによる2019年集計データより)
出典:OECD WEB TV.「Public Consultation on BEPS Action 14」投影資料を基に作成
https://oecdtv.webtv-solution.com/7435/or/Public-Consultation-on-BEPS-Action-14.html
藤澤:
アジア諸国との協議においては、近年では特に中国やインドネシア、韓国において、不合意または部分合意の事例が散見されます。完全に二重課税が排除されない、あるいは何らかの形で二重課税が残るという結果は、納税者にとってみれば、相互協議および紛争解決がうまく機能していないこと、そして、税の確実性と予測可能性が確保されず、クロスボーダー取引や投資の障害となることが懸念されますね。仲裁制度による解決は難しいのでしょうか。
城地:
この仲裁制度は、相互協議手続きの実効性を高めるものとして、とても有効な手段であると評価されています。2020年レビューについては、仲裁またはその他の紛争解決メカニズムをミニマムスタンダードとすべき、との議論がなされています。
藤澤:
日本においても、この仲裁条項については租税条約締結ポリシーとして、締結している24の租税条約に導入済みですね(図表4参照)。
図表4:日本が締結した租税条約における仲裁手続の導入状況
城地:
はい、そのとおりです。ただし、図表4のようにそのほとんどはOECD加盟国である先進国との租税条約での導入であり、シンガポールを除くアジア諸国との条約においてはまだ導入されていません。今後、実効性ある紛争解決に向けては、特にアジア諸国との租税条約において、仲裁規定の導入が期待されます。
国税庁、東京国税局での30年間の勤務経験を持つ国際課税の専門家。2014年2月にPwC税理士法人の東京事務所に入社。東京国税局では、15年以上にわたって大企業、多国籍企業の移転価格調査の企画・実施、事前確認審査を担当。国際情報第一課の上席国際専門官として、移転価格調査事案のすべての管理および他国税局の移転価格調査事案のサポートを担当。国税庁での3年間の相互協議経験も有し(米国、オーストラリア、インド、スイスなど)、国税庁調査課国際係長3年間の在任中には、OECD租税委員会第6作業部会のメンバーとして、PE帰属所得ルールであるOECD承認アプローチ(AOA)のドラフトづくりにも関与。OECD会議、タイ駐在、相互協議、タイ・インドネシア・中国および発展途上国への知的支援を通じ、各国の国際課税担当者とは真摯に深い信頼関係を構築。
※法人名、役職、インタビューの内容などは掲載当時のものです。
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