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2021-05-31
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大の影響を受けて、税制および国税当局の執行の在り方も大きく変わろうとしています。
デジタルトランスフォーメーション(DX)を含め、税務環境の変化は納税者にどのような影響を及ぼすのでしょうか。また、アフターコロナの社会における税務行政への対応にあたり、企業側にはどのような備えが必要になるのでしょうか。こうした状況に対し、PwC税理士法人において、長年、移転価格税制に関連する企業課題の解決に取り組んできた移転価格グループのプロフェッショナル3名が、税務を通じた社会貢献を切り口に、移転価格税制の最新動向について考察します。
本鼎談記事は、パート1、パート2それぞれ前後編からなる全4回のシリーズで構成しています。パート1では移転価格税務執行状況およびPwC税理士法人における取り組み、パート2では相互協議を巡る最新の動向を取り上げます。相互協議対応は、移転価格税制に係る企業の課題の中でも重要視される項目の一つであり、コロナ禍での対応にあたって変化が大きいとされる領域です。
PwC税理士法人 国際税務サービスグループ(移転価格)
パートナー 黒川 兼
ディレクター 城地 徳政
ディレクター 藤澤 徹
(左から)黒川、城地、藤澤
黒川:
PwC税理士法人パートナーの黒川です。2021年1月に国税庁から「アフターコロナにおける税務行政の在り方に関する一考察」というレポートが公表されました。このレポートには、COVID-19に関連し、感染症対策や企業行動の変化などを踏まえた納税環境整備および調査などの業務体制を検討した、2020年初頭以降の情報が含まれます。本レポートを通じて、私たちのカウンターパートである税務当局が、アフターコロナの社会でどのような対応を考えているのか、また、納税者にどのような影響が及ぶのかついて伺い知ることができます。
PwC Japanグループは「社会における信頼を構築し、重要な課題を解決する」というパーパス(存在意義)を追求し、私たちPwC税理士法人としても重要な社会課題の解決に取り組んでいます。クライアントである企業の皆様の税務にかかわる立場として、どのような社会貢献が可能かについても考察していきたいと思います。
まずは、国税庁での勤務経験を有する城地さんから、本レポートの内容についてお聞かせください。
城地:
私は、前職の国税庁では、大企業の国際課税を担当する国際調査管理官や相互協議室長を経験してきました。本レポートは、前国税庁 長官官房監督評価官室長によるもので、監督評価官室は、国税庁全体の事務運営を総合的視野に立って検討し、税務行政の刷新改善に資するための事務監察、実績の評価に関する事務の実施を担当している部署です。そのため、本レポートは、国税庁がアフターコロナの社会において、どのような執行を検討しているのかを知る上で貴重な資料と言えます。納税者にとっての影響が非常に大きいと考えられるため、われわれは、税務当局とクライアントとのコミュニケーションの仲立ちをする立場にある税理士法人として、本レポートの内容を念頭に、日々の個別具体的な場面での対応を納税者と協働しながら考えていくべきだと思っています。
黒川:
東京国税局での移転価格調査や事前確認審査の経験を有する藤澤さんからも、コメントをお願いします。
藤澤:
本レポートを拝見すると、これまでの執行体制を最良の方法としながらも、「アフターコロナ(ウィズコロナ)時代」における「社会的距離(social distance)」を保った行動様式が求められる社会環境における執行体制の在り方について、他国の取り組みに関する多くの情報を収集しながら検討されています。従来から当局が採用してきたベストプラクティスを取り入れ、環境の変化にしっかり対応していこうという姿勢が伺えます。
当局のベストプラクティスは、OECDのBEPS(Base Erosion and Profit Shifting: 税源浸食と利益移転)プロジェクトにある行動14「相互協議の効果的実施」の実現を目指すとしており、これを採用しています。これについては、本鼎談記事のパート2で取り上げるテーマでもあり、われわれが課題として捉えている相互協議対応に関連があると考えています。
黒川:
本レポートの構成は、税務環境整備と税務調査体制になります。私なりに、当局との交渉経験や当法人での移転価格サービス対応も振り返りながら、ラフスケッチではありますが、移転価格を巡る課題を以下の通り整理しました。各項目について、アフターコロナにおける在るべき姿を起点に現在を見つめなおし、今後、何をすべきか検討してはいかがでしょうか。
PwC税理士法人 パートナー 黒川 兼
After COVID-19での対応分野(当局検討案) |
移転価格、相互協議の分野で掘り下げてみると | |||
|---|---|---|---|---|
対象分野・項目 |
将来像(解決策) | 現状・過去(COVID-19禍の改善点) | ||
| 税務環境整備 | 申告手続きのオンライン化の一層の維新 | APA確認申出、相互協議申立 | eTax送信、オンライン送信 | 印刷物の提出(印刷・郵送事務) |
| 証明書発行等窓口業務の在り方(オンライン請求・発行) | 確認通知書、合意通知書 | eTax送信、オンライン送信 | 印刷物の授受(関係者との共有事務、PDF化) | |
| 税務相談業務の在り方 | 移転価格文書の提出事務 | チャットボット | FAQ、電話相談 | |
| Web会議の拡充と有効利用のための意識改革 | 相互協議 | Web会議、クラウドでの資料共有、メール交換 | 電話会議、印刷した相談資料の送付(事務所出勤の必要性) | |
| 税務調査体制 | 書面調査の有効性 | 資料提出依頼書 | メールでの送付 | 郵送、手渡し(社会的距離確保困難) |
| 臨場型調査から臨場抑制型・被対面型調査の検討 | 移転価格調査、審査 | Web会議による効率化 | 長期間かつ多数回の臨場(日程調整、場所確保、移動時間の不効率) | |
| 企業クラウドへのアクセスによるリモート調査 | 情報共有(例えば、クラウドの使用) | クラウドでの調査対象情報の共有 | 印刷した膨大な資料を提出(事務所出勤の必要性) | |
| 税務CGの推進とリスク・ベース・アプローチによる調査の効率化 | 移転価格CG | AIによるCG判定、調査の問題点の発見 | 担当者ヒアリングを基にしたCG判定、問題点発見(社会的距離確保困難) | |
| デジタル化の進展を踏まえた税務調査 | TNMM分析の精密化、大量情報の整理・分析、AI分析 | 比較対象候補企業情報の大量蓄積と大容量情報をもとにしたAIによるTNMM分析のソフト開発 | 個別案件ごとのTNMM分析と個人の経験に頼ったTNMM分析 | |
出典:「アフターコロナにおける税務行政の在り方に関する一考察(税大ジャーナル2021年1月)」を基に作成
PwC税理士法人 ディレクター 城地 徳政
城地:
未来起点の発想法で、建設的な議論ができそうですね。税務環境整備という観点からは、移転価格の分野でも、手続き面について大きな変化が求められます。COVID-19感染防止の観点からDXは必須であり、申請書や調査資料の提出時には現行のe-Taxを通じた提出方法の拡大が望まれます。税務申告書や事業概況書の提出においても、既にe-Taxが活用されていますので、その領域を拡充する形で対応可能と考えられます。e-Taxでの提出が可能になれば、書類印刷や郵送の手間を省き、当局を訪問することなくいつでも適切なタイミングで提出が可能となります。
黒川:
確かに、印刷や郵送作業のための出社時間が省けるというのは、納税者や会計事務所の業務効率化にも有効です。書類を受け取る当局側も、紙ベースからの脱却を図ることで、書類の整理や保管といった業務から解放されるのではないのでしょうか。
藤澤:
はい。書類の整理や管理の作業には、多くのマンパワーと物理的なスペースを必要とします。私が調査官を務めていた頃は、納税者から提出された情報をあらかじめ決められた専用のバインダーやファイルにつづり、鍵付きキャビネットの指定された場所に保管していました。特に申告書や調査資料といった最重要資料は、厳重な扉のある事務室並みに大きな倉庫に保管していましたが、どの税務署や国税局にもそのような倉庫がありました。入退出のたびに解錠・施錠するため、退出時には、倉庫内に誰もいないことの声出し確認が必要だったくらいです。また、書類閲覧時には手書きの記録簿に閲覧年月日を記載して、厳重な秘密保持に努めていました。
黒川:
電子書類の提出が進めば、その整理や管理にあたってのアクセス制限やアクセス記録も自動化できるなど、より一層、秘密保持強化につながりそうですね。
城地:
本レポートでも、オンラインによる電子申告の活用によって、ヒューマンエラー(手書きの記載誤り、期限後提出、紛失、計算誤り、添付漏れ防止など)の発生リスクを低減可能としています。電子書類受領後のさまざまなリスクについても、効率的に低減が図れるのではないのでしょうか。今後はさらにデジタル化の加速が想定されるため、われわれも納税者であるクライアントに、その流れを前提としたアドバイスや支援をしていく必要があります。
黒川:
ここまで、納税者から当局への書類提出状況について伺いました。では、当局から納税者への状況については、いかがでしょうか。
城地:
当局から納税者に送付される書類は、紙ベースのみ郵送かと思います。法人宛の書類の場合、送付先は納税地の本社宛となり、工場や支店宛に送付されるケースもあるかとは思われます。ただし、税務担当者がリモートワーク環境下にある場合、その状況が考慮され、担当者の自宅に送付されるといった実務は行っていないかと思います。
黒川:
つまり、当局からの郵送書類をリモートワーク環境下の税務担当者が受領するには、自身で本社に出社するか、代理人に依頼して書類を電子データ化してもらい、さらにEメールで送信してもらうといった対応が必要になるということですね。
城地:
そのとおりです。私自身のクライアントも、税務調査において非常に困難な状況に直面しています。税務業務においては、企業内で非常に慎重に取り扱うべき情報が含まれるため、社内でもその情報へのアクセスは制限されています。当局からの書類が本社宛に郵送されることを理由に出社せざるを得ない状況は、非常に非効率と言えますし、企業の方針や社内ルールによってはCOVID-19感染リスクの点からも対応が非常に難しくなっています。
藤澤:
特に、移転価格調査では、資料提出依頼書という書類を発行することが調査手法として定着しています。これまで、質問事項や依頼内容を紙ベースでやり取りすることは、納税者側にとっても、聞き漏れや聞き間違えを防ぐ手法として、積極的に受け入れられてきました。しかし今後は、電子化されたデータを添付したEメールの送受信や、クラウド上での共有といった形式になっていくのではないでしょうか。電子化されたデータには、コメントの追加など加工ができる形式はありがたいですね。
城地:
事前確認審査も同じ状況で、確認通知書や相互協議の合意通知書などの書類が当局から送付されます。今後はこうした書類の電子データ化、公印の電子署名化、e-Taxなどによる電子版の送付などへの切り替えが必要ではないでしょうか。執行だけではなく、法令改正も必要になるのかもしれませんが、早期実現が望まれます。
藤澤:
こうした変化に対し、納税者はどう対応すべきかという観点で、私たちからも積極的に発信していくことが重要です。私たちPwC税理士法人としては、必要な対策のリストアップと優先度付け、そして実行支援といった形で、納税者の課題解決に貢献すべきだと考えます。
黒川:
2015年10月のBEPSプロジェクトの最終報告を受け、翌2016年度(平成28年度)税制改正において、移転価格同時文書化が導入されました。その際に当局は、特に、ローカルファイルの作成に関して、納税者を個別に訪問し、電話相談や面接相談の相談窓口を設けました。国税庁のウェブサイトでは、FAQを掲載するなど、相談業務への対応が拡大しています。今後、こうした対応はどう変化していくのでしょうか。
城地:
2016年度の税制改正後、大規模な海外取引をしている大企業にはマスターファイル、ローカルファイル、国別報告事項(CbCR)の作成事務やe-Taxへの対応など新たな事務作業が発生しました。また、中小企業においても、今後ますます海外展開が拡大し、ローカルファイルの同時文書化に対応しなくてはならない状況が増えていくかと思います。こうした状況下、大量の納税者からの質問に対応するツールとして、テキストや音声を通じて会話を自動的に行うプログラム、つまり、チャットボットの活用が効果的だと考えます。私の経験則からは、特に、e-Taxを通じて提出するマスターファイルとCbCRについて、同じような疑問をもたれる方が多いと思われるため、チャットボットは非常に有効なのではないでしょうか。
黒川:
国税庁ウェブサイトでは、FAQが充実してはいますが、多くのページをスクロールして必要な回答を見つけ出すよりは、チャットボットを活用する方が適切かもしれませんね。
藤澤:
コロナ禍におけるソーシャルディスタンスの確保を考えると、対面での対応は推奨されません。電話の場合、互いの時間を合わせる必要もありますし、相談内容がシンプルであれば、すぐに回答が出てくるチャットボットは便利かと思います。
黒川:
当局への相談のみならず、調査を含めた会議全般についても考えてみたいと思います。現在は、電話会議での対応が中心でしょうか。
藤澤:
残念ながら電話では、双方の顔が見えず、音声だけでの資料説明には限界があることもあって、議論の進行が滞ってしまうことも少なくありません。当局としては、予算手続きや既存のインフラや設備機器の問題などもあり、オンライン会議の早急な対応は難しいかもしれませんが、可能になれば、移転価格事前確認(APA)の事前相談や審査中の会議だけでなく、相互協議の場にも活用が見込まれ、各国とのより活発な議論を推進する一助となるものと思われます。
黒川:
オンライン会議導入の効果は大きいですね。PwC JapanグループではCOVID-19拡大前から社内外会議にオンラインツールを導入していますが、特に目立った支障もなく業務を遂行できているので、当局にもぜひ積極的な導入を希望します。先ほどお話の出た、相互協議の場での状況はいかがですか。相手の顔が見えるか見えないかというのは、交渉の場においては大きな要素かと思いますが。
城地:
やはり、交渉事ですから、担当者は相手メンバーの顔色や雰囲気を探りながら、歩み寄るタイミングを掴むことがとても重要です。電話会議では、それができないので難しいですね。もちろん、オンライン会議が従来の対面形式の会議と同レベルとまでは思いませんが、電話会議よりはそういった雰囲気を掴みやすいかと思います。また、当面の間は、どの税務当局も海外出張は難しい状況かと思いますので、案件処理が滞らないようにするためにも、オンライン会議の最優先での導入が待たれます。
黒川:
納税者側にもメリットがあります。例えば、日系企業が相手国の相互協議担当者に直接説明できるという点です。オンライン会議であれば、日本本社の役員クラスのスケジュール調整についても、海外出張手配より容易です。日本本社の担当役員が相手国の相互協議担当者に直接話す機会をもつことは、企業における税務ガバナンスへの意識の高さを示すという意味でも、有効なのではないのでしょうか。
藤澤:
それは、次のテーマとして取り上げる税務調査の場面でも同様です。海外進出先の国外関連者が、現地で移転価格調査を受けた場合は、早い段階から、親会社の移転価格担当者や責任者が関与すべきです。親会社においては、現地の調査担当者との積極的なコミュニケーション機会を持ち、調査への協力体制などを説明して良好な関係構築を図るべきではないでしょうか。
PwC税理士法人 ディレクター 藤澤 徹
国税庁、東京国税局での30年間の勤務経験を持つ国際課税の専門家。2014年2月にPwC税理士法人の東京事務所に入社。東京国税局では、15年以上にわたって大企業、多国籍企業の移転価格調査の企画・実施、事前確認審査を担当。国際情報第一課の上席国際専門官として、移転価格調査事案のすべての管理および他国税局の移転価格調査事案のサポートを担当。国税庁での3年間の相互協議経験も有し(米国、オーストラリア、インド、スイスなど)、国税庁調査課国際係長3年間の在任中には、OECD租税委員会第6作業部会のメンバーとして、PE帰属所得ルールであるOECD承認アプローチ(AOA)のドラフトづくりにも関与。OECD会議、タイ駐在、相互協議、タイ・インドネシア・中国および発展途上国への知的支援を通じ、各国の国際課税担当者とは真摯に深い信頼関係を構築。
※法人名、役職、インタビューの内容などは掲載当時のものです。
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