税務ガバナンス対応支援コラム―企業の税務オペレーションを円滑に進めるためのヒント

第14回:税務と関税ガバナンス

  • 2025-10-01

関税は税理士業務の対象外とされる種類の税です。実際、これまで日本企業の税務担当部門が関税管理を行っているケースはまれでした。一方で、2025年に入り米国トランプ政権による通商政策として高関税の賦課が矢継ぎ早に発表される中、関税コストが企業の業績に影響を及ぼすケースも見られるようになりました。

このように、ビジネス環境の不確実性が加速する中、企業を取り巻く状況は複雑に変化しています。その一環として、グローバル関税コストの把握と、それに基づく関税管理および戦略は、今後新たな税務上の課題となることも想定されます。そこで今回は、税務と関税との関わりと、関税ガバナンスについて触れたいと思います。

関税管理部門の実態

PwC税理士法人が2025年8月に実施した関税動向調査では、関税関連の業務を扱う専門組織やチームについての質問に対し、50%以上の方が「存在しない」または「わからない」と回答しました。社内の関税管理を担っている部門を質問すると、調達や物流、サプライチェーン担当部署が所管しているという回答の一方、関税関連の専門部署があるとの回答は42%にとどまりました(図1)。自由貿易協定(FTA)の活用については担当部門が設けられている企業もありますが、より幅広い意味でのグローバル関税コストの把握や関税コンプライアンス、さらには関税戦略となると、専門部署はないというケースが多いようです。

図1:自社における関税関連の業務を扱う専門組織やチームの存在

出所:PwC税理士法人・関税動向調査(2025年8月実施)
(調査対象:売上高1,000億円以上の企業で関税・貿易に関するビジネスや戦略に携わる課長以上の役職者・377回答)

関税調査における税務部門の役割

では、税務部門で関税業務に関与することは全くないのでしょうか。税関当局による輸入事後調査に税務部門が関与するケースは決して少なくありません。輸入事後調査では法人税および消費税申告書の他、買掛金元帳などの情報開示が求められるため、税務部門や財務部門が何らかの形で関与することが多くなるのです。税関当局の調査において確認するものの中に税務部門が取り扱う情報があるということは、それらの情報を管理する税務部門では、関税に伴う論点がないかを日常的に確認できるということを意味します。このため、自社に関税担当部門が存在しない場合は、税務部門が関税上のコンプライアンスを担うことも十分考えられるでしょう。

移転価格と関税

昨今、移転価格税制上の要件充足のため、期末に販売価格の遡及調整を行う企業が増えてきましたが、棚卸資産取引が対象となる調整の場合は、移転価格調整金を関税評価額に反映する必要があります。また、前述の関税調査では、移転価格ポリシーや移転価格調整の実施有無についても確認される傾向にあります。つまり、税務部門で移転価格調整を実施する際は、関税申告への対応まで考慮する必要があるということです。また、移転価格は、税関輸入申告や、申告内容のひとつである関税評価額にも直結することから、移転価格の見直しにおいては関税の観点からのリスクを確認することも必要です。

トランプ関税対策

トランプ関税については、さまざまな観点から現状を分析の上で対策を検討し、実行することが求められます。初期的には、販売価格や移転価格の見直しによる関税コストの引き下げを検討する対応を取ることも多いでしょう。関税対策としての施策がその他のリスクを引き起こす可能性がないか、税務リスクと関税コスト削減のメリットをてんびんにかけ、対策のリスクと効果をバランスよく見ていくことが求められます。対策を検討している企業では、タスクフォースチームが立ち上げられるケースもありますが、ほとんどの場合、税務部門が関与しています。中には、税務部門が対策検討の中心的役割を担っている例も見られます。

関税ガバナンスの必要性

日本企業では、関税額を把握できていない、あるいは関税の算定の基礎となる関税評価額について十分理解できていないことが多くあります。それには複数の原因が想定されますが、関税ガバナンスの不在や不足によるところも大きいと考えます。2025年8月に実施した関税動向調査においても、関税対応における困難な点として、関税ガバナンスの不在・人材の不足を挙げる声が多く見られました(図2)。

図2:関税対応において困難な点(複数回答)

出所:PwC税理士法人・関税動向調査(2025年8月実施)

税務部門が関税管理も行うべきなのか、別途関税主管部門や責任者を設けるべきなのか、関税ガバナンスにおける「あるべき姿」は一つに決まっているわけではありません。しかし、前述のとおり、関税調査、移転価格、トランプ関税対策など多くの論点において税務と関税の関連性は高く、また相互に影響します。企業を取り巻く状況が変化する中、企業価値に貢献する税務組織においては、関税リスクやその影響把握などの新たな領域に取り組むことが期待されるでしょう。税務部門とは別に関税管理担当部門が機能する場合でも、税務部門からの連携は必要不可欠です。

新しい時代の中、関税ガバナンスの必要性を認識し、社内体制を構築・強化することが、今後より一層求められることとなります。

執筆者

濱田 未央

シニアマネージャー, PwC関税貿易アドバイザリー合同会社

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