税務ガバナンス対応支援コラム―企業の税務オペレーションを円滑に進めるためのヒント

第13回:経営陣からのコミットメントを勝ち取る2つの見える化

  • 2025-07-30

税務組織は、少数精鋭で複雑化する税制対応をするために多くの時間を費やしており、またその傍ら事業部への支援にも尽力しています。しかしながら、その貢献が十分に経営層に認知されていないため、人材確保や予算について経営層から理解が得られないという企業も多いのではないでしょうか。

PwCでは2024年に「持続可能な成長と企業価値の向上に向けたCFO意識調査」や「税務ガバナンス実態調査」を、それぞれ経営層の視点、税務担当者の視点から実施しました。また、昨今、複数の日系多国籍企業のCFOに価値創造の観点から組織の在り方についてお話を伺う機会もあり、そこから感じた税務組織が企業価値に貢献するためのポイントを、経営層と税務組織の関係性という観点から記載します。

経営層の視点から見た税務組織の役割

経営においては、蓄積されたデータをいかに活用し、過去の情報から未来を見通すかが意思決定の上で重要です。CFOとの「生成AIやデータ・テクノロジーが企業価値向上にもたらすもの」をテーマにしたディスカッションの中でも、生成AIによる分析結果を使うものの、それを鵜呑みにするのではなく、いかに先を読み意思決定をしていくかに企業としての特色が現れ、差別化要因になるというコメントを多くいただきました。

一方で、税務分野では人材不足や人材育成が課題として挙がっているものの、KPIの未整備といった状況が浮き彫りになっています。経営層は税務組織を、税法を順守するというコンプライアンスのための組織として、また、コストセンターの機能として位置づけている傾向にあると考えられます。

税務へのアプローチを考えるうえで、コンプライアンスは非常に重要な要素です。しかし、税務はキャッシュに直接影響を与える要素であり、企業価値へさらなる貢献ができるポテンシャルの高い組織であるという認知は広まっていない可能性があります。

以下の図表は、「持続可能な成長と企業価値の向上に向けたCFO意識調査」の税務に関する結果をまとめたものです。

企業価値に貢献する税務組織を目指す上でのポイント

企業価値に貢献する税務組織を目指す上で、経営陣からのコミットメントなくしては、さまざまな施策を実行することはできません。上述のような状況で、経営層の意識を変革していくには、次の2つのポイントで見える化を実施することが重要です。

ポイント1:経営層から、「当社グループの税務ポジションはどうなっているのか」と聞かれ際に、簡潔に答えられるか

この問いに対して、グループ全体の税務ポジションを俯瞰でとらえて、簡潔明瞭に説明できるでしょうか。もし、説明が難しい場合、以下のような観点から自社の税務の状況を説明してみてはいかがでしょうか。

  • 実効税率の趨勢と他社比較
    税はフリーキャッシュに直接影響を与える重要な要素です。経営層に分かりやすく自社の状況を説明するためには、具体的な数値、すなわち実効税率が有効です。連結実効税率であれば、公表されている情報から取得することが可能なため、実務的な負担をかけることなく数年の趨勢や同業他社との比較ができます。
  • 国・地域別分解
    税は国別に規定されている要素です。多国籍企業の場合、グループの連結実効税率だけでは不十分です。国・地域別の実効税率に分解し、各国の法定税率と比較することで、グループ内でどの国・地域がどのような影響を与えるのかが分かります。グローバル・ミニマム課税制度への対応で実施している、簡易実効税率(Effective Tax Rate: ETR)テストの情報を活用すれば、実務的な手間はかかりません。また、税率だけでなく、税前損失が発生している国の税務上の繰越欠損金の状況を把握することも重要です。
  • 考察・仮説
    各国別の損益の配分や税率を踏まえた仮説・考察を行います。例えば、実効税率が恒常的に法定税率よりも高い国への施策、欠損金の有効活用、税率が低い国での過度な節税対策の有無などを検討します。これには他社比較や国・地域分解からの追加情報や分析が必要ですが、未来志向での分析業務として時間をかける価値があります。

ポイント2:経営陣に「税務部門は、これだけ企業価値に貢献している組織です」と説明できるか

「経営層は税務にあまり関心がない」という声を耳にすることがあります。確かに、日本企業では伝統的に事業収入や営業利益にフォーカスが当たることが多い、という背景があります。しかし、現在ではフリーキャッシュの獲得が重視され、自己資本利益率(Return on Equity: ROE)や投下資本利益率(Return on Invested Capital: ROIC)が重要な経営指標となっています。

そのような状況で、経営層が税務に関心を示さないのであれば、それは税務組織の活動成果を企業価値への貢献という観点から説明できていないことが一因かもしれません。以下の観点を定量化して説明してみてはいかがでしょうか。

  • 資金効率の高い資本/組織ストラクチャーの検討による影響
  • 二重課税の排除による影響
  • 優遇措置の適用による効果
  • 税務調査対応で自社税務ポジションを守った効果

また、経営層は必ずしも税務に詳しいとは限らないため、事業担当の役員向けには利益率で換算し、売上に換算するとどの程度の効果を生み出しているのかを示すことで、税務の貢献を具体的に伝えることができます。

税務組織がコストセンターと見なされると、活動が減点主義になりがちです。しかし、企業全体の現況や税務組織の成果を見える化することによって、企業価値に貢献する戦略的組織として位置付ける意識改革が可能です。

このように、経営層と積極的にコミュニケーションし、コミットメントを得ることに加え、適切な予算および人材リソースの配分を実現することが、税務組織を強化するためのポイントであると考えます。

執筆者

塩田 英樹

パートナー, PwC税理士法人

Email

{{filterContent.facetedTitle}}

{{contentList.dataService.numberHits}} {{contentList.dataService.numberHits == 1 ? 'result' : 'results'}}
{{contentList.loadingText}}

{{filterContent.facetedTitle}}

{{contentList.dataService.numberHits}} {{contentList.dataService.numberHits == 1 ? 'result' : 'results'}}
{{contentList.loadingText}}

本ページに関するお問い合わせ