新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で変わる監査の現場 バーチャル監査室 ― 仮想空間で交わされる被監査会社とのコミュニケーション

2020-05-22

2020年は、在宅勤務(リモートワーク)が世の中に浸透した年として記憶されるようになるかもしれません。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大による社会的な要請もあり、リモートワークに切り替える人が大幅に増えています。PwCあらたでもリモートワークを全面的に導入しています。職員からは「同じ空間にいれば分かる相手の忙しさや悩みを察することが難しい」「リモートワークではコミュニケーションの取り方を工夫する必要がある」といった声があがるなど、監査業務の繁忙期を迎える中でこれまでに経験したことのない課題に直面しながら、試行錯誤を重ねる日々ですが、これをきっかけとして業務のあり方を見直し、これまで積み重ねてきた業務変革の取り組みのさらなる加速化につなげようという気運が高まっています。

「バーチャル監査室」構想

例年、4月の監査法人のオフィスは閑散としています。多くの監査人が被監査会社の会議室を借りて、数週間から数か月にわたり常駐しているからです。

被監査会社に常駐することで、監査人と被監査会社の緊密なコミュニケーションが可能となり、監査上必要な対応を適時に行うことができるようになります。しかし、利用できる被監査会社の会議室には限りがあります。また現在、COVID-19により対面でのコミュニケーションを避けることが求められるようになっています。往査せずとも被監査会社と活発なコミュニケーションを取れるようにできないか――その手段の一つが、「バーチャル監査室」です。

ここでは、仮想空間に設置した監査室をバーチャル監査室と呼びます。必要な時に地理的な制約を受けずに監査人と被監査会社の担当者がコミュニケーションを取れるようになることは、監査業務をリモートで行えるようになるための重要な課題の一つです。当初は、仮想現実(VR)を活用して仮想空間に監査室を設置することを構想していましたが、コストやセキュリティの観点から検討することが多く、これまで実現することなく終わっていました。しかし、今年はいやおうなしに被監査会社への往査を最小限にする必要に迫られており、バーチャル監査室実現への機運が高まっています。

「あるものを活用する」という発想の重要性

ある監査チームは、既に導入済みのビデオ会議ができるオンラインサービスを活用し、被監査会社とのコミュニケーションの空間を作るという試みを始めています。常時ビデオ会議ができる環境を被監査会社と共有することにより、いつでもどこからでも被監査会社の担当者と監査人が必要なコミュニケーションを気軽に取れるという点で、この空間もバーチャル監査室といえます。

法人内のコミュニケーションツールであるチャットルームにチームメンバーが集まって業務を行い、相談事項が発生したらPC画面を共有すると共に音声をつなぎ、メンバーが協力して問題を解決しているという現場もあります。

監査において、関係者間の密なコミュニケーションは欠かせません。監査人と被監査会社が活発にコミュニケーションを取ることで、被監査会社から提供されたデータや資料だけでは分からない被監査会社の実体が見えてきます。また、どんなに些細なことであってもチームメンバーの気付きを共有することで、一つ一つは小さな気付きであっても、総合的に見ると重要な事象に結びつくことがあります。

社内、社外を問わず、テクノロジーの活用が、リモートワークにおけるコミュニケーションを支えています。ビデオ会議であれば、対面の時のような人の移動が不要となり、必要なコミュニケーションを瞬時に取ることができます。これは、従来では考えられなかったことです。

リモートワークの導入を契機として、監査の在り方が大きく変わるかもしれません。PwCあらたは、危機をチャンスと捉え、テクノロジーの活用をさらに促進することでより円滑な監査業務を実現していきたいと考えています。

執筆者

玉井 暁子

マネージャー, PwC Japan有限責任監査法人

Email

清水池 誠

ディレクター, PwC Japan有限責任監査法人

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※ 法人名、役職、コラムの内容などは掲載当時のものです。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で変わる監査の現場

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