東証が 「新市場区分の概要等について」を公表 - 新市場区分を見据えたコーポレートガバナンスの強化

2020-02-28

東京証券取引所は2020年2月21日に「新市場区分の概要等について」を公表し、現時点で想定される新市場区分の概要、移行プロセスおよび今後のスケジュールを示しました。ここでは主な内容を紹介するとともに、企業に求められるコーポレートガバナンスへの対応を考えたいと思います。

市場構造の在り方を巡るこれまでの動き

まずは市場構造の在り方等の検討について振り返ってみましょう。現在、一般投資者向けの市場として、市場第一部(東証一部)、市場第二部(東証二部)、マザーズおよびJASDAQの4つの市場が運営されています。しかしながら、(1)各市場区分のコンセプトが曖昧であり、多くの投資者にとって利便性が低い、(2)上場会社の持続的な企業価値向上の動機づけの点で期待される役割を十分に果たせていない、(3)投資対象としての機能性と市場代表性を備えた指数が存在しない、といった課題が挙げられていました。

東京証券取引所では、市場構造を巡る諸問題やそれを踏まえた今後の在り方等を検討するため、2018年10月29日に「市場構造の在り方等に関する懇談会」(座長:神田 秀樹 学習院大学大学院法務研究科教授)を設置する旨を公表し、2回にわたり懇談会を開催しました。また金融庁では、市場構造の在り方について、学識経験者、経済団体、アナリストなど関係各界の有識者から提言を得ることを目的として、金融審議会「市場構造専門グループ」を設置し、6回にわたる議論を経て、2019年12月25日に「金融審議会市場ワーキング・グループ市場構造専門グループ報告書(案)」を公表しました。

この昨年末の報告書を受け、取りまとめられたのが「新市場区分の概要等について」になります。この中では、今後の市場区分の見直しに向けて、上場会社、上場準備会社、市場関係者などにおける対応の検討および準備に資するよう、現時点で想定される新市場区分の概要、新市場区分への移行プロセスおよび今後のスケジュールが示されています。

各市場区分に求められるガバナンス水準

ここでは、コーポレート・ガバナンスに関する基準に焦点を当てて、各市場区分に求められるガバナンス水準の違いを見ていきたいと思います。図表1の各市場区分のコンセプトにおいて、プライム市場では「より高いガバナンス水準」を、スタンダード市場では「基本的なガバナンス水準」を備えることが求められています。このコンセプトに基づき、図表2において流動株式比率や適用するコーポレートガバナンス・コードの違いを見ても、プライム市場が「より高いガバナンス水準」を求められていることがわかります。

現在の市場区分におけるコーポレートガバナンス・コードの適用対象は市場第一部(東証一部)と市場第二部(東証二部)の企業であり、マザーズとJASDAQの企業は基本原則のみの適用で許容されています。新市場区分においては、市場第一部(東証一部)と市場第二部(東証二部)がスタンダード市場に相当し、マザーズとJASDAQがグロース市場に相当した水準であると解されます。プライム市場では、現在の市場区分に求められているガバナンス水準よりもさらに高い水準が求められることになります。

コーポレートガバナンス・コードは、2015年に策定された後、コーポレートガバナンス改革をより実質的なものへと深化させていくため、2018年に改訂されています。また、2021年春ごろにはさらなる改訂が予定されており、プライム市場の上場企業を念頭に、より高いガバナンス水準が示されることが想定されています。

新市場区分を見据えたコーポレートガバナンスへの対応

上場会社は、各市場区分のコンセプトや上場基準を踏まえ、移行時に新たな市場区分を主体的に選択することができます。図表3で示すとおり、一斉移行日は2022年4月1日とされています。移行日に向けた動きを見ていくと、移行基準日は2021年6月末日とされ、新市場区分の上場維持基準に適合しているか否か、取引所による確認が行われます。その結果は2021年7月末までに各社に通知され、2021年9月~12月は市場選択手続期間となります。市場選択手続期間には、選択する市場がプライム市場またはスタンダード市場である場合、2021年春ごろのコーポレートガバナンス・コードの改訂の内容を反映したコーポレート・ガバナンスに関する報告書を提出・開示することが求められています。

このように、企業は2021年春ごろに改訂されるコーポレートガバナンス・コードへの対応を2021年12月までに終わらせて開示をする必要があります。対応への準備期間は決して長くはありません。どの市場区分を選択するにせよ、まずは自社のコーポレートガバナンス・コードへの対応状況を今一度見直し、対応が不十分である項目を洗い出して、対応方法を検討しておくことが望まれます。またコーポレートガバナンス・コードの改訂フェーズにおいては、改訂が有識者会議を経て行われることから、金融庁や東京証券取引所のウェブサイトで公表される有識者会議での議論の過程を注視しつつ、改訂コードが目指すガバナンスの在り方などを十分に理解した上で、対応策を速やかに検討することも望まれます。

持続的な成長と中長期的な企業価値向上のために、コーポレートガバナンスについて自律的な対応を行うことが、各社に今こそ求められています。PwCあらた有限責任監査法人のコーポレートガバナンス強化支援チームは、コーポレートガバナンス・コードに関連した課題の洗い出しや取締役会の実効性評価支援、投資家などの利用者にとって分かりやすく有用なコーポレート・ガバナンス報告書の作成支援などを提供しています。こうしたあらゆるサービスを通じて、コーポレートガバナンスを継続的に向上させることに積極的な企業を支援していきたいと思います。

執筆者

足立 順子
PwCあらた有限責任監査法人 シニアマネージャー
コーポレートガバナンス強化支援チーム

※法人名、役職、コラムの内容などは掲載当時のものです。

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