コーポレートガバナンス・コード「取締役会評価」

2015-09-25

コーポレートガバナンス・コードで求められている取締役会評価について、本稿では、海外において定着している実務に照らし、その方法や効果について紹介します。

コーポレートガバナンス・コードの適用

コーポレートガバナンス・コード(以下、「コード」)が2015年6月1日から適用となっています。従来、コーポレートガバナンス報告書は上場会社が定時株主総会後に遅滞なく取引所へ提出するものとされていますが、コード適用初年度については6カ月の猶予期間が設けられており、3月決算会社であれば本年12月末までに提出することとされています。

上場企業各社では、コードの73項目の基本原則・原則・補充原則ごとに対応状況をセルフチェックし、対応できていない項目を洗い出す作業を進めているものと考えられます。セルフチェックの結果、対応できていない項目については、今後コンプライを目指すのか、エクスプレインをするのかについて検討が必要となります。その中で、現状では実施(コンプライ)できていなくて、今後の対応について当法人にご相談いただくことが特に多いのが取締役会評価です。

取締役会評価

コードの補充原則4-11③には、「取締役会は、毎年、各取締役の自己評価なども参考にしつつ、取締役会全体の実効性について分析・評価を行い、その結果の概要を開示すべきである。」とあります。取締役会評価は、英国をはじめとする諸外国において、Board Evaluationとして知られており、ガバナンス向上に対する一定の効果と便益が認められています。わが国では、これまであまり馴染みのないものでしたが、コード適用を契機に、上場企業各社がその実施を検討しているところと思われます。本年6月1日のコードの適用後、提出の猶予期間があるにもかかわらず、すでにコーポレートガバナンス報告書を提出した企業もありますが、これらの企業の開示の傾向を見ると、少なくない企業が取締役会評価について「今後実施を検討している」旨のエクスプレインを記載しています。※1

一言で取締役会評価と言っても、果たして誰が何をどのように評価するのか、どのように進めればよいのかわからない、といった声が多く聞かれます。評価は取締役による自己評価と外部第三者による評価の2種類ありますが、日本ではコードが外部評価を必ずしも求めてはいないことから、多くの会社は自己評価を行うことが想定されます。

※1:「スチュワードシップ・コードおよびコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」(第1回)資料4 コーポレートガバナンス・コードへの対応状況および関連データによると、2015年8月末までに東証に提出した市場第一部・第二部68社のうち、16社が補充原則4-11③についてエクスプレインしている。

取締役会評価の位置付けと開示

コーポレートガバナンス・コードの補充原則4-11③では取締役会評価の目的や効果などについては特に触れていないため、取締役会評価の位置付けに関してはさまざまな解釈が行われているように思われます。

以下は、すでに諸外国で実施されているBoard Evaluationの実務と開示から、筆者が考える取締役会評価の効用です。

  1. 取締役会評価は企業の重点課題に対して取締役会がどのように機能しているかについて評価を行うもの
    諸外国で行われているBoard Evaluationでは、プロセスや評価項目について、ある程度普遍的なものがある一方で、決してチェックボックス的な評価が実施されているものではありません。むしろ、より高い次元で、企業のガバナンスや戦略上の課題に対して示唆を得るプロセスであり、またそれらの課題への対応について一定の合意を形成するプロセスでもあります。各社の戦略的課題とそれを反映した取締役会運営における重点課題は、まちまちであり、従って取締役会評価も企業が置かれている状況に応じて評価項目が設定されるべきものと考えられているようです。評価手法や評価項目も、必ずしも毎年同じではなく、例えば英国やフランスでは自己評価に加えて、少なくとも3年に一回は外部評価を利用することがコードで要求されています。また、評価対象として、ある年は取締役個人や委員会を、ある年は取締役会全体を、というように評価対象を毎年任意に変えている例なども見られます。
    日本のコードの趣旨に照らしても、取締役会評価に際しては、まず評価項目の設定を各社ごとに行うことが非常に重要となります。取締役会が、企業の持続的な成長と中長期的な企業価値向上を促すという目的のために、企業の戦略目標立案や経営幹部のリスクテイクを促す環境整備と実効性のある監督などの役割を高い次元で果たすという視点から、評価項目を設定することが求められているものと考えられるからです。

  2. 株主との建設的な対話の基礎となるような取締役会評価の結果の開示
    すでに提出された日本企業のコーポレートガバナンス報告書の開示内容を見ると、「取締役会評価を実施したこと」、「評価の結果、取締役会が実効性のある形で運用されていたこと」については一様に言及されているようです。
    一方で評価のプロセスや評価の結果として浮かび上がってきた課題について具体性のある開示は少ないように思われます。翻って、英国のBoard Evaluationの開示を見ると、それぞれの企業が評価プロセスについて詳細に記載し、また、評価の結果としていくつかの課題と、その対応としての合意されたアクションを開示している例がよく見られます。
    株主などのステークホルダーとの建設的な対話の基礎となるような開示が求められていると捉えるのであれば、英国での開示の実務で見られるような、取締役会における課題とそれに対する対応方針を積極的に開示することも、日本のコードの趣旨に照らして適切な方向であると考えられます。

自己評価のプロセス、評価対象、評価者、評価手法、回答方法の例

自己評価は図1のプロセスに従って進めることが考えられます。また、図2のように自社が設定する自己評価の深度のレベルおよび目的に応じて、考え得る評価対象、評価者、評価手法、回答方法は異なってくることが想定されます。

図1:取締役会評価の自己評価プロセス例

取締役会評価の自己評価プロセス例

図2:評価対象、評価者、評価手法、回答方法の例

 

例1

例2

例3

評価対象

取締役会全体

取締役会全体
各取締役(社外含む)
監査役会全体
各監査役(社外含む)

取締役会全体
各取締役(社外含む)
監査役会全体
各監査役(社外含む)

評価者

各取締役(社外含む)

各取締役(社外含む)
各監査役(社外含む)
業務執行役員
取締役会事務局

各取締役(社外含む)
各監査役(社外含む)
業務執行役員
取締役会事務局
経営諮問委員会委員
外部専門家による助言(自己評価の範囲内で)

評価手法

質問書への回答
(無記名または記名式)

質問書への回答(記名式)
対面ヒアリング(内部)

質問書への回答(記名式)
対面ヒアリング(内部、外部専門家の支援)

回答方法

5段階評価

5段階評価
記述式

5段階評価
記述式
ヒアリングによる深堀

PwCがご提供できるサービス内容

PwCあらた監査法人のコーポレートガバナンス・コード導入支援チームでは、取締役会評価の自己評価を支援する業務を提供しています。コードが適用されてから20年以上の歴史がある英国や取締役会評価に馴染みのある米国など、諸外国とのネットワークを生かしてPwCの自己評価ツールや海外の開示例などを提供することができます。その他、自己評価の進め方に係るアドバイスやコーポレートガバナンス報告書の開示内容のレビューなど、各社のご要望に沿ったサービスをご提案できます。サービス内容のご照会など、メールにてお問い合わせください。

PwCあらた監査法人
コーポレートガバナンス・コード導入支援チーム
Centre for Corporate Governance in Japan