2020年における資産運用ビジネス‐資産運用業は金融ビジネスの中心へ

2015-04-16

2020年における資産運用ビジネス‐資産運用業は金融ビジネスの中心へ
本コラム“あらたなView”では、さまざまな市場や業種、サービスにおける最新情報について現場のナマの声をお伝えしていきます。
今回は、金融業界でも今後ますますの成長が期待される資産運用業界について取り上げます。プライスウォーターハウスクーパースでは2014年、資産運用業界の将来を予測したレポート「アセットマネジメント2020 資産運用業界の展望」(以下、「AM2020」)を発行しています。2020年における資産運用業界はどのような姿になっているのか、今回は、資産運用業の将来像についてAM2020に基づきプライスウォーターハウスクーパースの予測を紹介します。

プライスウォーターハウスクーパースでは、資産運用ビジネスが、銀行、証券会社、保険会社と並び金融ビジネスの中核を担う存在になると予測しています。さまざまな投資家層の拡大、投資対象の拡大に伴い、全世界の運用資産残高は2012年の63.9兆米ドルに対し、2020年には101.7兆米ドルに拡大すると推計しています。

その背景として、まず新興国の台頭と都市部への人口集中が挙げられます。世界の都市人口は2010年の36億人から2050年には75%増の63億人に達すると見込まれています。また、現在23を数える人口1千万人超の「巨大都市」は、2025年までに新たに14の都市が加わり、うち12は新興国における都市であることが予測されています。新興国の台頭と都市部への人口集中は、新規ビジネスやインフラ投資等、新たな資金需要を生み出すことが想定されます。

また、資金の供給サイドにおいても大きな変化が見込まれています。今日、銀行が投融資を通じて資金の供給源としての大きな役割を担っています。しかし、2000年代後半の金融危機を受け、米国ドッド・フランク法の導入、バーゼル自己資本比率規制の強化等により、銀行は預金者保護のための財務の健全性が求められています。結果、銀行は過度なリスクを取ることが制限され、資金の供給が難しくなっています。
一方、新興国の台頭は、中間所得層の人口増加も促します。2010年から2020年にかけて全世界で10億人を超える中間層(注)が生まれると見込まれています。彼らには、将来に備えての資産運用ニーズも高まるであろうことから、ファンド等を通じて新たな資金供給源としての役割が期待されています。

さらに、資産運用業を取り巻く規制環境の整備も進んでいます。
マドフ事件、日本ではAIJ事件など、多額の運用資産の消失なども受け、新たな規制の導入や強化が図られています。例えば、英国で先行導入されたRetail Distribution Review(RDR)など、報酬に関する規制の強化や、説明責任の強化など、ファンドの販売業者と投資家の利害を一致させる試みや、欧州単一のファンド規格であるUCITS、AIFMDをはじめとするグローバルファンドプラットフォームの試みが見られます。
これらは今後、世界規模で資産運用会社、ファンド販売業者の競争を加速させると想定しています。また、上場投資信託であるETFはファンドの市場流動性を高めることにも貢献しています。このように規制環境の整備に伴い、今後ますます投資家の保護や利便性の向上が図られることが予想されます。このような変化を受け、資産運用業界は、これら規制を遵守しつつ、資金の需要と供給をマッチングさせる社会的な役割を担うこと、金融の担い手として社会的な存在価値や信頼を高めることが期待されています。

最後に、金融教育により、資産運用に対する正しい理解を一般社会に定着させることが求められています。ルールを遵守した適切な資産運用業者の選択はもちろんのこと、自己のリスクリターン選好に応じて適切な運用商品を選択するための金融リテラシーの向上は、ソーシャルネットワーク等を通じた情報技術の発達によるファンドへのアクセスや情報収集の向上とも相まって、消費者が適切な商品を選定することが格段と容易になるでしょう。 このように、資産運用業を取り巻く規制の改善、金融教育を通じた金融リテラシーの高まりに伴い、ファンドを通じた投資が促されることで経済社会のより良い循環が軌道に乗ることが期待されています。

(注)中間層とは日々の出費が購買力平価で10米ドルから100米ドルの世帯を指す。

PwCあらた監査法人
第3金融部(資産運用)