デジタルを活用した医療体制

2022-04-12

日本の医療を取り巻く現状

日本の医師の数は人口1,000人当たり2.5人であり、これはOECD(経済協力開発機構)加盟36カ国中33位、同加盟国平均の 3.6 人を1人以上下回っていることになります*1。厚生労働省の医師数推計によると、2030年前後には日本の人口1,000人当たりの医師数は3人程度にまで増加しますが、現時点の各国のデータと比較しても33位から28位に上がる程度です。OECD諸国と比較して医師の数が少ないという状況は今後も継続する見込みですが、同時に日本は諸外国に例をみないスピードで高齢化が進行するため、医療を必要とする人口は急激に増加していく傾向にあります。また都道府県別の人口10万人当たりの医師数を比較すると、最多県と最少県の格差は1.90倍*2となり、地域による医師偏在という問題への早急な対策も必要です。

その1つとして、地域で医療を支えていく体制を構築するため、地域医療構想などが政策として推進されています。今回はデジタルを活用した事例を通じ、医療体制の構築に向けた進め方を紹介します。

デジタルを活用した自治体の医療体制

国内の多くの地域において、定期的な通院を必要とする高齢者を中心に、病院への移動に困難が伴う患者の数が増加傾向にあります。また、医師不足も大きな課題となっており、訪問診療の場合では移動距離の長さや医師の高齢化による負担増加が懸念されています。

そこである地方自治体は、看護師などの医療スタッフが移動診察車により患者の自宅などへ出向き、車内のテレビ電話を用いて診療所の医師が診療を行う、オンライン診療を2021年に開始しました。これによって患者は病院まで行かずに受診することができ、通信機の操作に慣れていない方でも看護師などが操作することでオンライン診療を受けることができます。医師側も看護師に指示をすることができるため、医師と患者のみの一般的なオンライン診療よりも安全で質の高い診療を行うことが可能になりました。また、医師はこれまで訪問診療のために要していた移動時間を短縮でき、外来患者や緊急性の高い患者の対応に充てることができるようになりました。

このように、移動診察車によるオンライン診察は効率的な診療を可能とし、患者、医療従事者双方の負担を軽減させる取り組みとして今後の普及・発展が期待されています。

今後のまちづくりの進め方

この事例ではまだ一定の条件に限られたり、検討中の部分も存在したりしますが、これはオンライン診療やオンライン服薬指導*3が可能になったことで実現しました。コロナ禍の影響もあり、規制が変更されたことに伴い、このようにデジタルを活用した医療体制の構築が可能になったのです。

政府は新たな枠組みとしてデジタル田園健康特区(仮称)を設けました。これは、スーパーシティ型国家戦略特別区域で挙げられた数多くの課題のうち、類似した課題を持つ地域同士をまとめ、特定領域の規制改革を進めることで複数の地域課題を一度に解決する施策です。また、日本経済団体連合会より「Society 5.0時代のヘルスケアⅢ」*4が発表されました。これは、デジタル技術を活用したオンラインによるヘルスケアに焦点を当てて、実現したい姿とそのメリットを具体的にわかりやすくまとめた提言になっています。

このように、健康医療領域においては政府からの規制緩和に伴って経済界からの提言も進んでおり、今まで実施困難であった施策の実現可能性が高まってきています。医療資源を効果的に配置することに加え、今まで規制により実施困難であった取り組みを検討することで、より効率的な医療体制を構築することが可能になります。今後のまちづくりにあたっては、今まで以上に他の地域の取り組みを参考にしたり、他の地域と連携したりすることが必要になります。また、規制や仕組みにとらわれず、まち全体でデジタルなどを活用した仕組みを取り入れるなど、患者や医療従事者にとってのあるべき姿を検討していくことが求められるでしょう。

*1 OECD, 2021. “OECD Health Statistics 2021” https://www.oecd.org/health/health-statistics.htm

*2 厚生労働省, 2022. 『令和2(2020)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況』 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/20/dl/R02_kekka-1.pdf

*3 厚生労働省, 2022. 『オンライン服薬指導について』https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/000910730.pdf

*4 日本経済団体連合会, 2022. 『Society 5.0時代のヘルスケアⅢ』https://www.keidanren.or.jp/policy/2022/005_honbun.html
 

執筆者

水野 光

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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