人権リスク

ビジネスと人権リスク

1990年代以降、ビジネスのグローバル化に伴って成功を収める企業や、サプライチェーンを世界中に張り巡らせる企業が台頭する陰で、法制度が十分に整備されていない国や地域において、現地の労働力や資産が搾取されるケースが散見されてきました。

これまでは、人権を保護するのは基本的に国家の責務と考えられてきました。しかし、このような状況下においては、国家だけではなく企業も責任を持つべきという考え方で各国が一致しており、国連は2011年に「ビジネスと人権に関する指導原則」を採択しました。

「ビジネスと人権に関する指導原則」は国家の義務、企業の責務について提言しており、企業に対しては(1)人権方針の策定(2)人権デュー・ディリジェンスの実施、(3)救済メカニズムの構築、を求めています。

図表1 ビジネスと人権に関わる指導原則:人権を尊重する企業の責任

この「ビジネスと人権に関する指導原則」は世界的に広く支持され、特に米国・欧州を中心に、国・地域レベルで企業による人権保護に関する取り組みを義務化する動きが広がってきています。例えばドイツでは「サプライチェーンにおける企業のデュー・ディリジェンスに関する法律」が成立し、2023年1月に施行予定となっているほか、EUは人権および環境に係るデュー・ディリジェンスの実施を義務付ける「企業持続可能性デュー・ディリジェンス指令」案を発表しました。

日本政府も2020年10月に「ビジネスと人権に関する行動計画」(NAP:National Action Plan)を世界で24番目に公表しました。経済産業省は2022年8月に「責任あるサプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン(案)」を公開しました。このように、日本企業にも人権尊重の責任を果たすことが期待されています。

図表2 各国の規制動向

日本企業の対応状況

2021年11月に経済産業省と外務省が実施した調査によると、日本企業のうち約7割が人権方針を策定または公表し、人権デュー・ディリジェンスについては約5割の企業が導入しています。ただし、企業の人権への取り組みについて格付けを行っている国際的なNGO「CHRB」(Corporate Human Rights Benchmark)によれば、日本企業の対応はアパレル企業を除けば、相対的に低評価に留まっているのが実情です。

図表3 CHRB2020 評価結果:日本企業と世界全体の比較

CHRBの日本企業に対する評価コメントには「明確でない、または根拠がない(not clear/no evidence)」という指摘が多く、方針は策定しているものの、実際の行動が確認できていない状況が伺えます。CHRBは今後、実際の行動(Actual performance)やステークホルダーとの対話(Stakeholder engagement)を今まで以上に評価の観点として取り入れる方針であり、日本企業には具体的な取り組みを早急に始めることが求められています。

PwCの支援

PwCではこれまでも人権問題への対処をはじめ、ESG経営戦略の策定や、伝統的なリスク管理体制の構築などを支援してきました。人権リスクは人に関わるものであるがゆえに、顕在化する可能性が低い、または企業へのインパクトが小さいものであっても、人権への負の影響が大きい場合は重要であるという点において、一般的なリスク管理とは明らかに趣が異なります。また、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大や地球温暖化の進行などにより、働く人を取り巻く環境や、その価値観も目まぐるしく変化し続けています。PwCはクライアントがこうした変化を柔軟に取り入れながら、指導原則に則った実効性のある対応を行うためのサポートを提供します。

ここではPwCのサポート内容のうち、(1)人権デュー・ディリジェンス態勢の構築支援、(2)人権方針の策定支援、(3)人権デュー・ディリジェンスの最初のステップである人権リスクの洗い出しおよび評価の支援、について具体的にご紹介します。

1. 人権デュー・ディリジェンス態勢の構築と実行支援

人権デュー・ディリジェンスは、人権に係る企業の負の影響を特定し、防止、軽減、対処するためのプロセスであり、(1)影響の特定と評価、(2)検知された負の影響を是正、(3)予防・軽減措置の実施、(4)取り組みの有効性をモニタリング、(5)情報の開示、の概ね5つのステップから構成されます。

企業には、自社の人権方針に基づいて、この5つのステップを有機的に関連させながら人権デュー・ディリジェンスを実施することが求められます。なお、この対応はリスクベースで行う必要があります(リスクベースアプローチ)。

図表4 人権デュー・ディリジェンスの要素とサイクル

PwCは、企業の既存のCSR態勢やコンプライアンス管理態勢に図表4記載の人権デュー・ディリジェンスの要素を取り入れることで、効果的かつ効率的に人権デュー・ディリジェンスを行う仕組みを構築することを支援します。

また、サプライチェーン上に海外の子会社やサプライヤーが存在し、直接現地に監査に赴くことが難しい場合は、実地監査を代行や同席といった形でサポートすることも可能です。

2. 人権方針の策定支援

人権デュー・ディリジェンスのベースとなる価値観を言語化し、人権尊重へのコミットメントを示すため、企業には人権方針を策定することが重要になります。

人権方針の策定については、国連グローバルコンパクトがガイドラインを公表しています。PwCはこのガイドラインを参考として、企業の経営理念・戦略・プライオリティなどを踏まえた人権方針の策定を支援します。また、必要に応じて他社事例と比較しながら、方針の内容を精査します。

図表5 人権方針の要素(例)

3. 人権課題の洗い出し、リスクマッピングの作成支援

人権デュー・ディリジェンスの出発点において必要となる人権リスクの洗い出しは、(1)外部/内部情報の収集、(2)自社事業特性を踏まえた評価、の2ステップで行います。

1. 外部/内部情報の収集

企業に求められる行動を把握するため、各ステークホルダーが何を要求しているかを調査・分析します(外部情報の収集)。並行して、企業がこれまでに検知した内部通報や苦情を収集し、人権リスクの可能性を調査します(内部情報の収集)。

収集した情報を統合および整理し、企業にとって勘案すべき人権リスクの類型を整理します。

図表6 ステークホルダーの関係概念図

2. 自社事業特性を踏まえた評価

「外部/内部情報の収集」の結果、整理された人権リスクについて、自社の事業特性などを踏まえて評価します。リスクの評価は「深刻性」と「顕在化可能性」の2軸で行い、リスクマッピングを作成して対応の優先順位を判断します。

図表7 人権リスクの 対応優先度

最後に

企業が人権を尊重した経営を実践することは、ビジネス上のリスクヘッジに結びつくと同時に、従業員のモチベーション向上や外部のステークホルダーからのレピュテーション向上にも寄与し、結果的に企業価値の向上につながることが期待されます。国連のガイドラインや各国の法令への対応は、「求められる対応」として義務化される流れがあります。同時に、人権リスクは他ならぬ人に関するものであるがゆえに、人材獲得の戦略上も重要なテーマとして位置づけられるようになるでしょう。そのため、企業独自の取り組みとして「従業員を尊重する対応」を進める企業も増えています。

PwCは、クライアントが多くのステークホルダーの支持を集められるよう、包括的なサポートを提供します。

主要メンバー

若井 潔

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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小菅 侑子

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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