IFRSを開示で読み解く(第25回)財政状態計算書で用いられる表示科目

2016-09-30

PwCあらた有限責任監査法人
財務報告アドバイザリー部
矢野 真基

今回は、IFRSを適用している国内上場企業の財政状態計算書で用いられている表示科目に関する事例分析に加えて、財政状態計算書の流動・非流動の区分と配列に関する事例分析をご紹介します。

1.基準の概要

1.財政状態計算書の表示科目に関する基準

IFRSでは、財政状態計算書に表示すべき情報として、以下(a)~(r)の金額を表す項目を掲記することが要求されています(IAS第1号「財務諸表の表示」第54項)。ただし、当該項目は、財政状態計算書上で性質や機能の違いにより区分表示することが必要となる項目を列挙したものであり、表示科目の名称を定めたものではありません(IAS第1号第57項)。

(a) 有形固定資産
(b) 投資不動産
(c) 無形資産
(d) 金融資産(次の(e)、(h)および(i)に示す金額を除く)
(e) 持分法で会計処理されている投資
(f) IAS第41号「農業」の範囲に含まれる生物資産
(g) 棚卸資産
(h) 売掛金およびその他の債権
(i) 現金および現金同等物
(j) IFRS第5号「売却目的で保有する非流動資産および非継続事業」に従って売却目的保有に分類される資産と、売却目的保有に分類される処分グループに含まれる資産との合計額
(k) 買掛金およびその他の未払金
(l) 引当金
(m) 金融負債(上の(k)および(l)に示す金額を除く
(n) IAS第12号「法人所得税」に基づく当期税金に係る負債及び資産
(o) IAS第12号に基づく繰延税金負債および繰延税金資産
(p) IFRS第5号に従って売却目的保有に分類される処分グループに含まれる負債
(q) 資本に表示される非支配持分
(r) 親会社の所有者に帰属する発行済資本金および剰余金

2.財政状態計算書の流動・非流動の区分と配列に関する基準

財政状態計算書の作成にあたり、流動資産と非流動資産、流動負債と非流動負債を、別々の区分として表示する必要があります(IAS第1号第60項)。資産および負債を流動と非流動に区分したうえで、流動性の高い順、すなわち換金性の高い順に配列する方法を流動性配列法、流動性の低い順、すなわち換金性の低い順に配列する方法を固定性配列法と呼びます。

一方で、流動性に基づく表示の方が、信頼性があり目的適合性の高い情報を提供することができる場合には、全ての資産および負債を流動性の順序に従って表示しなければなりません(IAS第1号第60項)。たとえば、金融機関などの一部の企業では、明確に識別可能な営業循環期間の中で財またはサービスを提供していないため、資産および負債の表示を流動性の昇順または降順で行う方が、流動・非流動の表示よりも信頼性があり、目的適合性の高い情報を提供します(IAS第1号第63項)。

2.開示の分析

1.財政状態計算書の表示科目に関する開示の分析

IFRSを適用する国内企業は、財政状態計算書の表示にあたって、どのような科目を用いているのでしょうか。以下の表は、2016年6月末時点でIFRSに準拠して有価証券報告書(もしくは有価証券届出書)を公開している国内上場企業(82社)を対象として、財政状態計算書の表示科目について事例調査を行い、IAS第1号第54項で列挙される(a)~(r)の項目に照らして、結果を要約したものです。

1.
IAS第1号第54項で要求されている項目

2.
1.に対して最も多用されている表示科目

3.
2.の表示科目を用いている企業数
(割合)

4.
2.の表示科目以外を用いている企業の表示科目例
(企業数)

(a) 有形固定資産

有形固定資産

80社/82社(98%)

  • Ÿその他の有形固定資産(1社)
  • 有形固定資産-純額(1社)

(b) 投資不動産

投資不動産

19社/19社(100%)

該当なし

(c) 無形資産

無形資産
(※のれんと別掲)

32社/82社(39%)

  • 無形資産(※のれんを含む)(29社)
  • 無形資産およびのれん(12社)
  • その他の無形資産(※のれんと別掲)(6社)
  • のれん以外の無形資産(2社)
  • その他の無形資産(※のれんを含む)(1社)

(d) 金融資産(次の(e)、(h)および(i)に示す金額を除く)

(流動項目)
その他の金融資産

53社/62社(85%)

  • Ÿ その他の短期金融資産(9社)

(非流動項目)
その他の金融資産

52社/62社(84%)

  • Ÿその他の長期金融資産(5社)
  • Ÿ長期金融資産(3社)
  • Ÿ金融資産(2社)

(e) 持分法で会計処理されている投資

持分法で会計処理されている投資

62社/64社(97%)

  • Ÿ持分法適用会社に対する投資(1社)
  • 関連会社および共同支配企業投資(1社)

(f) IAS第41号「農業」の範囲に含まれる生物資産

生物資産

2社/2社(100%)

該当なし

(g) 棚卸資産

棚卸資産

69社/69社(100%)

該当なし

(h) 売掛金およびその他の債権

営業債権およびその他の債権

47社/82社(57%)

  • Ÿ営業債権(9社)
  • 売上債権およびその他の債権(9社)
  • 売上債権(8社)
  • 売掛金およびその他の短期債権(4社)

(i) 現金および現金同等物

現金および現金同等物

82社/82社(100%)

該当なし

(j) IFRS第5号「売却目的で保有する非流動資産および非継続事業」に従って売却目的保有に分類される資産と、売却目的保有に分類される処分グループに含まれる資産との合計額

売却目的で保有する資産

9社/10社(90%)

  • Ÿ 売却目的保有資産(1社)

売却目的で保有する非流動資産

5社/5社(100%)

該当なし

(k) 買掛金およびその他の未払金

営業債務およびその他の債務  

45社/81社(56%)

  • Ÿ営業債務(11社)
  • Ÿ仕入債務およびその他の債務(11社)
  • 買入債務(6社)
  • 買掛金およびその他の短期債務(3社)

(l) 引当金

(流動項目)
引当金

43社/44社(98%)

  • Ÿ短期引当金(1社)

(非流動項目)
引当金

55社/59社(93%)

  • Ÿ引当金(非流動)(2社)
  • 非流動の引当金(1社)
  • 長期引当金(1社)

(m) 金融負債(上の(k)および(l)に示す金額を除く)

(流動項目)
その他の金融負債

51社/59社(86%)

  • Ÿその他の短期金融負債(8社)

(非流動項目)
その他の金融負債

48社/51社(94%)

  • Ÿ金融負債(2社)
  • Ÿその他の非流動金融負債(1社)

(n) IAS第12号「法人所得税」に基づく当期税金に係る負債および資産

(負債項目)
未払法人所得税

68社/77社(88%)

  • 未払法人所得税など(9社)

(資産項目)
未収法人所得税

21社/22社(95%)

  • 未収還付法人所得税(1社)

(o) IAS第12号に基づく繰延税金負債および繰延税金資産

(負債項目)
繰延税金負債

73社/73社(100%)

該当なし

(資産項目)
繰延税金資産

75社/75社(100%)

該当なし

(p) IFRS第5号に従って売却目的保有に分類される処分グループに含まれる負債

売却目的で保有する資産に直接関連する負債

3社/7社(43%)

  • Ÿ売却目的保有資産に直接関連する負債(2社)
  • Ÿ売却目的で保有する資産に関連する負債(1社)
  • Ÿ売却目的で保有する非流動資産に直接関連する負債(1社)

(q) 資本に表示される非支配持分

非支配持分

71社/71社(100%)

該当なし

(r) 親会社の所有者に帰属する発行済資本金および剰余金

  • 資本金
  • 資本剰余金
  • 利益剰余金

81社/82社(99%)

  • 当社の株主持分(1社)

この結果から、多くの企業の財政状態計算書では、そのほとんどの項目について基準に列挙されている項目と同一の表示科目が用いられている傾向にあることが分かります。一方で、『(h) 売掛金およびその他の債権』、『(k) 買掛金およびその他の未払金』、『(p) IFRS第5号に従って売却目的保有に分類される処分グループに含まれる負債』の表示については、比較的企業ごとに独自の科目を用いる傾向があることが分かります。

2.財政状態計算書の流動・非流動の区分と配列に関する開示の分析

IFRSを適用する国内上場企業は、財政状態計算書の表示にあたって流動・非流動の区分と配列につき、どのような方法を採用しているのでしょうか。以下の表は、2016年6月末時点でIFRSに準拠して有価証券報告書(もしくは有価証券届出書)を公開している国内上場企業(82社)を対象として、財政状態計算書の配列方法について事例調査を行い、結果を要約したものです。

業種

流動性配列法

固定性配列法

流動性の順序に従った配列方法

電気機器

11

0

0

11

サービス業

7

0

1

8

輸送用機器

10

0

0

10

情報・通信業

8

0

0

8

医薬品

2

7

0

9

卸売業

10

0

0

10

化学

2

0

0

2

機械

5

0

0

5

小売業

3

0

0

3

食料品

1

0

0

1

精密機器

1

1

0

2

その他金融業

1

0

1

2

ゴム製品

1

0

0

1

金属製品

2

0

0

2

証券、商品先物取引業

0

0

2

2

ガラス・土石製品

1

1

0

2

不動産業

2

0

0

2

陸運業

1

0

0

1

鉄鋼

1

0

0

1

合計

69

9

4

82

分析対象とした企業のうち、80%以上の企業(82社中69社)が流動性配列法を用いています。日本では、これまで流動性配列法が一般的な方法として採用されてきた経緯があることから、IFRS適用後もこの傾向を引き継いでいると考えられます。

固定性配列法を用いている企業9社のうち7社は医薬品に属する企業です。製薬企業では、特許権や研究開発費などの無形資産の重要性が高く、固定性配列法を採用する傾向にあると考えられます。

また、流動性の順序に従った配列を使用している企業が4社あり、うち3社が証券・商品先物取引業、あるいはその他金融業に属する企業です。もう1社は、サービス業に属しているものの金融業も行っており、金融事業に関する資産および負債の重要性が高い企業であるため、当該配列方法を用いていると考えられます。

3.今後の動向

1.財政状態計算書の表示科目に関する開示

基本的に、IFRSを適用している国内上場企業は、IAS第1号第54項に列挙されている項目を用いて財政状態計算書の表示科目とする傾向が強く、これは、基準の改訂などがない限り大きく変化しないと考えられます。今後もIFRSへ移行する企業が増加していきますが、同様の傾向が続くことが予想されます。

2.財政状態計算書の流動・非流動の区分と配列に関する開示

日本では流動性配列法が一般的に浸透していることから、IFRSを適用する国内上場企業の多くが流動性配列法を採用し、医薬品や金融業といった特定の業種に属する企業が、固定性配列法や流動性の順序に従った配列法を採用するといった傾向が今後も続くことが予想されます。

※法人名、部署、内容などは掲載当時のものです。

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