IFRSを開示で読み解く(第11回)リース(1)-IFRS適用によるリースオンバランスの影響

2015-08-11

PwCあらた監査法人
IFRSプロジェクト室
赤野 滋友

リース会計基準は、IFRSの設定主体(IASB)と米国基準の設定主体(FASB)が共同で進めているコンバージェンス・プロジェクトにおいて、収益認識・金融商品・保険契約とともに最も優先順位の高いプロジェクトの1つとして議論が重ねられてきました。今回は、既にIFRSを適用している日本企業のリースの開示を参考に、日本企業にとって、会計基準の違いが財務諸表の開示にどのような影響があるのかを取り上げてみたいと思います。

まず、リース会計におけるIFRSと日本基準の主要な差異となる論点は以下があげられます。

  1. 「契約にリースが含まれているかどうかの判断」(IFRIC第4号)は、リース契約の形式に関わらず、資産の使用権が移転するかどうかをもとにリースと判断することを求めています(注1)。一方、日本基準では、IFRSのような詳細な判断基準は示されていません。よって、日本基準ではリースと認識していなかった取引がIFRSではリース取引と判断される可能性があります。
  2. 日本基準特有の会計処理として、2008年3月31日以前に開始した所有権移転外ファイナンス・リース取引について、引き続き賃貸借処理することが認められていますが、IFRSではファイナンス・リース取引の賃貸借処理は認められていないため、オンバランス(貸借対照表に資産と負債を両建て計上)されます(注2)。
  3. リース契約1件当たりのリース料総額が300万円以下の所有権移転外ファイナンス・リース取引(いわゆる少額リース資産)や、リース期間が1年以内のリース取引(いわゆる短期リース取引)の賃貸借処理が日本基準では容認されていますが、IFRSではこのような例外規定はないため原則オンバランス処理されることになります。

上記のようなリース会計におけるIFRSと日本基準の差異により、日本企業がIFRSを適用した場合、オンバランス処理されるリースの金額が一般的には増加することになります。2015年6月8日時点において、有価証券報告書を公表しているIFRS適用企業の開示例からIFRS適用によるリース取引のオンバランスによる影響を下記表にまとめました。ここでは、借手のファイナンス・リースのオンバランスの影響に絞って、IFRS適用前年度の有価証券報告書(従前の会計基準)に記載されているリース債務の金額と、IFRS適用年度の有価証券報告書(IFRS)に比較情報として記載されている前期末のリース債務の金額(前年度のIFRSベースの数値)を比較しています(注3)。


表1:IFRS適用前後のリース債務増減の社数

IFRS適用前後の
リース債務の増減

企業数

増加

17

減少

3

増減なし

5

合計

25

表1からみてとれるように、大半の企業においてIFRS適用によりリースとしてオンバランス処理される金額が増加しています。全く増減がない企業は25社中5社にとどまっていることから、IFRSの適用によりオンバランスされるファイナンス・リース取引の金額が何らかの影響を受ける可能性が高いことを示唆しています。続いて、業種ごとに増減額および増減率をみていきたいと思います。

 

表2:業種別 リース債務増減額

業種

平均増減額(百万円)

情報・通信業

18,697

卸売業

4,565

精密機器

956

医薬品

649

サービス業

377

食料品

357

証券

52

小売業

0

不動産

0

電気機器

▲402

ガラス・土石製品

▲424


表3:業種別 リース債務増減率

業種

平均増減率(%)

精密機器

71

サービス業

18

医薬品

16

卸売業

14

情報・通信業

5

食料品

3

証券

1

小売業

0

不動産

0

ガラス・土石製品

▲8

電気機器

▲37

IFRS適用前後においてオンバランス処理されるリースの金額が増減している主な要因は、上述のIFRIC第4号もしくはファイナンス・リースとオペレーティング・リースの分類の変更による影響により増加しているものと考えられます。また、日本基準ではこれらに加えて、例外的に賃貸借処理している2008年3月以前の所有権移転外ファイナンス・リース取引の取扱残高が多いほど、IFRS適用後においてオンバランス処理されるリースの金額が多くなると考えられます(注4)。

(注1):
IFRIC第4号ではリースに該当するか否かの判断基準について下記のように定義しています。

  • 契約がリースであるか(またはリースを含んでいるか)の判断は、契約の実質を基にしなければならず、次のことの検討が必要となる。(IFRIC第4号第6項)
    (a)契約の履行が、特定の資産や資産群の使用に依存しているかどうか
    (b)契約により、当該資産を使用する権利が与えられるかどうか
  • 特定の資産が契約において明示的に識別されているが、契約の履行が当該特定資産の使用に依存しない場合、このような資産はリースの対象ではない。(IFRIC第4号第7項)
  • 契約が購入者(借手)に原資産の使用を支配する権利を移転する場合、その契約は当該資産の使用権を移転することになる。次の条件のいずれかが満たされる場合、原資産の使用を支配する権利が移転されることになる。(IFRIC第4号第9項)
    (a)購入者は、当該資産を、当該資産からのアウトプットまたは他の用益のうち無視できない量を取得または支配しつつ、指定した方法で、操業するかまたは他者に操業させる能力または権利を有している。
    (b)購入者は、当該資産からのアウトプットまたは他の用益のうち、無視できない量を取得または支配しつつ、原資産への物理的なアクセスを支配する能力または権利を有している。
    (c)事実と状況から、契約期間中に当該資産によって製造または生成されるアウトプットまたは他の用益のうち無視できない量を、当該購入者以外の当事者が取得する可能性はほとんどないことが示唆され、当該アウトプットに対して購入者が支払う価格は契約上のアウトプット単位当たりで固定されておらず、またアウトプットの引渡時点におけるアウトプット単位当たりの現在市場価格とも等しくない。

(注2):
「リース取引に関する会計基準の適用指針(企業会計基準適用指針第16号)」(最終改正:2011年3月25日)第79項

適用初年度開始前の所有権移転外ファイナンス・リース取引の取扱い(借手)79.さらに、リース取引開始日が会計基準適用初年度開始前のリース取引で、本会計基準に基づき所有権移転外ファイナンス・リース取引と判定されたものについては、第77項または第78項の定めによらず、引き続き通常の賃貸借取引にかかる方法に準じた会計処理を適用することができる。

(注3):
IFRS適用前年度の有価証券報告書の中で、ファイナンス・リース取引の該当がないとしている企業は調査対象に含めていません。

(注4):
IFRS適用年度に記載する初度適用の注記(従前の会計基準とIFRSの会計基準差異が利益剰余金に与える影響額を記載)において、リース会計における会計基準差異を要因として記載している企業は2015年6月8日時点ではソフトバンクの1社のみとなります。
ソフトバンクの有価証券報告書では、下記のように要因を記載しています。
「リース取引契約日が2008年4月1日より前の所有権移転外ファイナンス・リース取引について、日本基準では例外的に認められた賃貸借取引にかかる方法に準じた処理によっていましたが、IFRSではリース資産およびリース債務を認識しています。」(2014年3月期 ソフトバンク 有価証券報告書 229頁より抜粋)

※法人名、部署、内容などは掲載当時のものです。

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