IFRSを開示で読み解く(第4回)未適用の新基準に関する開示

2015-02-13

あらた監査法人
財務報告アドバイザリー部
厨子 君太朗

IFRSでは、新基準が公表されているが強制適用前であり、かつ、当該IFRSを早期適用しない場合には、以下の開示をしなければならないとされています(IAS第8号第30項、31項参照)。

  • 新たなIFRSを適用していない旨
  • 新たなIFRSが適用初年度の財務諸表に及ぼす起こり得る影響の評価に関連性のある既知のまたは合理的に見積可能な情報

この開示の目的は、新たなIFRSが企業の財務諸表に及ぼす起こり得る影響を利用者が評価できるようにするためのものであることから、新たなIFRSが明らかに企業に適用されない場合(例えば、特定の業種に特有の会計基準)や企業に対する影響に重要性がないと予想される場合には、実務において、これらの事項を開示する必要はないものと考えられています。このため、実際に同一年度におけるIFRS適用済企業の有価証券報告書においても、開示の記載の有無や記載がある場合には、その内容に差異が生じています。

以下では、日本におけるIFRS適用企業38社(2015年1月31日現在)のうち、IFRSに基づいて作成した有価証券報告書を提出しており、かつ、同一時点での比較を行うため、3月決算企業の有価証券報告書(2014年3月期)を調査対象(合計23社)として、どのような未適用の新基準が開示されているのかを分析します。

 

【表1】IFRS適用企業のうちIFRSに基づく有価証券報告書提出済みの3月決算企業数
(2015年1月31日現在)

業種

企業数

卸売業

7

医薬品

5

電気機器

3

情報・通信業

2

証券・商品先物取引業

2

ガラス・土石製品/サービス業/食料品/精密機器(各業種1社)

4

合計

23

2014年3月31日現在において、IFRS新基準が公表されているが、強制適用前のIFRSの一覧は下記のとおりです。

 

【表2】未適用の新基準一覧(有価証券報告書(2014年3月期)提出時点)

国際財務報告基準

強制適用時期
(以降開始年度)

新基準公表日

新設・改訂の概要

IFRS第2号

株式に基づく報酬

2014年7月1日

2013年12月12日

権利確定条件に関する定義を明確化

IFRS第3号

企業結合

2014年7月1日

2013年12月12日

ジョイント・アレンジメントの形式について、IFRS第3号「企業結合」の適用範囲外とすることを明確化

 

 

2014年7月1日

2013年12月12日

企業結合における条件付対価の分類、事後測定の会計処理の明確化

IFRS第7号

金融商品:開示

未定

2013年11月19日

ヘッジ会計に関連する開示規定の改訂

IFRS第8号

事業セグメント

2014年7月1日

2013年12月12日

事業セグメントを集約した場合の開示の拡充
報告セグメント資産の合計額から企業の純資産への調整表の開示要請の明確化

IFRS第9号

金融商品


(2018年1月1日暫定合意)

2013年11月19日

ヘッジ会計に関する改訂

IFRS第10号

連結財務諸表

2014年1月1日

2012年10月31日

新たに定義された投資企業における会計処理を設定

IFRS第11号

共同支配の取り決め

2016年1月1日

2014年5月6日

共同支配事業を取得する場合IFRS第3号に準拠

IFRS第12号

他の企業への関与の開示

2014年1月1日

2012年10月31日

新たに定義された投資企業に関する開示要求の追加

IFRS第14号

規制繰延勘定

2016年1月1日

2014年1月30日

料金規制業種における規制繰越勘定の会計処理について規定

IFRS第15号

顧客との契約から生じる収益

2017年1月1日

2014年5月28日

収益認識に関する包括的なフレームワークの提供

IAS第16号

有形固定資産

2016年1月1日

2014年5月12日

・収益に基づく減価償却方法の取り扱いの明確化
・許容可能な減価償却および償却の方法の明確化

IAS第19号

従業員給付

2014年7月1日

2013年11月21日

確定給付制度における従業員と第三者による拠出に関する改訂

IAS第24号

関連当事者についての開示

2014年7月1日

2013年12月12日

経営幹部サービスを提供する企業が、報告企業の関連当事者に該当することを明確化

IAS第27号

個別財務諸表

2014年1月1日

2012年10月31日

投資企業の個別財務諸表における投資の会計処理

IAS第32号

金融商品:表示

2014年1月1日

2011年12月16日

金融資産と金融負債の相殺表示の要件の明確化および適用指針の追加

IAS第36号

資産の減損

2014年1月1日

2013年5月29日

重要なのれんまたは耐用年数を確定できない無形資産を含む資金生成単位の回収可能価額の開示に関するガイドラインの明確化
非金融資産の回収可能額の開示

IAS第38号

無形資産

2016年1月1日

2014年5月12日

許容可能な減価償却および償却の方法の明確化

IAS第39号

金融商品:認識および測定

2014年1月1日

2013年6月27日

デリバティブの更改とヘッジ会計の継続に関する改訂

IAS第40号

投資不動産

2014年7月1日

2013年12月12日

投資不動産の取得が資産の取得取引か、企業結合取引かについて、IFRS第3号に掲げる指針に従い判断すべきことを明確化

IFRIC第21号

賦課金

2014年1月1日

2013年5月20日

賦課金の負債認識に関する取り扱いの明確化

【表2】のIFRSの各基準を、2014年3月期の有価証券報告書において、未適用の新基準として開示している企業数を業種別に示したものが【表3】になります。

【表3】未適用の新基準の業種別掲載社数(単位:社)

【表3】を見ると以下の3点が読み解けます。

(1)IFRS第15号、IFRS第9号、IFRIC第21号は、多くの企業が開示対象にしておりますが、IFRIC21は、限定された範囲の解釈指針であることから、業種に関わりなく一定の影響がある可能性が見込まれる新基準について開示対象としている傾向が推察されます。

(2)開示対象を非常に限定している企業(「ガラス・土石製品業」など)がある一方で、広範囲な開示を行っている企業(「卸売業」「食料品」「精密機器」など)があり、また、総合商社を中心とする「卸売業」の中でも広範囲な開示を行っている企業とそうではない企業があるなど、業種間や業種内での一定の開示の傾向は見受けられません。

(3)未適用の新基準および解釈指針(21種類)のうち開示を行っている企業数が10社を超えている基準または解釈指針は6つに留まっており、多くの企業は重要性に照らして、企業に影響が見込まれる基準または解釈指針について開示するという実務があることが推察されます。

※法人名、部署、内容などは掲載当時のものです。

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