CEOインタビュー:サントリーホールディングス株式会社 代表取締役社長 新浪 剛史氏

サントリーの第3四半期決算が発表されましたね。今期もすばらしい業績だったようで、ご同慶の至りです。
社長就任から1年がたちますが、サントリーの今後について、どうお考えですか?成長の見通しは明るいでしょうか?

売り上げと利益については、特に今年と来年は、ビームサントリーやヨーロッパ飲料メーカーのオランジーナとルコゼード ライビーナ サントリーの海外事業が貢献しています。つまりサントリーホールディングスの原動力は、日本から海外へのシフトが進んでいるわけです。これは来年度以降も続きます。グローバルな拡大戦略を今後も確実に強化していきます。今期の数字は(当社業績のことですが)、海外展開の強化という戦略が表れたものです。

なるほど、ありがとうございます。さて、世界の新しい動きについて少しお伺いします。
世界では再びさまざまなことが起きています。政治の問題は別にしても、TPP(環太平洋経済連携協定)、AIIB(アジアインフラ投資銀行)などが成立しました。世界のビジネスの方法は、引き続き収斂されていくのか、それとも、そろそろ多様化へと向かい始めるのか、どうお考えですか?

収斂に向かうのは間違いないと思います。すなわち、TPPのような地域経済圏と言うひとつの方法に収斂するでしょう。TPPの利点は、貿易だけでなく知的財産権も含めて自由にビジネスができることです。こうした自由な経済圏をもっと広げ、より多くの国や市場参加者が恩恵を受けられるようにするべきです。現在の参加国は少なすぎますが、TPP経済圏全体では、すでにGDPにおいて大きな経済的価値を見せており、TPPで設定された高い基準は、未参加国にとっても魅力的に映るはずです。政策は包摂的であるべきで、排他的であってはなりません。
従ってTPPのような経済圏の動きは、より多くを作り出し、より広い地域を網羅すると思います。例えば将来は中国も参加するだろうと考えます。貿易という面だけでなく、非関税障壁や食品衛生その他、数多くの分野に幅広く適用することができます。これらは、TPP参加国間の障壁を低くするために、さらなる話し合いが必要な分野です。

RCEP(東アジア地域包括的経済連携)もまた、将来的に各国間の障壁を低くする動きとして注目しなければなりません。世界は自由貿易へとシフトしていくと思います。私たちもこのトレンドを活用したいと考えていますし、日本政府にもTPPの参加国を増やす機会を模索していただくよう、お願いしたいと思います。RCEPも最終的にTPPと同様のものになるでしょう。
基準が非常に重要です。基準を高く設定しなければなりません。

不安定な時代の中で成長するには

不安定な時代の中で成長するには

世界の動きの非常に明るい点についてお話しいただきましたが、逆に懸念されていることや、産業界もしくはサントリーにとって脅威だと感じていることはありますか?

デフレです。現在の状況は、過去にも経験した供給過剰の状態です。その最たるものが中国で、中国の供給量は自国で消費できる量を超えています。そこで当然、輸出を望みます。加えて、多くの国は、中国が安定的に成長すると期待していました。しかし中国経済は突然軟化し、中国の成長を期待していた国々の生産活動が影響を受けました。その結果、世界全体で大量の供給過剰が生じ、これは世界の経済活動に影響を与えるでしょう。私はその点を懸念しています。

とはいえ、差別化が必須であることは間違いありません。より革新的な製品を提供できる独自性の強い企業になる必要があります。他社と同じことをしていては、デフレが起きたときに戦えません。そこでイノベーションが鍵になります。イノベーションを起こすために、もっとダイバーシティー(そこがまさに日本企業の弱点なのですが)を推進したいと考えています。ダイバーシティーを目指すうえで、ビームの買収は非常に重要なポイントです。この買収によって、現在のダイバーシティーのレベルと将来のレベルのギャップを埋めることができます。私の懸念を解消する鍵は、イノベーションです。

分かりました。ダイバーシティーはイノベーションに実際にどんな影響を与えるとお考えですか?またワールドリサーチセンターの開設など、すでに実施した取り組みについても、お話し願えますか?ダイバーシティーが実際にどのようなかたちで、サントリーでのイノベーションの促進をもたらしたのかに興味があるのですが。

5年ほど前に海外事業の買収を始めましたが、それまでサントリーは、非常にドメスティックな会社でした。日本の人口は明らかに縮小に向かっています。そのため国外の成長を捉えなければなりません。すなわち消費財(CPG)分野で独自の個性を持った企業になって、グローバルプレーヤーと競争しなければならないということです。それにはさまざまなアイデアが必要で、数年前のサントリーのように、日本のアイデアだけに固執していては実現できません。そこで京都にワールドリサーチセンターを設立しました。さまざまな考え方、思考プロセス、アイデアを持った海外の方に来ていただき、その力を結集して、日本だけでなく、もっと世界に受け入れられる他社とは異なる独自の製品を作り出すためです。

時にはダイバーシティーは混乱をもたらすこともあります。そのときに混乱にどう対処するか?明らかなことが2点あります。
まず混乱は起きるものだということ。そして、その混乱にどう対応するかが課題だということです。
特にサントリーは、これまでにないレベルのダイバーシティーに取り組んでいますから、それが顕著です。これはトレードオフなのです。第一に、混乱の回避を取るか、将来のための新しいアイデアを取るかという問題です。従って、ここで私が強いリーダーシップを発揮し、決然とダイバーシティーの強化を進められるかどうか、それがサントリーがイノベーティブな企業になれるかどうかの鍵だと思います。新しいアイデアは、うまくいかないこともありますが、それでも挑戦を続け、新しいものを作り出すために新しいアイデアを取り入れなくてはならないのです。サントリーの創業の精神の中にも、他社と同じことをしていてはいけないとうたわれています。人まねではなく、新しいものを作り出さなければなりません。そしてサントリーにとっては、ダイバーシティーそのものが、新しい取り組みです。

素晴らしいお話ですね。その点については後ほどもう一度お伺いしたいと思いますが、その前にまず、世界を見渡していただきましょう。世界各地の成長をどう見ていらっしゃるかお伺いします。世界各地の短期的・中期的成長について、新浪様はどのようなご見解をお持ちですか?世界の中で突破口になるのはどこでしょうか?欧米ですか?

米国は緩やかに成長すると考えています。私にとって米国は、成長が期待できる最も重要で回復力の強い市場ですし、当社にとっても最も重要な市場です。ビームサントリーも米国にあります。米国は成長するでしょう。成長率はおそらく3%程度だと思います。非常に控えめですが、良い数字です。実際これはセキュラースタグネーション(長期停滞)と言うには高い数字です。したがって当社が最優先で目標とする市場は米国です。
次いで目指す市場がASEAN諸国です。成長には苦労していますが、人口が若いですから、この先も成長してほしいと思います。その成長が利益に変わるには時間がかかりますが、最終的に成長の恩恵を受けるために、ASEAN市場に参入しておきたいと思っています。

欧州はどうでしょうか?10年ほど前に欧州に投資されましたね。これについてどうお考えですか?

デフレになりかけていると思います。デフレになる可能性があります。量的緩和は成功しています。ドラギ総裁の采配は素晴らしいと思います。とはいえ、もう少し良くなってもいいと思います。難民問題などの社会問題や、その他の問題が数多く表面化しつつあります。欧州各国の指導者たちは、こうした問題に非常に適切に対応しています。しかし構造改革が必要です。需要を創出するための構造改革を実施しなければなりません。なぜならば、マネーは供給されていますが、民間セクターからの投資を吸収する需要はどこにありますか?
日本は現在の欧州の状況と同じかもしれません。日本も長期のデフレを経験しました。欧州がデフレに陥らないことを望みます。もしデフレの兆候が見られた場合は、厳格に対応すべきです。デフレの病はなかなか治りませんから。

ではアジアについて詳しく伺います。中国についてはすでにコメントされましたが、中国に関するご見解はどうですか?付け加えることはありますか?

中国は、最も分析が難しい地域ですね。現在のリーダーはソフトランディングに向けて、十分に賢明なかじ取りをしていると思います。

では日本はどうでしょう?日本についての見通しをお聞かせください。

日本については楽観視しています。アベノミクスが奏功して人々の期待は高まっています。ほんの3年前の出来事を思い出して現在の状況と比較してみても、世の中のムードは非常に前向きになっています。この前向きな空気をいかに継続するか、持続させるかは、政府と企業がいかに協力して賃金を上げ続けるかにかかっています。さらにもう一つの問題は、民間セクターの投資を可能にするために、いかに需要を創出するかです。そこでは何が求められているか?ひとつは、高齢化などの社会問題の解決です。介護施設、予防医療、持病の悪化防止など、大きなニーズがあります。ここで言う病気とは、糖尿病など主に慢性疾患のことです。どうすればこうした慢性疾患の増加を止められるか?そこでテクノロジー、健康であること、そしてデータ分析、すなわちビッグデータが必要になります。日本社会の現状、例えば慢性疾患などの軽い疾患を抱えた高齢者への対策などには、ビッグデータ分析が非常に有効です。どうすれば病気の悪化を防げるでしょうか?そこにテクノロジーの需要、言い換えれば投資機会が存在しています。

需要や潜在需要は確かに存在していますが、どうすれば、その需要を顕在化させて民間からの投資を引き出せるでしょうか?私が言いたいのは、多かれ少なかれ、公共サービスです。当社のような民間セクターは、切り込んでいくことにためらいを感じます。したがって民間投資を刺激するために、起爆剤として現行の官民が取り組んでいる資金を活用すべきだろうと思います。それはモラルハザード(倫理観の欠如)だという人もたくさんいますが、私たちは今、異常事態にあるわけで、20年もデフレが続くというのは異常です。ですから通常の方法で現在の状況に対応することはできません。私たち民間と政府が手を携えて解決すべきであり、そうすれば解決によって需要が創出されます。

そこで政府はまず、医療分野などの規制緩和を行って、岩盤規制を崩さなくてはなりませんし、医師や看護師など現在のプレーヤーを除外すべきではありません。彼らも含めて、彼らが今よりもっと幅広く優れたサービス(介護施設など)を提供するような新しいビジネスをもっと創出すべきです。そこには大きな可能性があると思います。問題は、安倍政権のリーダーシップの下、どれだけ迅速に顕在化できるかということです。実現は可能だと思います。

それから農業です。この分野の事業も、民間の投資を呼び込めるはずです。農業分野は、実際に需要を創出するでしょう。

多様なステークホルダーへの対応

多様なステークホルダーへの対応

次に経済情勢全般の話から少し離れて、ステークホルダーの話に移りましょう。私たちが話しているような、さまざまな世界的な動きが起きており、世界の多くの地域でビジネスに関与してくるステークホルダーの数が増えていると思います。しかもステークホルダーからの要求も増えています。
ステークホルダーについてサントリーはどう考え、自らをどのように見せていますか?

外部からサントリーホールディングスのCEOに就任した私から見ると、これはサントリーの歴史を見たときに、第一の課題だと思います。サントリーホールディングスが、利益の中から社会に還元していることは、明らかな事実です。複数のステークホルダーがいるということは、常に社会に還元し、社会の支持を得なければならないことを意味していると思います。この考えは私たちの創業の理念であり、活動の根底にあるものです。すなわちビジネスをするうえで、長期的視点に立ち、よき企業市民であり続けなければならないということです。当社のあらゆる資産を活かし社会に貢献していきたいと思います。

例えば、当社はたくさんの天然水を使います。だから、当社は天然水を保護しなければなりません。そのために利益の中からある程度の資金を支出します。それが最も重要なことです。私たちは水を使い、そして使った以上の天然水を社会にお返しします。それは今後も継続しなければなりません。そうすることによって、私たちはビジネスを続けることができます。社会に還元する、社会に目を向けることがまず最初で、次に利益を上げることができ、そしてそれによって社会に還元することができる。こうしたサイクルが繰り返されることが非常に重要です。
陰徳であるため活動は皆さんの目には見えませんが、継続的、持続的に実行していかなければなりません。そのためには利益を上げる必要がありますが、しかし常に社会への貢献を続けなければなりません。当社ではそのようにして、複数のステークホルダーに対応しています。

興味深いお話です。よく分かりました。他のインタビューで、ルーツのある企業と根のない企業の違いについてのお話されているのを見ましたが、伝統やファミリーに深く根付いた企業であるサントリーは、その点についてはいかがでしょうか?

ダイバーシティーによって新しいものを取り入れなければならないと思います。ダイバーシティーという方針そのものが、サントリーホールディングスにとっては新しいものです。とはいえ、創業の精神から受け継がれている古いものも大切にしなければならないと考えています。
すなわち、何がサントリーの未来に有益なのか、そうでないものは何か、サントリーが持ち続けるべきではないものは何かを、明確に見極めることが必要なのです。有益なものは、間違いなく創業の精神です。先ほども説明しましたが、当社の創業の精神は、他と違うことをするということ、社会や消費者と効果的かつ効率的にコミュニケーションを取ること、利益を上げた中から社会に貢献することです。この考え方は維持するべきであり、私たちの活動の大切な基盤になっています。
そのため私はサントリー大学という企業内大学を設置しました。世界中の社員に来てもらって、大切な創業の精神を伝えます。創業の精神は受け継いでいかなければなりません。

私たちがしなければならないことは、今何が起きているか、これから何が起きるかを知ることです。そのうえで、ビジネスの方法を変えなければならないと思ったら、そうすべきです。
例えば宣伝についてですが、当社はCMを使うのが得意です。私の先輩、そうですね、1970年代のサントリーの経営者は「これからはテレビが普及するぞ。テレビを活用すれば消費者との有効なコミュニケーションチャンネルになる」と言いました。しかし今はスマートフォンであり、iPadです。人々とコミュニケーションを取るツールは変わってきています。だからビジネスのやり方も変えなければなりません。従来の方法にこだわっても、現在の成長につながる解決策は得られません。従って歴史の中の何かを変えなければならない。一方変えてはならないものもある。それは創業の精神です。

ダイバーシティーによるイノベーションの促進

関連して次のテーマに移っても構いませんか?まず初めに、貴社の団結についてですが。
デジタル以外について見てみると、すでにお話しいただいたグローバルvs日本、労働力の多様性、デジタルなど、非常に多くのことに取り組んでおられます。そうした中で、組織の統一について、それは最終的なインクルージョンということでありませんが、どのように統一されますか。社内の多くの方が新浪様と足並みをそろえて歩いておられるのでしょうか?

はい。そこはもちろん、多様であってはいけませんね。多様な行動をとって混乱を招いてはいけません。そこでサントリー大学が非常に大切になってくるわけで、社員をまとめ、ひとつの方向に向かわせます。メッセージはシンプルであるべきだし、毎年、全管理職に集まってもらって、私が方向性に関する話をします。これはテレビ会議などではなく、直接顔を合わせて伝えなければなりません。会議の後で、直接対面してコミュニケーションを取ります。デジタル時代だからこそ、直接会うことが貴重なのです。
そして感じることです。皆さんに私の指示を感じてもらい、理解してもらい、そして議論します。
そうすることによって、サントリーホールディングスは、明確なコミュニケーションを目指しています。日本の文化は本当にあいまいです、しかし私たちは多くの国の人々とお互いに話し合わなければなりません。あいまいな方向性ではなく、ひとつの明確な方向性を指し示し、明確なコミュニケーションを行うことが欠かせません。それが私の使命です。

分かりました。お書きになった生原稿を拝見すると、非常に面白い点がもう一つあります。「やってみなはれ」という考え方です。これは試みや挑戦を起こさせる興味深い考え方です。これまでお話しいただいた経緯の中で、方向性を明確にするために、ご自身もこの言葉を使ってきましたか?どうやって社員に挑戦させるのですか?

「やってみなはれ」は創業の精神から来ています。創業の精神の第一は、人と違うことをしろ、ということで、やってみなければ分かりません。そのためサントリー大学では、多くの人々が「やってみなはれ」を感じ、挑戦しています。新しいことをしないことは恥ずかしいことだと思う。それが当社の企業文化です。また買収した企業にも、その文化を知ってもらわなければなりません。文化は共有すべきです。それはつまり、大半の管理職がここへ来て「やってみなはれ」を雰囲気として、感じるということです。
だから私は、サントリーに仲間入りしたばかりの海外の皆さんに感じてもらうための環境を整えようとしています。例として、小さな事例ですが「やってみなはれ大賞」というキャンペーンを始めました。1000人以上もの応募が殺到しました。「やってみなはれ」を浸透させるための、ある種の社内マーケティングですね。社内のすみずみにまで浸透させるために、本社でそういうことを実施しています。

面白いですね。それに関してもう少し個人的な質問をさせていただけますか?
組織のリーダーとして、最終的には新浪様ご自身と一致していなければ、つまり、ご自身の目標でもなければならないわけですよね。このふたつをどのように整合させていますか? サントリーが目指すものと新浪様が目指すものは完璧に一致しているのですか?もしくは、どのように・・・。

素晴らしい質問ですね。私も、まさに新しい経験によって自分自身を差別化したいと思っています。
私はコンビニエンスストアチェーンのローソンにいました。そして「やってみなはれ」精神で新しいことに挑戦したいと思ったのです。サントリーの創業の精神も、会長の佐治さんも、私にとって非常に魅力的です。佐治さんはまさに「やってみなはれ」そのものです。私もどんどん挑戦したいです。超ドメスティックな企業と超アメリカンな企業の橋渡しをすることもその一例です。それは日本の企業にとっても、日本人のゼネラルマネジャーにとっても、新しい挑戦です。
これが私にとっての「やってみなはれ」であり、私の人生です。

社会への影響の測定とターゲットへの伝達

社会への影響の測定とターゲットへの伝達

4つ目のテーマに移ります。今回はまた、少し概念的な話です。先ほどのお話の中で、世の中の動きや、ステークホルダーの期待に少し触れましたが、今度は社会への影響の測定について、どうお考えですか? 今後、現代の企業の役割となるべきものでしょうか?

現代の若い世代のことを考えてみると、彼らは測定基準を持っていると思います。私たちはそれを組織に取り入れるべきだと思います。それが私たちにできることであり、長期的視点での社会貢献だと思います。
長期的とは、10年ということです。私はビジョンを持って10年後を見通し、何が起きるかを予測しなければなりません。米国のミレニアルズのような人々に、企業市民として受け入れてもらえなければ、例えば天然水の保全などで社会に貢献し、本業だけでなく、社会のために何をするかは、非常に重要です。
測定することは難しいですが、世界のどこでも常にミレニアルズの反応に敏感でなければなりません。どこであれ、たとえ高齢化が進んでいる場所であっても、ミレニアルズ世代が存在します。彼らは将来、国のリーダーになります。ミレニアルズの反応を確認することで、私たちが企業市民として正しいことをしているかどうか確かめることができます。しかしそれでもやはり、私たちはビジネスで結果を残してこそ社会に貢献することができるのです。
私たちが例えば芸術や音楽などの分野に貢献できているのは、サントリーホールディングスがサントリー美術館やサントリーホールの運営に巨額の投資を続けることによって実現できています。これはよいことであり、私たちの誇りです。わが社のCSRの一環です。

それに加えてもうひとつの貢献ツール、ミレニアルズに偉大な企業だと感じてもらえるツールを持たなければなりません。それが天然水の保護です。当社は常に、それぞれの国の未来であり、若い世代であるミレニアルズに注意を向けています。

若い世代が鍵です。それが私たちの測定基準です。

それは非常に面白いポイントです。私たちPwCも、当然、指標やその他の測定にいささか注力しております。それについて興味深いポイントを指摘してくださいました。ミレニアルズに本当に影響を与えたいと思った場合に、測定したり、指標の動きを伝えたりすることは、本当に重要でしょうか、それとも新しい世代にとって、そういうことは重要ではないのでしょうか?

それは間違いなく重要だと思いますよ。しかし、彼らの反応を確実に見たいと思います。トレンドを決めるのは、おおむね米国です。特に、米国のミレニアルズ世代ですから、彼らのことや、こちらの行動に反応して彼らがどう行動するかを理解することは不可欠です。ビームサントリーにも、サントリー本体にも、多数の製品やサービスがあります。だから、私たちの行動に対する彼らの反応を知りたいです。米国のミレニアルズは、これからの当社が何をするかにおいて、最も重要なセグメントであることは間違いありません。

将来のことをお伺いしますが、新浪様はローソンに、確か10年ほどいらっしゃいましよね。そこでサントリーにも最低10年はいらっしゃると仮定するとして、10年後、15年後の世界はどうなっているとお考えですか?今の状況とはどこが違っているでしょうか?

IT、インターネット、人工知能が今より手軽に使えるようになるため、人間同士のコンタクトがもっと重要になると思います。すなわち10年後には、ハイテクに対応してハイタッチがより大切になるということです。美術や音楽など芸術的なものは、人々の心にやすらぎを作り出しますから、重要性が高まります。その意味でハイテクの高まりとともに人間らしさも高まり、その両方が今より重要になるのです。とりわけ私が強調したいのは、人間同士の触れ合いや、人間的な感覚の重要性が高まるということです。そういうものが重要になるでしょう。
だから共通善として、良い人間になれるように、自らの心を磨かなければなりません。そういうことが、非常に重要になると思います。

10年後、15年後のサントリーを思い描いたときに、サントリーが達成したことで、新浪様が最も満足感を持つのはどのようなことですか?

サントリーの商品だけでなく、サントリーそのものが、世界でなくてはならないものになることです。それが私のビジョンであり、果たすべき使命です。

新浪様ご自身が、本当に満足を感じるのは、いつでしょう。10年後、15年後ですか?

そうですね。10年と言っておきましょう。しかし5年以内に、せめて小さな予兆でも見たいですね。

新浪 剛史氏プロフィール
1959年生まれ。1981年三菱商事株式会社入社。1991年ハーバード大学経営大学院を修了し、MBAを取得。株式会社ローソン 代表取締役CEOを経て、2014年10月より代表取締役社長に就任。また、公益社団法人経済同友会 副代表幹事、内閣府税制調査会 特別委員、内閣府経済財政諮問会議 議員など多数の公職も務める。