雇用促進税制の紹介

2017-02-24

2016年4月1日よりインドの雇用促進税制(インド所得税法Section 80JJAA)が改正されました。これは新たに従業員を雇用した場合、増員分の従業員給与の一部を課税所得から控除することにより納税額を圧縮できる制度で、より多くの会社が適用を受けられる可能性がありますので、今回はその概略をご紹介したいと思います。

まず、この雇用促進税制は1998年により多くの雇用機会を創出する目的で導入されました。しかし適用を受けるための要件が非常に厳しく、実際にこの優遇税制のメリットを享受している会社はほとんどないという状況でした。

2016年インド財政法の改正では大幅に要件が緩和され、次のような点が変更になりました。

  1. 対象業種
    従来は、製造業のみが対象でしたが、今年度からは業種による制限がなくなり、販売会社なども制度の適用を受けることができます。

  2. 適格要件
    従来は、雇用促進税制の対象となる従業員は、年度のうち300日以上の期間の雇用、職種としては工場のブルーカラー、月額給与が6,500ルピー以下である必要がありましたが、今年度からは年度のうち240日以上の期間の雇用、職種の制限なし、月額給与が25,000ルピー以下(Cost to Companyベース)、Provident Fundへの加入が要件となりました。対象となる従業員の範囲が大幅に拡がっています。

  3. 増員要件
    従来は、前年度末の従業員数との比較で10%以上の従業員の増加が必要でしたが、今年度からは当該要件は撤廃されました。従って、前年度末と比較して1名以上従業員を増員していれば、制度の適用を受けることができます。

  4. 優遇内容
    従来は、増員した従業員に関する給与のうち、100名を超える分の従業員給与について、30%の所得控除を3年間受けることができました。今年度からは、100名を超える分という制限が撤廃され、増員した従業員の給与の30%の所得控除を3年間受けることができます。

例えば、2016年4月に月額給与25,000ルピーの従業員を100名追加で採用した場合のメリットは下記のようになります。

  • 従業員給与(増員分):30,000,000ルピー(25,000ルピー*12カ月*100名)
  • 所得控除金額:9,000,000ルピー(30,000,000ルピー*30%)
  • 節税効果(概算):3,114,000ルピー(9,000,000ルピー*34.6%(実効税率))

所得控除は、2016年度、2017年度、2018年度の3年度にわたって受けることができますので、3年間累計では27,000,000ルピーの所得控除を受けることができます。

上記のように、制度の設計が大きく変わり、これまでは対象でなかった会社であっても今年度からは十分に対象になりうる制度となっています。日系企業各社におかれましても従業員の採用戦略を検討する際に、この雇用促進税制の影響を考慮し、税務メリットを最大限に享受できるように計画を立てることが重要になると考えます。

黒柳 康太郎(くろやなぎ こうたろう)

2002年中央青山監査法人名古屋事務所に入所、製造業を中心としたグローバル企業の会計監査および内部統制導入アドバイザリー業務などに従事。2006年あらた監査法人入所後、2009年より2年間PwC US(ピオリア事務所)へ赴任し、米国グローバル企業の会計監査業務に従事。2015年6月よりPwCインド(バンガロール事務所)に赴任。PwCインドにおいては南インドを中心に監査・税務・アドバイザリーを幅広く担当する。日本国公認会計士。なお、本文中の意見に係る部分は、全て筆者個人の私見である。