第17回 金融商品の分類と測定をめぐって

2012-06-16

1 はじめに

国際会計基準審議会(IASB)は,7月14日に公開草案「金融商品:分類及び測定」(以下「IASBの改訂案」という)を公表した。IASBは,現行の金融商品の会計基準の複雑性を削減するために米国財務会計基準審議会(FASB)と共同でプロジェクトを進めているが,本公開草案は当該プロジェクトにおける金融商品の分類,測定の部分を取扱ったものである。また,FASBは現時点では公開草案を公表していないが,8月に金融商品の分類と測定のアプローチについての改訂案(以下「FASBの改訂案」という)の詳細についてウェブサイトに掲載した。これらの金融商品の分類と測定についての改訂案への国際的な関心が高いことから,東京,ロンドン,ノーウォークでIASB,FASBによるラウンドテーブルが開催された。

本稿では,これらの改訂案について関係者から特に関心が高い,損益を通じ公正価値で測定されなければならない項目をどのように識別するか,それ以外の金融商品をどのように測定するか,株式などの持分金融商品に例外を設けるべきかについての3つの論点を取上げ解説していきたい。

2 IASB及びFASBの分類及び測定のアプローチ

図表「金融商品の分類及び測定の改訂案」は,ラウンドテーブルの資料を基礎に,損益を通じて公正価値で測定される金融商品,償却原価で測定される金融商品,その他包括利益を通じて公正価値で測定される金融商品の取扱いについて,現行のIAS39号「金融商品:認識及び測定」とIASBの改訂案及びFASBの改訂案を要約,比較したものである。

図表 金融商品の分類及び測定の改訂案

 

IAS39号

IASBの改訂案

FASBの改訂案

損益を通じて公正価値で
測定される金融商品

 

 

 

 

●契約条件を基礎とするもの

分離処理された組込みデリバティブを含むデリバティブ

基本的貸付金の特徴を有していない金融商品

持分金融商品
デリバティブ
主契約と明確にかつ密接に関連する要件を満たさず,分離処理が要求される組込みデリバティブを含んでいる複合金融商品

 

●ビジネスモデルを基礎とするもの

売買保有目的金融商品

契約金利に基づいて管理されていない金融商品

その他包括利益を通じて公正価値で測定される金融商品に該当しない金融商品

 

●指定を基礎とするもの

公正価値オプション

公正価値オプションは一部残る

該当なし

償却原価で測定される金融商品

貸付金及び債権
満期保有目的
金融商品

基本的貸付金の特徴を有し,かつ契約金利に基づいて管理されている金融商品

指定された自己の負債で,その他包括利益を通じて公正価値で測定される金融商品の要件を満たし,測定属性のミスマッチが生じるもの

その他包括利益を通じて公正価値で測定される金融商品(利得・損失のリサイクル,利息,減損は損益で認識)

売却可能金融
商品

該当なし

ビジネス戦略が第三者へ売却または決済するよりも契約上のキャッシュ・フローの元本の回収のために保有されている金融商品

その他包括利益を通じて公正価値で測定される金融商品(リサイクルなし,配当はその他包括利益で認識)

該当なし

持分金融商品を指定可能

該当なし

3 損益を通じ公正価値で測定されなければならない項目の識別

最初の論点は,公正価値で測定しその変動を損益で認識する金融商品とそれ以外の測定(償却原価で測定するか,公正価値で測定しその変動をその他包括利益で認識する)を適用する金融商品をどのように区分するかである。

図表のとおり,IASBの改訂案では基本的貸付金の特徴を有し,かつ契約金利で管理されている金融商品以外のすべての金融商品は,公正価値で測定され,その変動は損益で認識される。この提案の目的は満期保有目的金融商品,売却可能金融商品の分類を削減して複雑性を削減し,公正価値の変動を損益で認識する金融商品の範囲を拡大することにある。

しかし,公正価値で測定しその変動をその他包括利益で認識する分類,すなわち売却可能金融商品の分類が削除されていることについては議論が多いところである。一般的に,IFRS適用企業では中長期投資の持分金融商品への投資を売却可能金融商品に分類しており,これは中長期での持分金融商品への投資のビジネスモデルを反映したものであるからである。しかし,売却可能金融商品の分類を維持することは,同時に当該分類の金融商品への複雑で判断の要素が入り込む減損会計の適用が必要とされるため,その点では簡素化が図れないという欠点もある。

4 公正価値で測定しその変動を損益で認識する金融商品以外の金融商品をどのように測定するか

公正価値で測定しその変動を損益で認識する金融商品以外の金融商品については,IASBの改訂案では償却原価で測定される。また,その対象を基本的貸付金の特徴を有し,かつ契約金利に基づいて管理されている金融商品に限定している。これに対し,FASBの改訂案では,ビジネス戦略が第三者へ売却または決済するよりも契約上のキャッシュ・フローの元本の回収のために保有されている金融商品は公正価値で測定され,償却ベースと公正価値の差額はその他包括利益で認識される。また,測定属性のミスマッチを生じさせる負債にしか償却原価による測定を認めていない。IASBの改訂案が貸付金の特徴を有するような金融資産も対象として償却原価で測定するとしており,この点については,企業のビジネスモデルに整合しているという意見が多い。

5 株式などの持分金融商品についての例外

IASBの改訂案では,持分金融商品についてその他包括利益を通じて公正価値で測定することを選択することが許容されている。その他包括利益を通じて公正価値で測定する分類については,FASBの改訂案ではビジネス戦略が第三者へ売却または決済するよりも契約上のキャッシュ・フローの元本の回収のために保有されている金融商品を対象としており,持分金融商品を対象に含めることが想定されていない。

なお,IASBの改訂案は,持分金融商品の公正価値の変動について例外的にその他包括利益で認識することを認めるものであるが,現行のIAS39号とは異なり,その後売却されてもその他包括利益から損益にリサイクルされず,また受取配当金についてもその他包括利益で認識するものである。これは,このような持分金融商品への減損規定の削除による複雑性の削減,実現損益を含めたすべての公正価値の変動を明確に示すことができるという利点を考慮したものである。

これに対し,持分金融商品の売却による投資の回収の実現という立場から,実現した損益をリサイクルすることの方がより企業のビジネスモデルに整合している意見も多い。また,受取配当金についてもその他包括利益で認識することは,このような持分金融商品の資金調達費用が損益に計上されていることから会計上のミスマッチを生じさせることも指摘されている。

6 おわりに

上記にみられるとおり,IASBの改訂案は、現行のIAS39号における測定分類を減少させ、減損規定の対象となる金融商品を,基本的貸付金の特徴を有し,かつ契約金利に基づいて管理されている金融商品に限定することにより複雑性を削減することを目的としていると考えられる。これに対し,企業経営に基づく管理方法により現行の金融商品会計は発展してきたことがあり,こうした管理方法を反映すべきという意見も強い。当該プロジェクトは金融危機に対応して作業を加速化して行われているものであり,2009年末までに基準が公表される予定となっており,IASBでの基準化に向けての議論が注目される。

この「会計基準をめぐる国際化の動向」は、『週刊経営財務』2936号(2009年10月5日)にあらた監査法人企業会計研究会として掲載したものです。発行所である税務研究会の許可を得て、あらた監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載·転用はご遠慮ください。


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