第16回 連結及び金融資産の認識の中止をめぐって ~IASBラウンド・テーブルにおける主要な論点~

2012-06-15

1 はじめに

国際会計基準審議会(IASB)は,2008年12月に公開草案ED10号「連結財務諸表」(以下ED10号という)を,そして2009年3月に公開草案「認識の中止IAS39号及びIFRS7号の改訂案」(以下「公開草案」という)をそれぞれ公表している。この2つのテーマは,米国財務会計基準審議会(FASB)と合意したコンバージェンスの覚書(MoU)の主要項目であるが,昨年の金融危機に端を発する金融資産の流動化の財務報告への不信感の高まりから,作業が加速化して進められている。IASBは,当該項目について関係者からの意見を聴取するために,本年6月初旬から中旬にかけて,トロント,東京及びロンドンでラウンド・テーブルを開催した。

金融資産の流動化においては,譲渡人は金融資産の認識の中止ができるのか,そして譲受人である特別目的事業体を連結すべきかが論点となるため,両公開草案の取り扱う項目は,密接に関連している。本稿では,それぞれのテーマについてなにが問題となっているのかを,東京で行われたラウンド・テーブルをもとに解説していくこととしたい。また,適宜,他のラウンド・テーブルでの議論も紹介したい。

2 認識の中止

(1) 認識を中止すべき資産の決定

公開草案は,金融資産の一部分の譲渡における譲渡対象の資産を明示し,具体的に特定されたキャッシュ・フローまたは資産のキャッシュ・フローの比例持分に対する権利を表す場合に限定している。しかし,公開草案では,一部のIASBメンバーによる代替的見解も提示されており,彼等は,公開草案のように恣意的に譲渡のための会計単位を設け制限するのではなく,純粋なかたちでの資産の一部分とは当該資産に組み込まれている権利と義務であり,それに着目して認識の中止を考えるべきであるとしている。

東京のラウンド・テーブルの参加者からは,公開草案のアプローチよりもむしろ代替的見解に同意する意見が多くみられた。なお,代替的見解に賛成するものの,これにより当事者間でより細かく権利,義務関係が会計上認識されるため,その測定について懸念を示す意見もあった。ロンドンのラウンド・テーブルでも,公開草案の提示する認識の中止をすべき資産の範囲を広げ,比例持分以外のキャッシュ・フロー持分を含めることを支持する意見,また東京の参加者と同様に代替的見解を支持する意見が多かった。

(2) 譲渡の定義

公開草案では,「譲渡」という用語は,あらゆる種類の売却,譲渡,担保の差入れ,便益の放棄,配分及びその他の交換を広範に表すものであるとして,かなり広範な意味で使用されている。東京のラウンド・テーブルの参加者からは,譲渡の定義の範囲を広く捉えることには同意するものの,定義に何を含めるかについてより明確なガイダンスが必要とする意見があった。また,IASBスタッフもデリバティブや合成商品自体が含まれるかどうかなど,現状の用語が不明確な点があるため再定義が必要と考えているとのコメントがあった。ロンドンのラウンド・テーブルでは譲渡の定義が担保の差し入を含めており広範になりすぎているという指摘がなされた。

(3) 継続的関与の判断

公開草案は,譲受人による金融資産の支配を認識の中止の要件としているため,譲渡人が継続的に関与していないことが条件となるが,現状での証券化の実務を考慮して,(1)通常の表明及び保証,(2)信託(あるいは代理人)サービス,(3)公正価値の契約(行使)価格での先物,オプションまたはその他の契約の3つの例外を設けている。

東京のラウンド・テーブルの参加者からは,継続的関与の例外の(3)の公正価値での買戻しは,実質的に現行のIAS39号「金融商品:認識及び測定」が採用するリスク・経済価値の概念を入れたことになると指摘する意見や継続的関与自体がリスク・経済価値の概念と類似しているという意見などがあり,IAS39号を現時点で改訂する必要性を疑問視する意見もあった。また,ファンドマネジャーが資産価値に連動する報酬を受領する場合やサービシング資産を認識する場合は,継続的関与の例外に該当するかどうかという参加者からの質問に対して,IASBスタッフからは,適正な水準の報酬を得ているかぎり継続的関与にならないが,適正水準を超過する部分が認識される場合には継続的関与になる可能性があるとのコメントがあった。

(4) 自己の便益を譲渡するための実際の能力についてのテスト

公開草案では,譲受人が譲渡の対象である資産を無関係の第三者に譲渡する能力を実際に有していなければ,譲渡人は金融資産の認識の中止ができないとしている。しかし,資産の処分が契約上禁止されていても,譲受人が入替資産を容易に入手できる場合等については,譲受人は資産を譲渡する実際の能力を有することができるとされている。

東京のラウンド・テーブルの参加者からは,レポ取引等は現在,金融取引で処理されているが,容易に入手可能な証券を対象として譲渡取引が行われるため上記のアプローチでは大半のレポ取引等が譲渡資産の売却として扱われ実務への影響が大きいことが指摘された。また,実質的にはファイナンス取引であり,取引ごとに売買損益が認識されることは実態にあっていなことや,期末付近で当該取引を利用することで売買損益の利益操作につながる可能性も指摘され,また,米国基準との整合性を考慮すべきとの意見があった。ロンドンのラウンド・テーブルでも,譲受人の観点から支配の判断の考え方に支持が多くなく,また東京と同様にレポ取引への影響の検討の必要性も指摘されている。

3 連結

(1) 支配

ED10号は,連結財務諸表上の支配の概念を,パワーとリターンを基礎に定義している。パワーは議決権等の企業の活動を指揮する能力であることについては異論のないところであるが,リターン(あるいはリスクと経済価値)を,パワーと組合せて支配の適用においてどのように機能させるかが論点となっている。IASBスタッフは,(1)リターンをパワーの不可欠の一部とみるか,(2)支配についての指標とみるか,(3)リスク経済価値の過半を保有している場合に支配を推定するか,(4)特定の水準の変動リターンに晒されている場合について一定のテスト(フォール・バックテスト)を行うかなどの案を提示し,議論が行われた。

パワーとリターンあるいはリスクと経済価値を表裏一体とみるのか,それぞれ独立してみるのかは,東京のラウンド・テーブルの参加者の間でも意見が分かれた。しかし,全体的には,(2)の支配の指標とみる考え方を支持する意見が大勢で,上記の(2)以外の案はリターンについて独立した評価を要求しているため,賛同する意見は少なかった。ロンドンのラウンド・テーブルでは,(1)あるいは(2)を支持する者が多く,また現行のSIC12号「連結-特別目的事業体」を連結の基準に織り込むことを支持する意見が多かった。

(2) 事業体の組成への関与について

IASBスタッフは,ED10号の定義する支配に関連して,特別目的事業体などの事業体の組成に関与することが支配につながるかについて意見を求めた。

参加者からは,デザインへの関与自体は,意思決定を左右するパワーとはならないのではないか,あるいはアレンジャーなどによる証券化ビークルの事前の方針決定は重要な組成への関与とはいえないのではないかなどの意見があった。ロンドンのラウンド・テーブルでも,SPEを組成した者が支配しているとまではいえないという意見が多かった。

(3) 議決権の過半を有しない場合及びオプション保有による潜在的議決権

議決権の過半を有しない場合でも,ED10号は他の議決権保有者が十分分散している場合に支配を推定するとしている。IASBスタッフから(1)明示的な追加的な契約上の権利がなくては,支配しているとはいえないとする案,(2)企業の活動を指揮する十分な能力があり,それが簡単には取り消せない場合に支配を推定する案,(3)たとえば,株主総会での議決状況などで支配が行使された証拠がある場合に支配を推定する案が提示され,議論が行われた。

(1)は現行の日本基準の採用している考え方に近い。東京のラウンド・テーブルでは,(3)を支持する意見もあったが,証拠をいつの時点で判断するかが困難という問題点が指摘された。(1)は証拠を入手しやすいので,支持する意見が多かった。(2)はED10号がとっている案であるが,他の株主が分散されている場合に,支配が推定することについては,インターネットでの議決権行使が可能な今日において,実際の運用が難しいという意見があった。ロンドンのラウンド・テーブルでも,上記(1)と(2)に意見が分かれた。

また,ED10号は,オプション保有によりパワーを達成できるとしている。オプション保有による支配の推定に関連してIASBスタッフから,(1)他の事実や状況を考慮した上で,オプション保有者が支配しているかどうかを判断する,(2)(1)に加え,実際のオプションの行使の可能性を考慮して支配を判断する,(3)現在行使可能なオプションを保有しているだけで支配を判断する,(4)支配が行使された証拠がある場合支配を推定する案が提示された。

日本基準は,オプション保有などによる潜在的議決権を取り扱っていない。東京のラウンド・テーブルの参加者からは,(1),(2)のようにオプション以外の他の要素を考慮して支配を判断する案を支持する意見が多かった。また,オプション行使は将来事象であるので,これを単独では考慮できないという意見もあった。ロンドンのラウンド・テーブルでも,(2)を支持する意見が多かったが,(1)を支持する意見もあった。

(4) ED10号の開示について

ED10号は,支配している事業体について支配の評価の基礎,支配をしていない組成された事業体のオフバランスシートリスクについての開示を広範に求めている。東京のラウンド・テーブルにおいてIASBスタッフからは,公開草案のコメントの検討をしており,通常の企業,組成された事業体に区分せず単一モデルの開示とすることや,組成された事業体については重要(significant)な関与について開示することを予定しているとの説明があった。

東京のラウンド・テーブルの参加者からは,ED10号が提案している開示が広範すぎるという意見が多かった。なお,IASBスタッフから説明のあった重要な関与とはなにかについては具体的に明確にした方がいいのではないかという意見もあった。ロンドンのラウンド・テーブルでも開示のチェックリストとなってしまっており,ED10号の開示の要求が多すぎるという意見が多く,開示の原則を示すべきであるという意見があった。

4 おわりに

以上東京でのラウンド・テーブル等での議論を紹介したが,金融資産の認識の中止については,公開草案の提示するアプローチについて,関係者の意見を基礎にさらに検討が進められると考えられる。なお,ラウンド・テーブルの直後にFASBがSFAS166号「金融資産の譲渡についての会計SFAS140号の改訂」を公表しているが,そこでは,金融資産の一部分の譲渡についての認識の中止に参加持分の概念を導入しており,IASBの公開草案と同様の考え方がとられていることが注目される。また,連結については,幅広い論点が取り扱われており,関係者すべてが納得するモデルの確立は難しく,今後さらに検討すべき論点も多い。

この「会計基準をめぐる国際化の動向」は、『週刊経営財務』2928号(2009年7月27日)にあらた監査法人企業会計研究会として掲載したものです。発行所である税務研究会の許可を得て、あらた監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載·転用はご遠慮ください。


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