第15回 米国における時価会計の改訂 ~FSPFAS 115-2 等の概要と米国金融機関への影響~

2012-06-14

1 はじめに-2008年緊急経済安定化法とSECの勧告を受けて-

昨年10月3日に制定された「2008年緊急経済安定化法」(The Emergency EconomicStabili-zation Act of 2008) の要請に基づき,米国SECは,時価会計(mark-to-marketaccounting)の調査研究を行い,その結果を昨年末に公表した。当該報告において,SECは,時価会計(mark-to-market accounting)の停止を否定し,公正価値会計基準(fair valueaccounting standards)と金融商品の減損会計(the accounting for financial asset impairments)の改善を要求していた。

このSECの報告を受けて,米国財務会計基準審議会(FASB)は,本年4月9日に新たなFASB職員の見解を公表した。この見解は,

(1)FSPFAS157-4(資産又は負債に係るボリューム及び活動レベルが大きく低減した場合の公正価値の決定及び通常ではない取引の識別)
(2)FSPFAS107-1及びAPB28-1(金融商品の公正価値に関する中間開示)
(3)FSPFAS115-2及びFAS124-2(一時的でない減損の認識及び表示)

以上の3つから成り立っている。

これらは,公正価値基準の緩和という風に報道されているが,その本質は,公正価値の測定手法の基準を明確にした解釈指針と言うべきものである。また,12月決算会社の場合,2009年第1四半期(2009年3月期)から早期適用できるため,米国金融機関の第1四半期決算に影響を与えたと報道されているのはご承知のとおりである。

今回は,この中で当該四半期決算に一番大きな影響を与えたといわれている,(3)FSPFAS115-2及びFAS124-2(一時的でない減損の認識及び表示)(以下,FSP115-2と称する。)について,その概要を説明し,当該見解の四半期決算に与えた影響について分析していくこととする。

2 改訂基準の概要

FSP115-2は,負債証券の一時的でない減損の認識と表示について新しい方法を確立するものである。また,負債証券と持分証券に関連する追加の開示要請を含んでいる。

FSP115-2が発行される以前において,売却可能あるいは満期保有目的として分類される負債及び持分証券への投資の減損は,公正価値が回復する(債券の場合には満期になる)まで当該投資を保有する意思があり,また,その能力があることを主張できるかどうかを基準として評価されていた。企業がそのような主張を行えない場合には,当該投資は一時的でない減損の状態にあるとみなされ,有価証券の原価は現在の公正価値まで評価減され,当該評価損は当期の損益として認識されることとなっていた。また,意思に関係なく,負債証券の契約条項に基づき,すべての金額を回収できないことが見込まれる場合にも,当該投資は一時的でない減損の状態にあるとみなされ,有価証券の原価は現在の公正価値まで評価減され,当該評価損は当期の損益として認識されることとなっていた。

これに対して,FSP115-2では,負債証券の公正価値が償却原価より低い場合における減損が一時的であるかどうかの評価が,以下のように変更されている。

(1) 一時的でない減損に該当するかの判断

  • 負債証券に関して,「保有する意思と能力」の条項は削除され,減損は以下の条件を考慮して,一時的かどうかが判断されることとなった。
    △当該有価証券を売却する意思があるか。
    △時価が償却原価まで回復するまでに当該有価証券を売却することを要求されることが50%以上(more likely than not)あるか。
    △(たとえ売却する意思がなかったとしても)当該有価証券の時価が償却原価まで回復することが期待できない状態にあるか。
    なお,この基準は,持分証券には適用されず,持分証券には従前の基準が適用される。
  • 資金の回収可能性に関する蓋然性の基準は削除された。負債証券から回収される期待キャッシュフローの現在価値が当該証券の償却原価より低い場合には,当該減損は一時的でないと考えられることとなった。当該不足分は,FSP115-2 において「クレジット損失」(credit loss)とされている。

(2) 一時的でない減損の認識

  • 企業が減損された負債証券を売却する意思があるか,あるいは,償却原価から当期のクレジット損失を控除した金額まで回復する前に当該有価証券の売却を企業が要求される可能性が50%以上ある場合には,一時的でない減損の公正価値と償却原価との差額を当期の損益として認識しなければならない。
  • クレジット損失が存在するが,企業は当該負債証券を売却する意思はなく,あるいは,時価が償却原価から当期のクレジット損失を控除した金額まで回復する前に売却を求められる可能性が50%より高くない場合には,一時的でない減損金額は,(1)クレジット損失にあたる見積額と(2)その他の要因に関連して発生した残額に区分される。そして,クレジット損失として見積もられた金額は,当期の損失として計上され,残りの減損額はその他の包括利益に計上されることとなる。
  • 満期保有目的の有価証券に関して,クレジット損失に該当しない一時的でない減損金額は,その他包括利益の新しい区分に計上され,負債証券の残存期間に渡って,当該有価証券の簿価に増加させる形で,償却されることとなる。
  • 減損された負債証券や持分証券に関する開示要請は大幅に拡大され,年度だけでなく,四半期ごとに開示が要請される。

上記の内容を図式化すると図表1のようになる。

図表1

3 米国金融機関への影響

FSP115-2の内容は以上のようなものであるが,次にこの新見解が米国金融機関の四半期決算にどのような影響を与えているか見ていくことにする。図表2は,この12月決算において一時的でない減損損失が発生していた主要金融機関が,この四半期でFSP115-2をどのように取り扱ったか,また,その影響はどのくらいかを四半期報告書に基づき分析したものである。図表2は影響のあった会社のみをリストアップしたものであり,私どもが調査した中で,第1四半期においてFSP115-2を早期適用した金融機関は調査対象会社の半数程度であったが,この図から分かるように,早期適用した金融機関にはそれなりの影響を与えている。なお,表中の影響額は,新基準と旧基準の相違から生じた差額である。

4 おわりに

FSP115-2 の目的は,売却可能あるいは満期保有目的の負債証券に対する投資について,一時的でない減損の評価をより実務的なものにし,負債証券やローンに対する減損モデルをより一層整合性が取れたものにすることにある。従って,このFSPは,減損の定義を変更するものではないと言える。

図表2

No

適用会社

FSP115-2 の適用時期

第1 四半期における影響額
(+は剰余金が増加)

Net income(after tax)

Retained earnings

A社

2009年第1四半期

+$391M

+$413M

B社

2009年第1四半期

+$8.7M

+$4.9M

C社

2009年第1四半期

0

+$686M

D社

2009年第1四半期

0

+$249.7M

E社

2009年第1四半期

0

+$132M

F社

2009年第1四半期

0

+$117.3M

G社

2009年第1四半期

0

+$71M

H社

2009年第1四半期

0

+$20.4M

I社

2009年第1四半期

0

+$9.9M

この「会計基準をめぐる国際化の動向」は、『週刊経営財務』2923号(2009年6月23日)にあらた監査法人企業会計研究会として掲載したものです。発行所である税務研究会の許可を得て、あらた監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載・転用はご遠慮ください。


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