第13回 連結と金融資産の認識の中止 ―適格SPEの廃止等~FAS140とFIN46Rの改訂の背景と動向~

2012-06-12

1 はじめに

金融危機の一要因であるサブプライムローンの損失を世界的に輸出した“張本人”と言われている適格特別目的事業体(QSPE)の廃止に向けた,米国財務会計基準審議会(FASB)の動きについて,今回は少し触れてみたい。QSPEに関しては,米国の某銀行グループが,昨年,6月30日時点で1兆1,800億ドルの簿外資産があったことを明らかにし,このうち8,283億ドルはQSPEが保有していたとの報道がなされたので,ご記憶の方も多いと思う。

このQSPEの改訂に関連して,FASBの議長であるロバート・ハーツ氏が,昨年末,ワシントンDCで開かれた会議の中で,「……私の最悪の悪夢は,ウォール・ストリートを歩いており,たまたま70階建てのビルを見上げると,そこには,XYZ株式会社―QSPEの看板が大きく掲げてあり,そしてビルの中では,10,000人もの人たちが働き,受動的事業体らしきものを実質的に運営しているというものである。QSPEは,本来,受動的な事業体として設立されるものであるが,次第に違う目的に利用されてきている。残念ながら,人によっては,QSPEを金融資産を簿外処理するための道具として,まるで,フルーツパンチをかき回している間のパンチボール(器)かのように利用している。さあ,パンチボールを取り除くときがきた。そして,私達は,米国の会計からQSPEの概念を取り除くことを提案している。……」と,悪夢から覚めるのを心待ちにするかのように語気強く呼びかけていた。

以下,今回の改訂の背景と改訂の内容及び動向についてその概要について述べることとする。

2 改訂の背景

過去10年以上にわたり,FASBは,SPEをめぐる会計処理の問題に取り組んできている。古くは,1990年のEITF に始まり,1996年にFASB基準書125号(FAS125)において,一定の要件を満たす金融資産の譲渡に係る特別目的事業体(SPE)は譲渡人の連結対象外とする考えが示された。このFAS125 は,2000年に,現在のFASB基準書140号(FAS140)の規定に置き換えられ,下記のすべての要件を満たすSPEは,QSPEと呼ばれ,当該資産の譲渡人(銀行等)の連結対象外とされることとなった。

  1. SPEが,金融資産の譲渡人とは明確に切り離されていること
  2. SPEの事業が極めて限定されており,その内容が設立文書或いは受益権の設定に係る法的文書で規定され,その変更のためには,譲渡人及びその連結関係会社を除いた当該受益権保有者の過半数の承認が必要であること
  3. 受動的な金融資産等,限られた資産のみを保有するものであること
  4. 非現金金融資産については,SPEの終了等指定された特定の場合に,自動的に売却・処分できること

2001年に入り,エネルギー関連会社エンロンの破たんでSPEの連結除外が問題となった。同社は,数多くのSPEを用いて,最先端の会計処理を行っていると言われていたが,実は単なるSPEを用いた連結はずしに過ぎず,米国の財務会計基準の信用を失墜させる結果となった。そこで,FASBは2003年1月にFASBの解釈指針第46号(FIN46)を公表した。しかしながら,FIN46 においても,前述のQSPEは,上記の要件を満たす限り,連結除外とされていた。また,このFIN46 も,米銀行協会(ABA)等の指摘を受け,QSPEの非連結の恩典を譲渡人以外の当事者にも拡大したFIN46(改訂版)(FIN46R)に同年12月改訂されている。その後も,金融機関を中心に,QSPEは利用され,サブプライムローンの登場が,その利用に拍車を掛けたと言われている。そして,このサブプライムローンの債務不履行という危機がはじまり,やっとFAS140とFIN46Rに改訂が行われることとなった次第である。

3 改訂基準の概要

前述のような経緯を経て,FASBは,FAS140及びFIN46Rの2つの基準を改訂するための公開草案を昨年9月に公開した。これは,金融資産の譲渡に関する会計処理,変動持分事業体(VIE)の連結の要否に関する判断基準を大きく変更するものである。

FASBは,又,同時にFASBスタッフポジション(FSP)案を公表している。このFSP案は,公開企業に対して,上記の2つの基準が最終基準となり施行されるまでの間,これらの基準案が求めている内容を四半期及び年度において開示することを要請する案である。
今回の改訂案においては,QSPEの概念を削除することを提案するものであり,これによりQSPEという用語及びその判定基準が米国基準から削除されるとともに,企業は,従来のQSPEを連結する必要性を評価しなければならなくなる。また,QSPEへの金融資産の譲渡は,改訂後のFAS140の売却処理基準に従い判断されることとなり,今までより,売却処理が難しくなると思われる。変動持分事業体(VIE)の主たる受益者(primary beneficiary) の決定に関するFIN46Rに関するアプローチの改訂案は,企業に対して,ある事業体がVIE に該当するか否か及び自社がその主たる受益者であるか否かを従来以上の頻度で,質的な面を重視して再評価することを要求するものである。

この改訂案が最終基準化すれば,今まで連結から除外することにより簿外処理をされてきた多くのSPE等が連結対象となるものと思われる。更に,誰が主たる受益者かの判断にも大きな影響を与えることとなる。

このFAS140の改訂案は,2009年11月15日以降開始する最初の会計年度の期首以後に行われる金融資産の譲渡から適用される予定であり,FIN46Rの改訂案に関しては,2009年11月15日以降に開始する最初の会計年度から適用されることとなっている。

4 今後の動向

上記の公開草案は,昨年9月15日に公開され,60日間のコメント募集が通常通り行われた後,コメントの募集が昨年11月14日で締め切られている。それぞれ50 を超えるコメントが寄せられており,それを受けて,本年1月末より再審議が行われている段階である。今後,連結除外に関するガイドラインの要否,VIE に該当するか否かの規定に関する再考,“重要な”変動持分の概念の検討及び質的な面での評価に関する規程の要否等に関して再審議が行われることとなっている。

5 おわりに

このようにFASBにとり長年の懸案であった連結除外の規定の見直しが行われたわけであるが,これは銀行等の金融機関を中心として企業に大きな影響を与えることとなることは間違いない。この影響には,財務諸表に与える影響だけでなく,連結対象会社等が増加することにより発生するシステム,連結手続,内部統制の方針及び手続についても検討する必要を生じさせる。

以上

この「会計基準をめぐる国際化の動向」は、『週刊経営財務』2911号(2009年3月23日)にあらた監査法人企業会計研究会として掲載したものです。発行所である税務研究会の許可を得て、あらた監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載·転用はご遠慮ください。


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