第12回 米国SECによるIFRS採用へのロードマップ案

2012-06-11

1 はじめに

本シリーズ第10回において説明しましたように,米国に登録している非米国企業は,2007年11月15日より後に終了する事業年度より,IFRSに基づく財務諸表の米国証券取引委員会(米国SEC)への提出が米国基準への差異調整なしに認められています。この,米国におけるIFRSの採用に関して,2008年11月14日,米国SECは,登録している米国企業に対するIFRSの強制適用に関する工程表案(ロードマップ案)を公表しました。当該ロードマップ案で米国SECは,70 にわたる様々な事項について2009年2月19日を期限として一般からのコメントを募集しています。今回は,このロードマップ案の内容を概説したいと思います。

なお,米国SECは2008年8月にロードマップ案の公表を決議した旨を発表していましたが,今回公表されたロードマップ案は,その決議の内容に沿ったものとなっています。また,ロードマップ案は米国における定義での登録投資会社及び証券会社には適用とはなりません。

2 ロードマップ案の概要

ロードマップ案の概要は大きく3つに分けることができます。

  1. 米国国内の登録企業に対してIFRSを強制適用するかどうかについては,一定の判断基準に照らして2011年に最終決定する。
  2. 米国国内の登録企業にIFRSを強制適用することを最終的に決定した場合,2014年から段階的に適用する。
  3. 一定の要件を満たす米国国内の登録企業には,2009年12月15日以降終了する事業年度からIFRSを任意に採用することを認める。

1.2011年の判断基準(マイルストーン)

米国SECが2011年に米国国内の登録企業に対してIFRSを強制適用するかどうかの判断を行う際の判断基準(マイルストーン)としては,主に以下の事項があげられています。

(1)会計基準の改善
(2)国際会計基準審議会(IASB)を監督する国際会計基準委員会財団(IASCF)の説明責任や資金調達
(3)IFRSによる財務諸表に関するインタラクティブ・データ(XBRL)の機能の改善
(4)米国におけるIFRSに関する教育と研修(会計士,投資家,規制当局およびその他の財務諸表利用者)
(5)IFRSの早期適用を行った会社での経験

これらのうち,(1)の会計基準の改善に関しては,米国財務会計基準審議会(FASB)とIASBとの間で交わされた覚書(本シリーズ第10回参照)記載事項の進捗状況が含まれるものと考えられます。また,(3)のインタラクティブ・データに関しては,IFRSに基づく財務諸表に対応したXBRLのタクソノミ(本シリーズ第11回参照)の米国における開発が重要な論点となるものと考えられます。

米国SECは,2011年にこうしたマイルストーンについて検討を行い,最終的なロードマップや強制適用日,早期適用を選択できる会社の範囲の拡大の可能性などについて決定することを予定しています。

2.段階的な強制適用

最終的にIFRSを米国国内企業に強制適用することを決定した場合の適用のタイミングについては,ロードマップ案では企業の規模に応じた以下のスケジュールでの強制適用を提案しています。

会社の区分※

強制適用のタイミング

大規模早期提出企業

2014年12月15日以降終了する事業年度より

早期提出企業

2015年12月15日以降終了する事業年度より

その他の公開企業

2016年12月15日以降終了する事業年度より

※Securities Exchange Act of 1934,Rule 12b-2の定義による。

米国における年次報告書のフォーム(様式10-K)においては,3年分の監査済財務諸表を含めることが求められていることから,2014年12月期からIFRSを適用する場合には,2014年12月期に係る様式10-Kにおいては2014年12月期に加え,2012年12月期及び2013年12月期に係る財務諸表についてもIFRSに基づき作成する必要があります。なお,ロードマップ案では,この場合の四半期報告については,原則として2015年12月期の第1四半期からIFRSに基づく財務諸表での報告を行うことになります。

これに対して,ロードマップ案では,2012年12月期と2013年12月期の2期分の財務諸表をIFRSに基づき作成し,それを用いて過年度の様式10-Kを事前に修正・再提出しておくことによって,2014年12月期の第1四半期からIFRSに基づく財務諸表を用いた四半期報告を行うことができるとすべきかどうかについてコメントを求めています。

このように,実質的に複数の移行時の取扱いが提案されているところではありますが,3年分の財務諸表をIFRSに基づいて作成する必要がある点において違いはありません。

なお,米国に登録している非米国企業の取扱いについては,ロードマップ案では特に記載されていません。したがって,米国国内企業に対してIFRSが強制適用となった場合に,米国に登録している日本企業で現在米国会計基準に基づく財務諸表を米国SECに提出している会社についてもIFRSが強制適用となるのかについては,明記されていません

3.早期適用が可能な企業

一方,今回のロードマップ案では,一定の要件を満たす会社は,2009年12月15日以降に終了する事業年度よりIFRSの早期適用を開始することができるものとされています。

早期適用を選択するための要件は,

(1)自社がその属する産業において時価総額で世界の20 位以内であること
(2)各産業の時価総額で上位20 位までの企業においてIFRSがそれ以外の会計基準のいずれよりも多く利用されていること

とされています。

上記2つの要件を満たし早期適用を希望する会社は,その根拠資料とともに米国SECに対して早期適用を申請し,米国SECから「ノーオブジェクションレター」(IFRSの適用に反対しない旨のレター)を受領しなければならないものとされています。

米国SECは,この要件によって34の業種にわたる110社について早期適用が可能となるとの見通しを発表しています。しかし,ロードマップ案では,早期適用の要件を満たすかどうかの計算の考え方については記載がなされていますが,上記34業種・110社の計算根拠や当該110社のリスト等は公表されておりません。したがって,早期適用を行おうとする会社は,独自に要件を満たすかどうかを計算,検討してその結果を米国SECに提出することになると考えられます。

なお,早期適用を選択した場合の具体的な移行方法として,IFRSに基づく財務諸表から米国会計基準への差異の調整を行うことが提案されていますが,この差異調整を移行後の初回の財務諸表提出時のみ求める方法と,2011年の最終決定までの間継続的に求める方法の2つが提案されています。したがって,最終的に後者の方法が採用された場合には,早期適用を選択してIFRSを採用した場合であっても,米国会計基準への差異調整が継続的に求められることになります。

3 おわりに

規制の内容を含めた米国の資本市場の動向が,我が国を含めた世界の資本市場に極めて大きな影響を与えるものであることは,昨今のいわゆる金融危機の世界的な伝播や,各国での内部統制に係る諸制度の創設を見ても明らかです。したがって,その米国資本市場の規制当局である米国SECがこのようなIFRS採用へ向けてのロードマップ案を公表したことは,少なからず我が国の資本市場に対しても今後影響を及ぼすことが予想されます。とくに,現在我が国でも企業会計審議会がIFRSの我が国における適用について議論を開始していますが,そこでの議論にもなんらかの影響を与えることになるのではないかと思われます。

以上

この「会計基準をめぐる国際化の動向」は、『週刊経営財務』2901号(2009年1月12日)にあらた監査法人企業会計研究会として掲載したものです。発行所である税務研究会の許可を得て、あらた監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載·転用はご遠慮ください。


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