第11回 XBRLの国際的な導入の動向

2012-06-10

1 はじめに

本シリーズでは,IFRSを中心とする会計基準の国際的なコンバージェンスの動きと,その中でのIFRSと米国基準における更なる改定の動きを中心とした会計基準の国際化をめぐる動向を追ってきました。これらはいずれも企業の財務活動をいかなる尺度をもって表現するかというコンテンツに係る議論ですが,今回はそれらのコンテンツを伝達する手段であるXBRLに注目してみたいと思います。

2 情報伝達手段の世界共通化と会計基準の国際的コンバージェンス

XBRL(Extensible Business Reporting Language)は,世界中の企業が公表する財務情報の利用者のコンピュータによる分析をいかに容易にするかという視点から開発されてきたコンピュータ言語です。そこでは,コンピュータ言語の面での世界共通化もさることながら,開示の中身についても企業ごとの表面的な細かい差異(例えば「現金及び預金」と「現金預金」の差)にとらわれず実質的な企業間比較を可能にすべく,共通の開示項目体系が築き上げられてきました。これが「タクソノミ」と呼ばれる定義集です。タクソノミは単なる勘定科目集にとどまらず,各科目・項目の表示や計算などの関係性,開示の根拠となる規則への参照なども含む,いわば情報整理の体系とも言えるものです。

ここで留意すべきなのは,いくら世界共通のコンピュータ言語たるXBRLでも,開示される財務諸表の会計基準が異なれば,それらの財務情報を単純には比較できないという事実です。
わが国では,本年7月の第1四半期報告書から各社によるXBRLでの提出が始まっています。ここで使われているタクソノミはEDINETタクソノミと呼ばれるものです。これは,わが国の会計基準を前提に作成されたものですから,IFRSタクソノミとも異なりますし,US GAAPタクソノミとも異なります。EDINETタクソノミには参考情報として英語表記も含まれていますので,EDINETから入手できる各社のXBRL情報は,海外の投資家も容易に,かつスピーディーに利用できます。しかし,会計基準が日本基準であり,英語表記自体も各社のアニュアルレポートにおける表記と必ずしも一致していない現状において,海外投資家の利用には限界があることが予想されます。XBRLによる情報伝達手段の世界共通化は,会計基準の国際的なコンバージェンスとの同期が取られてこそその価値が発揮されることとなります。

3 米国SECの取組み

米国においては2005年からXBRL情報の任意提出が行われてきており,すでに100社近い企業がXBRLによる情報開示を行っています。そしてSECのホームページには,Interactive DataViewersというページがあり,任意提出されたXBRL情報を使って各企業やファンドの財務情報を分析するツールが提供されています。

SECは,米国に上場する企業がEDGAR(日本のEDINETに相当する電子情報開示システム)において財務情報を開示する際にXBRLによる開示を強制する規則の公開草案を本年5月に公表しました。この公開草案によりますと,XBRLによって開示されるのは,財務諸表の本表のみならず,注記やFinancial Statement Schedulesも含まれます。また,米国会計基準によるものだけではなく,IFRSによる開示もXBRL化の対象となります。さらに,対象は米国企業のみならず,米国に上場する外国企業も含まれます。(わが国のEDINETの場合には,XBRLの対象範囲は財務諸表の本表のみであり,会計基準も日本基準のみです。)

このように,大掛かりな制度の導入を当初から公表しているわけですが,SECはさらに本年8月にIDEA と称するEDGAR の後継電子情報開示システムの導入計画を公表しました。この中では,XBRLはInteractive Dataと称されており,まさにデータエコノミーを想定した将来の情報開示に向けたプラットフォームに対するSECの強いコミットメントがうかがわれます。わが国金融庁も,SECをはじめとする海外当局との協議を継続しているようであり,ディスクロージャー制度の基盤となる電子情報開示システムの世界規模での拡充が注目されます。

4 リアルタイムレポーティングとアシュアランス

情報開示の媒体が紙からデータに移行することは,投資家をはじめとする情報利用者の効率性を格段に増し,より広範かつ正確な財務分析を可能にします。そして,これらの変化は,情報の開示頻度の向上要求となって企業に跳ね返ってくるかもしれません。リアルタイムレポーティングへの方向性がまさに現実のものとなってきています。

そして,開示情報の適正性を担保する監査にも大きなパラダイムシフトが予想されます。現在,監査意見は財務諸表が全体として適正であるか否かについてのべられていますが,XBRLデータの適正性についてアシュアランス(保証)を付す場合には,そこに付されている様々なタグの内容についてどこまで適正性を担保するかなど,従前はなかった検討が求められます。米国には,前述の任意提出XBRL情報に対する一定のアシュアランス・ニーズに応えられるよう,保証のためのガイダンスとしてPCAOBのStaffQ&Aが存在します。また,国際会計士連盟(IFAC)の国際監査・保証実務審議会(IAASB)では,XBRL情報のアシュアランスに関する検討がアジェンダに加えられました。わが国では,すでにEDINETで上場企業全社のXBRL情報が公開されることとなっていますので,アシュアランス業務に関する検討も早期に進められることが期待されます。

5 XBRLGlobal Ledger の活用

ここまで述べてきたXBRLは,企業が外部利害関係者に対して行う情報開示において利用されることを想定していますが,XBRLには,主として企業内で利用されることを想定したXBRLGlobal Ledger(XBRLGL)というものも用意されています。XBRLは世界共通のディスクロージャーツールとして急速に普及しており,単に投資家向けの財務情報開示にとどまらず,税務目的や金融機関での報告目的等でも広く使われています。このように利用範囲が広がると,効率性を追求する企業は社内の情報システムにおいてもXBRLを有効活用することで,情報の一元化を図るようになることでしょう。様々なレガシーシステムの情報を効率的に会計システムにつなぐためにXBRLGLを活用したワコール社の例は,世界的にも注目されています。

またカナダでは,XBRLGLをIFRSとのコンバージョン作業に利用しようという動きも出てきています。

XBRLは,今から10年前に米国の公認会計士が考え出したものですが,もはや世界共通の情報伝達ツールとして不可欠なものとなっています。そしてこれは,企業情報の作成者,利用者,監査人に今後とても大きな変化をもたらしうるものです。会計基準の国際的なコンバージェンスとともに,その動きに注目したいところです。

以上

この「会計基準をめぐる国際化の動向」は、『週刊経営財務』2898号(2008年12月15日)にあらた監査法人企業会計研究会として掲載したものです。発行所である税務研究会の許可を得て、あらた監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載·転用はご遠慮ください。


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