第10回 IASBとFASBの覚書のアップデートの公表

2012-06-09

1 はじめに

国際会計基準審議会(IASB)と米国財務会計基準審議会(FASB)は,2008年9月11日,2006年の覚書(MoU)のアップデート版を公表しました。米国による国際財務報告基準(IFRS)採用が検討されている今,MoUのアップデートが行われる背景,その内容,今後の影響等について概説していきたいと思います。

2 2006年MoUの公表

もともとIASBとFASBは,2002年9月にノーウォーク合意を公表し,両審議会が開発する基準であるIFRSと米国会計基準のコンバージェンスを進めてきていました。その一方で,欧州では,2005年より,EU域内の上場企業にIFRSが適用され,米国では,IFRSを使用し米国に登録している非米国企業に対してIFRSから米国基準への差異調整表の作成を2009年までに撤廃する動きがでてきました。こうした動きを受けてIASBとFASBは,以下のガイドラインについて合意しました。

  • 会計基準のコンバージェンスは,長い期間をかけた高品質で共通の基準の開発を通じて達成できるものである。
  • 重要な改善を必要とする二つの基準の差異を解消しようとすることは,FASBとIASBの人材を有効に使用することにならない。むしろ,投資家に報告される財務情報を改善するような新たな共通の基準を開発すべきである。
  • 投資家のニーズに資することは,弱い基準を強い基準に置き換えることによりコンバージェンスを求めるようにすべきことを意味する。

IASBとFASBは,欧州委員会(EC)の代表者及び米国証券取引委員会(SEC)のスタッフと議論し,2008年までのIASBとFASBのコンバージェンス・プログラムに対する目標に向けて作業を行うことに合意しました。この2008年とは,上述した「IFRSから米国基準への差異調整表の撤廃」の1年前であり,その際,その他の共同プロジェクトの多くは2008年までに完成しないものの,IASBとFASBは,完成ではなく,これらのプロジェクトの測定可能な進展が,ロードマップに示された目的を充足するための貢献を遂行することになると理解していました。そして,2008年までの優先順位に合意し,達成目標を設定しました。これが,2006年に公表されたIASBとFASBのMoUです。

2006年のMoUは具体的には,短期コンバージェンス項目と他の共同プロジェクトに分かれ,短期コンバージェンス項目については,2008年までに1つ以上の短期的な基準設定プロジェクトを通じて解消されるかどうかについての結論に到達し,当該分野の作業が完了又は実質的に完了することを目標としています。また,その他の共同プロジェクトについては,2008年までには完了することは実務的でないとして,MoUには,達成が期待される進展が記載されました。

3 IFRSから米国基準への差異調整表の撤廃と米国におけるIFRS採用の動き

IFRSを使用し米国に登録している非米国企業に対して必要とされていたIFRSから米国基準への差異調整表は,上記予定より早く2007年11月15日より後に終了する事業年度から撤廃されました。この撤廃の論議の中で,さらに議論が起こってきました。

IFRSから米国基準への差異調整表の撤廃はすなわち,米国に登録している非米国企業に対してIFRSの採用を認めることになります。このため,果たして米国市場において非米国企業のみにIFRSを認め,米国企業には認めなくても良いものかという疑問が生じました。そのため,2007年の前半から,非米国企業のみではなく,米国企業についてもIFRSの採用を認める必要がないかが,議論されるようになりました。そうした議論を踏まえて,2008年8月27日にSECは,米国の上場企業がIFRSを採用するためのロードマップを示した案(proposing release)を公表することを決定しました。

4 2008年MoUのアップデートのねらい

こうした米国の動きは,IASBとFASBのコンバージェンスにも大きな影響をあたえました。

2008年を迎えたIASBとFASBは4月の合同会議で,2006年のMoUのアップデートについて討議を行いました。IASBとFASBは,ここで共通の高品質な基準の開発に対するコミットメントを再度確認し,MoUプロジェクトを完了させる道程に合意しました。2006年MoUであげられた11 の主要なコンバージェンス項目のうち,企業結合については,2007年(IFRSは2008年)に最終基準が公表され,無形資産については,2007年に共同の議題に追加しないことを決定しましたが,残る9項目については,2011年6月までにすべて(但し金融商品については,2011年6月までの完成は予定されていません)完成することが合意されています。

このような合意が行われたのは,カナダ,韓国,ブラジル及びインドなど多くの国々が2011年からIFRSを採用することを決めており,また,米国も段階的にIFRSを採用する方向であることから,それらの国々が短期間に2度も会計基準を変更する必要がないようにするためです。

5 2008年のMoUプロジェクトのアップデート

完了のための合意された道程は以下のとおりです。

1.短期コンバージェンス

継続中の短期コンバージェンスについては,IASBは,2007年9月にジョイント・ベンチャーに関する公開草案を公表し,2009年初めに最終基準を公表予定としています。また,IAS12「法人所得税」を改善し,IFRSと米国会計基準の差異を削除する法人所得税に関する基準案を公表予定とされています。

また,FASBは,2008年後半に後発事象の会計処理及び報告に関する基準案を公表予定です。さらに,米国公開企業の一部又は全部が将来のある時点でIFRSの採用を許容又は強制される可能性を踏まえて,短期コンバージェンス・プロジェクトの戦略を再検討します。その一貫として,IASBのIAS12 の全面改訂案を内容とするコメント募集を公表し,米国の関係者からのインプットを求めます。そして,その検討結果により,FASBは,法人所得税,投資不動産,研究開発費にかかる会計処理の差異を関連するIFRSの基準を採用することにより削除するプロジェクトに着手するかどうか決定することとしています。

なお,政府補助金及び減損に関するプロジェクトについては,その完了を延期することとしました。

2.主要なコンバージェンス項目

2006年のMoUであげられた11 の主要なコンバージェンス項目のうち,7項目については,共通の基準を完成させたか,同一の結論に到達したか,または,共通の基準を開発するために共同作業を開始しました。このうち,上述のとおり,企業結合については最終基準を公表し,無形資産については共同の議題に追加しないことを決定しました。また,金融商品については,2011年6月までの完成は予定していませんが,財務諸表の表示,リース,負債と資本の区分,収益認識については,2011年6月までに完了することとしています。

また,その他,IFRS及び米国会計基準の改善のために識別された分野で,IASB及びFASBが基準開発において異なる段階にあるものの,共通の基準を目指していくものとしてあげられた,連結,認識の中止,公正価値測定及び退職後給付(年金を含む)についても,同じく,2011年6月までに完了することとしています。

これらの項目には,2011年6月までにプロジェクトを完成させるため,当初考えられていた範囲よりも限られた範囲を対象とする等,検討方針が変更されたものがあります。例えば,リースについては,当初はリース会計全般の見直しをすることが考えられていましたが,今回のMoUのアップデートにおいて,プロジェクトの範囲を借手のオペレーティング・リースの改善に絞ることが合意され,貸手の会計処理については2011年6月より後に延期されています。また,退職後給付(年金を含む)については,2つのフェーズに分けて行うことが予定されていて,第2フェーズにおいて退職後給付会計の抜本的な見直しを図る予定でしたが,主として給付建制度の数理計算上の即時認識とキャッシュ・バランス・プランの会計処理を対象とした限定的な見直しを行う第1フェーズのみを継続し,第2フェーズを中断することが暫定的に合意されています。

6 おわりに

上述のとおり,今回のMoUのアップデートは,範囲が一部限定されたものの,これらが予定通り行われれば,2011年までにかなり大きな改訂が行われることになります。その改訂は日本基準にも影響を与えるものであり,その概要を理解し,その動きをとらえて準備をしておくことは,日本企業にとっても重要なことと思われます。

この「会計基準をめぐる国際化の動向」は、『週刊経営財務』2894号(2008年11月17日)にあらた監査法人企業会計研究会として掲載したものです。発行所である税務研究会の許可を得て、あらた監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載·転用はご遠慮ください。


関連情報

Contact us

Follow us