人的要因:機械と連携して行う重要な意思決定

私たちは今、人工知能が企業の意思決定の質とスピードの向上に寄与する転換点にいます。そこで必要となるのが、変化を積極的に受け入れ、活用しようとする柔軟な心です。

これまで自らの直感と経験に頼ってきたエグゼクティブは今、膨大な量のデータから学習する機械と向き合っています。このため人間と機械の関係は変化し、真にデータ駆動(データドリブン)型の意思決定への扉が開かれつつあります。執行役員以上のエグゼクティブも科学を受け入れるときがきました。分析がアルゴリズムに変わり、人間と機械の新たな組み合わせを考える必要があります。

PwCの「データとアナリティクスに関するグローバル調査2016:Big DecisionsTM」では、ほとんどのエグゼクティブが、重要な意思決定を機械よりも主に人間の判断に頼っていることが明らかになりました。しかしPwCでは、人工知能の登場により、人間の判断をデータ駆動型のインサイトが補完し、意思決定のあり方を根本的に変える絶好の機会がエグゼクティブに訪れているとみています[1]。

ビジネスの世界における機械学習の役割拡大について話す中で、「今が転換点です」と語るのは、PwCのAnand Rao(Innovation lead, data and analytics practice)です。そして、「人工知能は人々の意思決定のスピードと質を高めるだけでなく、コストも下げることができます。その場合、何よりもまず、技術を使用人のように扱ったり、逆に支配者のように奉ったりするのではなく、機械と協働するという柔軟な姿勢が必要です」と述べています。

この人間と機械の調和は企業が試していく中で、醸成されていきます。エグゼクティブは社内の風土はデータ駆動型になってきていると回答しており、データアナリティクスを一段と強調しています。しかし、機会を最大限に生かすことができるかどうかは組織の風土やカルチャーにかかっており、それを推進するのはリーダーです。

[1]人工知能(AI)に関する参考記事として、Anand Raoのブログ:AI Everywhere & Nowhere[English]をお読みください。

データの利用に関して柔軟な姿勢で向き合っていますか?

エグゼクティブが意思決定のために頼るのは・・・

データの利用に関して柔軟な姿勢で向き合っていますか?

「アルゴリズムは、私たちが直感に頼って状況ごとに対応を変えられるようにするものではなく、物事へのアプローチに対してある種の規律を与えるものです。意思決定に関しては基本的にもっと体系的に行うよう迫られています」

Dan Ariely, Professor of Psychology and Business Economics, Duke University

現実を映し出す新たなレンズ。人間が行う意思決定にバイアスがかかるのは当然のことであり避けられませんが、それでは組織の進むべき道が分からなくなってしまう恐れがあります。エグゼクティブは自分たちの立場を支持する都合の良いデータだけを選び出すかもしれません。あるいは自分たちの直感に相反するデータを無視するかもしれません。いずれにせよデータの中にある真実を見ることができないのです。Dan Ariely教授(Psychology and business economics, Duke大学)はこう語ります。「技術とはバイアスを乗り越える方法です。ビッグデータやアルゴリズムは現実を映し出すもう一つのレンズを作り出しています」

バイアスのかからない分析は、どうすればいいのでしょうか?ほとんどの意思決定は集団で行われ、そこには全て固有のバイアスがかかっています。PwCの調査では、意思決定者に決定すべき内容を選んでもらい、それについて説明してもらいました。その結果、26%の回答者がその意思決定に際して取締役に参加してもらうと回答しました。また、組織内の特定の役割を担う者に参加してもらうとの回答は34%に上りました。一見、連携に基づく意思決定によってバイアスの問題は解決できているように思えますが、本当にそうなのでしょうか?

「残念ながらそうではありません」とAriely教授は言います。確かに大勢の英知を集めることでバイアスを減らすことはできます。しかし、集団であれば正しい答えが分かるとは限りません。正しい答えを知っていても声を上げられない人は集団での議論の中で黙殺されます。上司に反論できない人もいるでしょう。人の心の働きには計り知れないものがあります。確証バイアスが働けば人は自分が求めるものだけを見ることになります。これくらいは大丈夫と真実から目を背けてしまえば(wishful blindness)、見たくないものを見ずにすみます。人は外的状況よりも内的特性、つまり人の性格を重視します。しかし、人工知能が発達している今、そのように自分の心をごまかす必要はありません。Ariely教授はこう述べています。「アルゴリズムは、私たちが直感に頼って状況ごとに対応を変えられるようにするものではなく、物事へのアプローチの仕方にある種の規律を与えるものです。意思決定に関しては基本的にもっと体系的に行うよう迫られています」

科学を受け入れる執行役員以上のエグゼクティブ。Ariely教授は、機械に頼ることで試してみることをやめてしまう、すなわち人間が持つ探求心が失われることを懸念しています。この懸念は、現代のビジネス上の意思決定の本質にかかわる問題に踏み込むものです。科学は、適切な問いを立て、具体的な目標に向かう道筋を示す人間誘導型のプロセスです。エグゼクティブは、分析や問題の組み立てから外されるどころか、中心となって調査を進めなければなりません。データサイエンティストは、実験計画を立てて経営陣の仮説を証明します。アルゴリズムは命令を実行し、独自の進化を遂げ、場合によっては自律的になっていきます。

Floyd Yager氏(Chief data officer, Allstate社)は、ビジネスリーダーには、仮説が正しいかどうかを問いかけ、その結果に基づいて行動しようとする代わりに、自分のしたいことを支持するデータを集める傾向があることを指摘し、「科学がビジネスの世界に入ってきたのは必要に迫られてのことです」と述べています。「自分の見解を検証してみることで意思決定に整合性が生まれます。その結果、判断する過程で気づいていなかった事実に気づかされます。ですから、理解したような気がするのではなく、本当に理解することになるのです。根拠となる事実、つまりデータが揃っているため、自分の決定を目標や成果に向けて推し進めることができます」

Yager氏はビジネスの世界の大きな変化についても指摘しています。「私は、データの世界が向かう先を見極め、物事を進めるより良い方法があることを理解している私の上司を信頼しています。私は恵まれた環境にいます。データとアナリティクスの仕事を推進するとともに、可能性について検討し、より良い決定ができるようなデータやツール、手法を特定して、ビジョンを実現しています」

これがリーダーシップです。Yager氏が話すようなサポートについて執行役員以上のエグゼクティブを見てみると、マネジャークラスの多くはデータの導入やデータへの信頼の面で、エグゼクティブによる理解が足りないとみていることが調査結果から分かりました。エグゼクティブは経験や直感に基づいて意思決定することに慣れていますが、今後はデータサイエンティストと協力して新たな状況に順応し、実験を行い、そこから学ぶことを求められるでしょう。

機械によって人間の判断が必要なくなるわけではありません。人間の判断が求められるところが変わるだけです

次の重要な意思決定に役立つ分析に必要なのは・・・

次の重要な意思決定に役立つ分析に必要なのは・・・

「自分の見解を検証してみることで意思決定に整合性が生まれます。その結果、判断する中で気づいていなかった事実に気づかされます。ですから、理解したような気がするのではなく、本当に理解することになるのです。根拠となる事実、つまりデータが揃っているのですから、自分の決定を目標や成果に向けて推し進めることができます」

Floyd Yager, Chief Data Officer, Allstate

求められるリーダー像。「データ駆動型であるかどうかは、全て技術とデータにかかっているわけではなく、実際にはチェンジマネジメントと導入にかかっています。つまりデータの意味を丁寧にビジネスリーダーに説明し、一切の問題に答えるような話し合いを持てるかどうかということなのです」と語るのはPwCのDan DiFilippo(Partner, Global and US data & analytics leader)です。

意思決定者は、データや分析が意思決定を遅らせているのではないことを認識しています。それよりもその他のことで決断がしにくいと感じています。例えば、資源の利用可能性、予算の配分、実行に伴う課題、果敢なリーダーシップ、業務遂行能力、社内方針による制約、市場の乏しい反応などがその理由です。

PwCのAnand Raoもこの意見に賛成しています。技術にかかわる部分が問題なのではなく、「信頼こそ導入の最大の壁」と言います。Raoは人工知能導入の例として自律走行車のケースを挙げています。Raoによると、大抵の人はハンドルのない無人運転走行車や完全自律走行車には乗りたがらないといいます。利用者が不安を感じている場合、その考え方を変えさせるためには、つまり、機械に大きな決定権を譲り渡す手段としては、人間のドライバーが主導権を握る本来の場所にいることが必要となります。しかし、そのうちに私たちは信頼を築き、やがて完全に機械に主導権を譲り渡すことになります。

ではこの自律走行車を組織に見立て、そこに乗っている人をエグゼクティブとマネジャーとしましょう。彼らは向かうべき方向は分かっています。そして特定の目標に到達するためにその車に指示を出す最終的な主導権も与えられています。動き出すと、車は同乗者の誰よりも豊富な情報を取り入れ、目的地に行く最も効率的なルート情報を提供し始めます。エグゼクティブはその精度の高い情報を使用してコースや目的地までも変更します。もちろん途中の事故も回避できます。「最初は人間が機械になすべきことを教えますが、やがて機械が人間にどうすべきかアドバイスするようになります」とRaoは言います。「機械が教える、つまりすべきことを伝えるので、人間はますます賢くなり、機械にさらにすべきことを伝えることができるようになります。お互いがお互いを助け、共に向上しているのです」

データアナリティクスと人間の直感を組み合わせれば、能力も効果も高い判断につながります。こうした機械を活用するチャンスを逃してしまうと大きな影響が出ることになります。Raoはこう述べています。「エグゼクティブは変わらなければなりませんし、変わりたくなくとも変わらざるを得ません。機械学習を受け入れなければ、今後何年か後に、その会社はつぶれてしまうか、デジタル・ディスラプターに破壊されるかのいずれかでしょう。そして本当の意味でデータ駆動型の経営陣に刷新されることになります」

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