最後のセッションでは、パネルディスカッションを展開。「Bodylogical®がもたらす価値」というテーマのもと、坂根 氏とポール、PwCコンサルティング合同会社 ストラテジーコンサルティング(Strategy&) パートナーのムクンド・ラジャンがパネリストとして登壇し、PwCコンサルティング合同会社 常務執行役 ヘルス・インダストリー・アドバイザリーの堤 裕次郎がモデレーターを務めた。
Bodylogical®には、 個体ごとの違いを考慮した 健康評価モデルを確立できる 可能性がある
まず語られたのは、デジタルとウェアラブルが医療の世界にもたらす“創造的破壊”についてだ。EBMベースの統計的な医療からの転換を主張する坂根 氏は、「この世界はガイドライン準拠が基本となっているが、現場と話しているとうまくいかないことも多い。デジタルの世界にはさまざまな要素・背景を持った人がいるので、そうした人々が医療の世界とかかわることが創造的破壊につながるのでは」と期待を示した。
医療でのデジタルやウェアラブルの活用となると、課題となるのがデータセキュリティやプライバシーについてである。この点について、ポールは「非常に大きな課題であり脅威が潜む分野ではあるが、前向きに考えている」との見解を示し、その理由として、個人のヘルスケアデータはプライバシーであると同時に、本人にとっての価値を生み出す可能性を挙げた。「例えば自分たちのヘルスケア情報を提供することで、より良い医療や生活改善アドバイスが受けられるようになってくる。それは双方にとって大きなチャンスなのではないか」
また、一人ひとりが健康意識を高めることにつながるベネフィットのフィードバックに関して、ムクンドはエンゲージメントの重要性を説いた。「分野や国・地域を問わず共通するのが、顧客へより良いエクスペリエンスを提供すること。それができなければ、どんな製品やサービスであろうと、顧客と深い関係性は築けない。プライバシーの問題にしても、個人がデータを提供することに見合う価値が生まれるかどうかはエンゲージメントに懸かっている」
この意見にポールも同意し、「特に医療・ヘルスケアの世界は、フィードバックのループを的確な内容と頻度で返すことができれば、強制などしなくても自然とエンゲージメントができるようになると期待している」と続けた。
さらに、坂根 氏は個々人に合わせたフィードバックの工夫の大切さに触れ、「例えば日々の仕事で疲れ気味な人であれば、睡眠の質を改善するためには何をすればいいのかなど、その人にとってベストな情報提供とは何かを常に考えるべき」とした。
活用するデータは、自分のためだけでなく、誰かの幸せのため(利他)という発想が必要
Bodylogical®は行動変容に必要となる自発的な健康管理意識の強化にも貢献するはずだ
ディスカッションの最後には質疑応答も行われた。ある参加者が「将来の健康について、一般的には軽視されがちになるのはなぜか」と問うと、ポールは次のように答えた。「先のセッションで坂根先生も指摘したように、現在の医療・ヘルスケアのソリューションが平均的な値に対してのみ特化し過ぎていることが要因だと考える。誰も自分は平均的だなどと思っていないはずだ。そこで必要となるのが個人に最適化されたソリューションであり、そうされたことで人は初めて自身にも効果があると思えるようになるのだろう。それこそが、軽視に打ち勝つことのできるソリューションにつながるのではないか」
これに関して、坂根 氏は「心理学では、現在のリスクと将来のリスクの感じ方に人によって明確な違いがあることが分かっている。そうした違いを踏まえて将来の健康リスクをいかに効果的に見せるかがフィードバックのポイントだと言える」とした。
会場からの質問の後、堤は「生命保険業界にBodylogical®はどのような価値をもたらすか」と問い掛けた。これについて、ムクンドは「非常に大きな価値をもたらすと考えている。保険には非常に長い歴史があるが、リスク計算で用いられてきたのは過去のデータに基づいた“平均”だ。それが、Bodylogical®が導入されることで必要なくなるため、最もリスクの高い状況であっても保険サービスを提供できることになる。例えば、合併症の発症を抑えるために必要なアプローチを顧客ごとに示すことで、発症のリスクを最適な方法で軽減してしまうなどだ」と答えた。
医療の世界に新たなプレイヤーへの扉を開くプラットフォームとしても期待
クロージング後、Bodylogical®のデモンストレーションがMicrosoft HoloLensを活用して行われた。
パネルディスカッションの後には、PwCコンサルティング合同会社 Bodylogical®日本リードパートナーのクリス・アルバーニがクロージングの挨拶を行い、「パートナーの皆さんと協力しながら、顧客とマーケットに創造的破壊をもたらしていきたい」と訴えた。