新しい世界へ/New Globalisation ~さらに激しく変化する世界で自社を見つめ直す~

“新たなグローバル化”の中で成功への道筋を探る

PwC グローバル メガトレンド フォーラムを締めくくるスペシャルセッションでは、ファシリテーターを務めるPwCコンサルティング合同会社 常務執行役 ストラテジーコンサルティング(Strategy&) リーダーの三井 健次と、二名のパネリストが登壇。セッションでは、新しい局面を迎えたグローバル市場での成功要件について議論が交わされた。

冒頭、三井はセッションの狙いを次のように述べた。「グローバル市場はかつて想像されたフラットな市場ではなく、各地域でさまざまな課題を抱える複雑な市場に変化した。加えて、Brexitや米トランプ政権の誕生など新たなナショナリズムも台頭する中でグローバル経営の難易度が増している。こうした環境におけるリーディング企業の経営者の考えや取り組みを紹介し、“新たなグローバル化”の中での成功への道筋を示していきたい」

PwCコンサルティング合同会社 常務執行役 ストラテジーコンサルティング(Strategy & )リーダー 三井 健次

“ 新たなグローバル化”の中で成功への道筋を探る

株式会社NTTデータ 代表取締役副社長執行役員の西畑 一宏氏は、NTTコミュニケーションズの欧州子会社の社長として2006年から2009年までロンドンに駐在。その後NTTデータで海外事業を指揮し、同社の海外企業買収を行ってきた。現在では53カ国・地域に11万人の従業員を擁し、売上高の4割超を海外で稼ぐグローバル企業へと変貌した。「10年間で数多くの企業を買収したが、これを一つにまとめることは難しい。経営は基本的に現地に任せ、グループとしてのバリューを共有するコミュニケーションの仕組みを多数設けている。さまざまな強みを有する各国のチームがそれぞれエッジをもって成長し、全体として競争力を向上していきたい」と、西畑氏は自社の状況について紹介した。

株式会社 日立製作所 執行役常務 鉄道ビジネスユニット マネージングダイレクタ(日本・アジアパシフィック) 兼 グループヘッドオブセールスの光冨 眞哉氏は、入社以来一貫して鉄道システム事業部門を歩んできた。2014年に同社の鉄道システム事業のグローバル本社をロンドンに移管した際には現地に赴任し、戦略立案を担当している。同社は英国でのビジネス拡大を背景に2015年にはイタリアの鉄道関連企業を二社買収し、英国で受注、日本で設計しイタリアで製造するというオペレーションも可能になった。光冨氏は次のように意気込みを示した。「2015年の買収はまだまだ道半ばだ。統合戦略を確実に実行していくことや、新しい生産体制の確立と海外工場の立ち上げ、シナジーの最大化が目下の課題である。さらにはグローバル全体最適の観点での戦略策定、新規事業の創出、業界再編に向けた自社活動の強みの整理などを通じて、グローバルのトップ5を視野に業界内でのプレゼンスを高めていきたい」

グローバル化とローカル化をいかに進めるかが成功のカギ

まず海外での成功要因について問われると、西畑氏は「企業買収を通じた海外事業展開にあたっては、優秀な経営者にグローバルの経営に参画してもらうことも考えて、買収先を選定してきた」と説明した上で次のように回答した。「ITサービスは商慣習の違いからローカル化が必要な業界だ。その国の商慣習を熟知していない日本人がマネジメントすることは難しいので、既存の優秀な経営者に任せ、共通のバリューのもとで「新しい未来をつくろう」と訴えてきた」

ただし、ローカル色が強くなり過ぎると日本本社の統治体制はバラバラになってしまう。これを防ぐために、同社がグローバルで議論し導き出したのが「Clients First」「Foresight」「Teamwork」の三つから成る「NTT DATA Values」だ。中でも「Clients First」について、西畑氏は「自国でそれなりの強みを持つローカル企業をグローバルレベルに引き上げる共通の横串が、お客さまであり「Clients First」だった」とコメントした。

光冨氏は、鉄道システム事業のグローバル本社を英国に移した経緯について、こう説明した。「英国は鉄道発祥の地であり、世界のショーケースになっている。ここで一旗揚げればグローバル市場に対しインパクトを与えられると考えた。また、我々の売りは“日本品質”だが、お客さまと中長期的な関係を重視して誠実に取り組むという日本流のビジネスマナーが英国でも好意的に受け入れられ、競合する欧州勢との差別化を図ることができると判断した」

これはPPP(公民連携)のスキームで、大量一括受注したのを契機に当時の中西 宏明社長が英断を下したという。また、その後のイタリア企業のアンサルドSTS社とアンサルドブレダ社の買収について、光冨氏は「自社にないケイパビリティの獲得も目的としてはあったが、英国でのビジネス基盤の確立で、次のステップに進めたことが大きい」と語った。

Brexitの影響については、ポンドの急落により短期的な業績の下振れはあったが、イタリアに生産拠点を持ったことで今後の影響は限定的としている。英国に車両の生産工場を建設し現地の雇用機会の創出に貢献しているという点では、英国でのビジネスにおいて追い風の側面もあるという。

現地の経営はローカルに任せグループとしての価値をグローバルで共有することが大切

株式会社NTTデータ 代表取締役副社長執行役員 西畑 一宏氏

海外企業の買収はクイックウィンが肝要。モノづくりの誇りや矜持は文化、人種を超える

株式会社 日立製作所 執行役常務 鉄道ビジネスユニット マネージングダイレクタ 光冨 眞哉氏

「買収されて良かった」と思ってもらえるかが重要

次に、多くの日本企業が苦労している、買収先のガバナンスやコミュニケーションの在り方が議題となった。前述の通り、NTTデータでは買収先の選定にあたっては経営者も重視するが、ファウンダー(創業者)がいる企業はガバナンスもしっかりしていて、彼らとの信頼関係を構築できれば買収後もビジネスは順調に成長していくと西畑 氏は述べた。「買収前のデューデリジェンス(資産査定)の段階で、ファウンダーに経営を継続するかどうかの意思を確認する。同時に、買収後は日本本社からナンバー2を送り込むことを明言しておく。ファウンダーが残った方が社員も安心するし、ローカルに加えてグローバルでもビジネスを伸ばしていくケースが多い」

光冨氏は、「買収後の100日、クイックウィン(素早い成果)が重要だ」と強調し、イタリア企業を買収した際のエピソードを披露した。同社鉄道ビジネスユニットのモノづくりのトップが現地の工場に初めて訪れた際のスピーチで「私は三十数年、車両づくり一筋で生きてきた」とモノづくりに対する誇りや矜持を熱く語ったところ、大歓声が上がったという。「まさに文化や人種を超えて絆が生まれた瞬間だった。買収されて良かったと思ってもらえるような、小さな取り組みの積み重ねが大事だと実感した。被買収先の事業は設備投資がストップしていたから買収直後に相当な投資も行っており、そうしたことが安全を司る鉄道車両をつくっている彼らの誇りに再び火を付けて、日立の鉄道システム事業に対する信頼感の醸成にもつながったのだ」と光冨氏は力説した。

課題は日本本社のグローバル化グローバル人材の育成が重要

さらなるグローバル化に向けた今後の課題について、西畑氏は日本人のグローバル化を挙げた。「海外現地法人のマネジメント層の中には、グローバル企業を渡り歩き、ITベンダーだけでなくクライアント側にも所属してM&Aや事業統合を経験している者もいる。このような人々が相手では、純粋培養で育った日本人が競争してもかなうわけがない。そこはグローバル人材に任せようと、昨年7月に発足したグローバルマーケティング本部のヘッドには米国人が就任した。そこから日本人をどう教育していくかが大きな課題だ」

この意見に光冨氏も同意を示し、次のように続けた。「日本の特殊性は世界でなかなか通用しない。一方で、世代間で変化も見られる。若い世代の中には、英語を操り外資系企業を転々とし、従来の日本人とは異なる考え方を持つ者も少なくない。日本人としてのアイデンティティを備えながら、インターナショナルな日本人として世界に通用する人材に育ってほしい」と語った。

くしくも共通の課題認識が提示され、三井は「我々自身がどう変わっていくのかが問われている。経験を積み人材交流を深めながら、果敢に挑戦していくべきだ」と結んだ。

最後にクロージングとして、PwC Japanグループ マネージングパートナーの鹿島 章が「今回、大きなテーマとして取り上げたデジタル化とグローバル化は、PwCにとっても日々チャレンジしている大きな課題だ。今後も積極的に情報を提供していきながら、日本企業の国内外での活動をサポートしていきたい」と展望を述べ、本フォーラムは幕を閉じた。

PwC Japanグループ マネージングパートナー 鹿島 章
課題は日本本社のグローバル化グローバル人材の育成が重要

※登壇者の役職・企業名などは、2018年5月17日現在のものを記載しています。

※全セッションでグラフィックファシリテーション(議論の内容をグラフィックで可視化する手法)が用いられ、グローバル メガトレンド セッションではライブQ&Aが実施されました。