DXの加速に向けた3つのディフェンスラインの連携強化―PwCのデータ分析プラットフォームFPAの活用

はじめに

デジタルトランスフォーメーション(DX)の波は、第一線のビジネスの現場にとどまらず、リスク管理や経営企画、内部監査も含めた、3つのディフェンスラインの全てに影響を与えています。デジタル革命を通じて、経営者は、従前以上に、企業活動全体の「いま」を的確に把握し、タイムリーに意思決定に生かすことができるようになっています。具体的には、経営者は、従来型の「定期的」かつ「サンプリングに基づくモニタリング」する手法にとどまらず、企業活動全体を「継続的」かつ「網羅的にモニタリング」する手法を利用することもできるようになってきました。データ分析の活用を通じた企業活動の透明性の向上は、持続的な企業価値創造の助けともなります。

デジタル革命の恩恵をより早く、より多く享受するためには、それぞれのディフェンスラインにおいて、バラバラにデータの入手・分析を行うのではなく、共通のデータ分析プラットフォームを活用することが有意義です。そこで、本稿では、このような継続的かつ網羅的なデータ分析を実現するためにPwCアジア各国で共同開発したデータ分析プラットフォームである「Financial Processes Analyser(」以下、「FPA」。)の概要をご紹介します。なお、文中の意見に係る部分は筆者たちの私見であり、PwCあらた有限責任監査法人または所属部門の正式見解ではないことをあらかじめご理解いただきたくお願いします。

1 PwCが提供するデータ分析プラットフォームFPAの概要

(1)FPAの主な特徴

FPAは、組織の主要なプロセスとその管理活動、レポーティング業務、モニタリング活動全体の透明性・信頼性の向上に貢献するデータ分析プラットフォームです。FPAはモニタリングを継続的かつ網羅的に実施することをサポートするため、以下の特徴・機能を備えています(図表1)。

  1. 販売、購買、人事給与、従業員経費、総勘定元帳、運転資金、データ品質の領域を対象とした分析モジュールをあらかじめ用意しています。一部だけを使うことも可能です。
  2. 各種明細データとマスターデータを利用し、各プロセスの全取引をモニタリング・分析対象としています。
  3. PwCのこれまでの知見を基に、さまざまな組織・業界で一般的に使用されている標準的なテストをあらかじめ用意しています。これを取捨選択することで素早いデータ分析の実装が可能になります。
  4. テストの結果識別された取引を調査・視覚化するためのさまざまなBusiness Intelligenceダッシュボードを用意しています。
  5. 元データを生成・管理している情報システムの変更、アップグレードや基盤変更に影響を受けずに、複数の組織・業務について安定して一貫した分析を実現すべく、FPA固有のデータモデルを用意しています。このため、システム基盤が異なる複数のグループ会社の情報も、FPAを使うことで同じ切り口・視点で分析することができます。
  6. 必要に応じて、特定のニーズに合わせてテスト内容とダッシュボードをカスタマイズすることもできます。

(2)FPA活用の主なメリット

  1. スピードとコスト
    FPAの利用にあたっては、実績ある既存のクラウド環境を活用することで、大規模な初期投資をすることなく、迅速な利用開始が可能です。操作方法も簡単であるため、サンプルデータを用いたパイロットテストを行った上で、すぐに分析・モニタリングに集中することができます。FPAは、投資コストおよび維持コストの削減に貢献します。
  2. 業務改善
    基礎となる財務データから新しい洞察を引き出し、業務改善の余地を特定・定量化することができます。例えば、さまざまなカテゴリに分類される支出を統合・整理して、組織ごとの調達に関する支払サイクル、戦略的なベンダー評価を行います。
    基幹システムへのデータ分析機能の追加実装など、新しいソリューションへの多額の投資を行う前に、継続的な価値と用途についてビジネスニーズをテストするための道具としてFPAを利用することも可能です。
  3. 社内のステークホルダーとの対話の加速
    FPAを用いれば、事実に基づいたデータ主導型の対話が可能になります。これにより、利害関係者のお互いの理解を深め、何が問題でどのように対応・改善すればよいのか、という意識の共有が進みます。
  4. 業務プロセスの透明性の向上と内部統制の信頼性向上
    FPAを用いて、全ての取引データを一貫的かつ反復的な方法で分析することにより、業務プロセスの質を可視化することができます。また、関連する内部統制が効果的に運用されているかどうかについての信頼性も高まります。分析を通じて発見された例外的な事項の調査の際も、データをドリルダウンして詳細なデータにアクセスすることで、調査から改善アクションまでの期間を短縮化することができます。

(3)FPAの利用形態

FPAは、基本的にはクラウド型サービスですが、オンプレミスでの設定も可能です。さまざまなユーザーが、さまざまなデバイスを通じてFPAの各モジュールに24時間年中無休でアクセス可能とすることで、分析から得られる示唆を共有することができます。一般的に、データ分析プラットフォームの導入に際しては、「システム開発の高い負荷が高い」「分析結果からアクションにつながらない」「導入までの時間がかかり過ぎる」といった課題が散見されますが、FPAはSaaS形式で利用可能であるため、システム開発をせずにビッグデータの分析に向けた第一歩をすぐに踏み出すことができます。

2 FPAによるモニタリング―分析の視点

(1)継続的モニタリングのプラットフォームとしてのFPA

継続的モニタリングを導入していない企業では、リスクが顕在化する大きな事案が発生したときに初めてリスクが特定される傾向にあります。事前にリスクを特定し大きな事案を未然に防ぐためには、継続的に幅広く取引データの分析を行い、リスクを察知するアンテナを張っておくとともに、その状況を3つのディフェンスラインで共有しておくことが有意義です。FPAには150種類以上の標準的な分析を実装しているため、幅広いリスクに対する早期の分析が可能です。リスクを察知するグループ共通のアンテナとして、FPAを活用することが有効です。

(2)モジュールごとの分析の視点(抜粋)

継続的モニタリングの事例として、販売プロセス・購買プロセス・人事給与プロセスの3モジュールを題材に、具体的な分析の事例と視点の一部を抜粋してご紹介します。

販売プロセスモジュール

3 おわりに

企業のグローバル化、DXが今後もますます加速していく中で、多種多様な地域・ビジネスを継続的に可視化できるデジタルプラットフォームを組織内で共有することは、持続的な価値創造を実現する上で不可欠です。FPAには引き続き、マシンラーニング機能を含め、さまざまな機能・利便性を追求予定です。私たちは、経営者はもとより、実務を担われている皆さまと一緒に高速でPDCAをまわし、試行錯誤しながら、ディフェンスライン共通で、より使いやすく、より便利なデジタルプラットフォームの活用に向けて、精進してまいります。

下記Webページでは、Financial Processes Analyser (FPA)を動画で解説しています。あわせてご参照ください。

Financial Processes Analyser(“FPA”)


執筆者

久禮 由敬

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

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今村 峰生

マネージャー, PwCビジネスアシュアランス合同会社

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