2017年3月24日、共和党は下院通過を目指していた健康保険制度(Affordable Care Act、いわゆるオバマケア)の改廃(Repeal and Replace)案を撤回しました。 オバマケア改革が一旦止まったことで、議会における税制改革論議が再び注目を集めています。
本連載は、実現すれば30余年ぶりとなる米国の抜本的税制改革の可能性について、その背景、現段階で想定される内容および日系企業へのインパクトについてお伝えします。
2016年の大統領選挙の結果、共和党候補であるドナルド・J・トランプ氏が当選し、上下院で共和党が過半数を確保したことから、 従来存在していた大統領と議会とのねじれが解消し、抜本的税制改革の現実的可能性が俄かに注目されるようになりました。
トランプ氏が選挙時に提唱していた税制改革案と、共和党が2016年6月に発表した素案(ブループリント)との共通点は多く、税率の大幅引下げに加えて、 外国子会社配当免税制度(テリトリアル課税)、海外子会社累積留保利益の強制みなし配当課税、キャッシュフロー課税(支払利子の損金算入否認、減価償却の即時損金化)、国境調整(輸出免税・輸入課税)といった 抜本的な改革案が含まれていることから、これらが実現すればレーガン税制改革(1986年)以来の大改革となると考えられています。
米国の税制改正プロセスは大きく分けて2つあります。 第一に恒久的な法改正ですが、野党(民主党)の議事妨害を受けずに上院を通過させるには60票が必要であるところ、共和党は100議席中52議席しか有していません。 もし民主党議員の協力を得ずに税制改正を行う場合、第二の方法として、予算調整制度(Budget Reconciliation)を用いれば上院でも単純過半数での改正が可能です。 ただし、一定期間(通常10年)の予算見積に照らし当該改正が当該期間経過後に赤字を増加させる場合は改正が失効するという制約があるため、基本的に減税措置は10年間の時限立法となります。 2001年・2003年にブッシュ大統領が行った減税も、この予算調整制度を用いたもので、オバマ政権時に一部が廃止、一部が恒久化されています。
税制改革より先にオバマケアの改廃を成立させることで、予算見積においてオバマケア改革による赤字削減を反映させ、次に続く税制改革において大幅な減税を実施しやすくすることが当初の狙いでした。
(2)へ続く。
2017年4月3日更新
本連載における税制改革議論の進捗については、更新日現在の情報を基に記載しています。
PwCは、米国企業のCFOやCOOを対象にパルスサーベイを実施しました。ビジネスリーダーが大統領選挙後の世界をどのように見ているのかを明らかにし、今後の事業展開を検討する上でのヒントを提供します。
トランプ政権税制改革が日系企業に与える税務のインパクトをお伝えします。
私たちは、PwC米国での駐在経験者とPwC米国からの出向者から構成される米国タックスデスクを設置しています。米国タックスデスクは、日本および米国双方の観点から税務アドバイスをワンストップで提供しています。
トランプ新政権による減税や規制緩和の取り組みは、長期的な影響をもたらします。PwCではインパクトの大きい政策領域について継続的な調査を行っています。