月刊国際税務 Worldwide Tax Summary 1月号

2019-01-05

2019年1月号Worldwide Tax Summaryトピックス

  1. Section 163(j)の財務省規則案(米国)
  2. 法案 - ATAD、タックスヘイブン規定(スペイン)
  3. 事業再編に関する移転価格ガイダンス(イスラエル)
  4. CJEU判決 - 欠損非居住法人の受取配当に係る源泉税のEU法適合性(EU/フランス)

Section 163(j)の財務省規則案(米国)

2018年11月26日、財務省は、Section 163(j)の利子費用制限規定に関する規則案を公表した。2017年度税制改革法(2017 tax reform act)では、既存の利子費用制限規定(「旧Section 163(j)」)を改正・拡大した。IRSは、これに先立つ163(j)のガイダンスを、Notice 2018-28で公表している。また、11月26日、IRSは、納税者が特定インフラプロジェクトを、Section 163(j)(7)(B)の選択的な不動産営業/事業の適格とする目的のみで、不動産営業/事業として取り扱うことを認めるセーフハーバーについて規定をしたRev. Proc.2018-59を公表している。

2017年12月31日後に開始する課税年度に係る改正後のSection 163(j)(「新Section 163(j)」)では、一般的に、事業利子費用の損金算入が制限される。規則案では、利子費用制限決定の仕組みに関する必要なガイダンスを示しており、連結グループ、RICs、REITs、パートナーシップ、被支配外国法人(CFCs)とその他の外国法人へのSection163(j)の適用について明確化している。

本規則では、最終規則が、連邦官報(Federal Register)で公表された日後に終了する課税年度からの発効が提案されているが、納税者は、一定の要件を満たす場合、本規則案を2017年12月31日後に開始する課税年度から適用選択できる。本規則案の主要論点には以下が含まれる。

新Section 163(j)

新Section 163(j)では、事業利子費用の損金算入を、課税年度の事業利子所得、調整課税所得(ATI)の30%と、納税者の一定の資産購入に係る借入利子(floor plan financing interest)の合計額に制限している。この新たな制限は、納税者の事業利子(形式を問わず)について、また納税者が「インバウンド」(外資系)グループか「アウトバウンド」(内資系)グループかにかかわらず、広範に適用される。旧法と異なり、新法では、利子支払いが米国居住者又は非居住者に対して行われるか、また、利子の受領者が米国で免税となるか否かにかかわらず、適用される。

2022年1月1日前に開始する課税年度について、ATIは、概ねEBITDAに相当する(旧法に類似)。しかしながら、2022年1月1日以後に開始する課税年度については、ATIは概ねEBITに相当する。旧法同様新法でも、納税者は、事業利子費用の損金不算入額を無期限に繰り越せる。

2018年4月2日に公表されたNotice 2018-28では、いくつかのハイレベルの論点に対処している。これらの論点は、ほとんど規則案に取り込まれている。本規則案では、旧法の下での1991年規則案を取り下げることとなろう。

規則案の主要論点

財務省の本規則案の公表は、新法に関する最新のガイダンスである。本規則案で示される主要規定のハイレベルのサマリーとこれらの規定の改正利子費用制限への影響は以下の通りである。

利子の定義

本規則案では、「利子」(所得と費用)の広範な定義を規定しており、以下が含まれる。

(a) 負債に係る「利子」(発行差金、市場割引、取得時割引を含む)
(b) 本法(Code)の他の規定上利子と取り扱われる額(Section 483(延払契約)の規定上利子と取り扱われる額を含む)
(c) 「利子に近似し、取引の経済的利回り(economic yield)や資金コストに影響する」特定のその他の額(代替利子支払い、負債発行費、保証支払い、一定のコミットメントフィー等が含まれる)。

また、本規則案には、租税回避防止規定(利子費用の計算のみに適用)も含まれる。

調整課税所得(ATI)

本規則案では、2017年の後でかつ2022年の前に開始する課税年度について、(旧法の規則案同様)ATIの計算上、資産の売却益から当該資産に係る減価償却費等や減耗損が控除される。連結グループメンバーの株式やパートナーシップ持分の譲渡益にも同様の規定が適用される。本規則案では、Section 263Aで棚卸資産に資産化された減価償却費等や減耗損はATI計算上控除されず、ATI計算上調整されない。Section 250控除(無形資産軽課税所得(GILTI)、国外源泉無形資産関連所得(FDII))関連の特別規定もある。

繰越非適格利子の取扱い

新Section 163(j)(2)に合わせ、本規則案では、納税者がSection 163(j)で否認された非適格利子を翌課税年度に繰越できることを明確にしている。この場合、非適格利子は、納税者の翌課税年度で事業利子費用と取り扱われることになろう。Notice 2018-28同様、本規則案では、一般的に、旧法の否認利子に繰越規定が適用される。

小規模事業の特例

規則案sec.1.163(j)-2(d)では、過去3課税年度の年間平均総収益が25百万米ドル以下の納税者の課税年度について、小規模事業者の特例が適用されることが明確化されている。パートナーシップのパートナーとSコーポレーションの株主について、特別規定が適用される。

租税回避防止規定

規則案sec.1.163(j)-2(h)では、Section 163(j)又は規則案を回避することを主たる目的とする取決めを否認する広範な租税回避防止規定を規定している。租税回避防止規定が適用されると、利子費用制限計算の際、このような取決めが無視されるであろうという点が重要である。

その他の利子費用制限との関係

本規則案によると、Section 163(j)は、通常、本規定がなければ現年度に損金算入となる事業利子費用のみに適用される。なお、本規則案では、Section 163(j)と税源浸食濫用防止税(BEAT)との調整規定は留保している。これらの規定は、今後のBEATの規則案で対処されると見込まれる。

Cコーポレーションと連結グループに適用される一般規定

規則案sec.1.163(j)-4(b)によれば、Cコーポレーションのすべての所得/損失項目は、営業又は事業(Section 162に規定するtrade or business)に適切に配賦でき、CコーポレーションのATIの計算要素として取り込まれる(投資項目としてではなく)「事業(business)」項目として取り扱われる。一般に、パートナーシップからCコーポレーションパートナーに配賦されるパートナーシップの投資利子・費用、投資所得についても同様である。

規則案sec.1.163(j)-4(d)では、一般的に、連結グループは単一のSection 163(j)の制限があると規定している。しかしながら、同条の適用上、連結申告書を提出しない関連グループ(affiliated group)のメンバーは合算しない。

Cコーポレーションの否認された事業利子費用の繰越

規則案sec.1.163(j)-5(b)により、課税年度に損金算入可能となる事業利子費用額が制得される。否認額は、翌課税年度に繰り越される。

規則案sec.1.163(j)-5(b)(2)では、Cコーポレーションの現年度の事業利子費用は、前課税年度で否認された繰越利子費用より前に、現年度で控除される、と規定されている。その後、否認された繰越事業利子費用は、発生年度順に控除される(Section 382等の制限あり)。

以上のほか、本規則案では、Sコーポレーション、パートナーシップやCFCs(被支配外国法人)、ECIを有する外国の者(foreign person)への適用等についても規定がある。

経過措置規定

本規則案では、旧条の規定で単一の納税者と取り扱われた関連グループメンバー間での否認された繰越非適格利子の配賦規定を取り入れている。

 

出典:PwC, Tax Insights
「月刊 国際税務」 2019年1月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人常任顧問 岡田 至康 監修

法案 - ATAD、タックスヘイブン規定(スペイン)

2018年10月23日、財務省は、3法案をパブリックコンサルテーションのため公表した。2つの税法案では、金融取引税とデジタルサービス税を導入する。3つ目の税法案では、EUの租税回避防止指令(ATAD)に含まれるいくつかの規定と、EUの租税紛争解決の仕組み(Tax Dispute Resolution Mechanisms)を取り込み、EUとOECDの基準に沿うようタックスヘイブンの定義を拡大することで、租税不正行為(tax fraud)を防止する措置を導入する。

租税回避防止措置

本法案では、ATADに含まれる租税回避防止措置の中で、出国税(exit tax)と被支配外国法人(CFC)規定のみが取り込まれるであろう。

ATADの一般的濫用防止規定(GAAR)は、政府が、既存の一般税法上のGAARsが、既にATADの要件を満たしていると考える限り、取り込まれないであろう。本税法案では、利子費用制限を取り扱うATAD規定も除外している(これに関して、EU委員会は、スペインに、法人所得税法(CITL)に既に同様の効果がある規定が含まれるという根拠で、本規定の取り込みを2024年まで延期する選択肢を付与している)。スペインは、ATAD2に含まれるハイブリッド防止規定の導入も、その複雑性のため、2021年まで延期することを決定している。

出国税(exit tax)

現行のCITLには、法人が、税務上の居住地をスペインから外国法域に移転させる際に通常適用される出国税規定が含まれる。しかしながら、税務上の居住地が、EU/EEA法域に移転する場合、納税者は、資産が第三国に移転されるまで、キャピタルゲイン税の支払いを繰り延べることができる。

本法案では、この繰延を廃止し、EU/EEA法域への本拠地移転(migration)を行う納税者について、税額を5年均等額(2年目以降は利子が課される)で支払う選択肢が与えられるであろう。一定の場合、納税者は、税務当局から銀行保証を求められる可能性もある。

本法案では、現行の税法(tax code)で特別に対処されていない、スペインへの税務上の本拠地移転も予定している。他のEU法域からの本拠地移転や資産の移転があり、出国元の国で本拠地移転に出国税が課されている場合、スペインでは、出国元の国での評価額(独立企業間価格)で当該資産の税務上の簿価(tax basis)を認識するであろう。

CFC規定

本法案では、ATADに沿うよう、既存のCFC規定の適用範囲が拡大されるであろう。現行のCFC規定はスペイン納税者の非居住子会社のみに適用されるが、本法案では、外国の恒久的施設(PE)にもCFC規定の適用が拡大される。したがって、PEで受動的所得が生じ、実効税率18.75%(25%×75%)未満で課税される場合、支店免税にはならず、直ちにスペインで課税されるであろう。受動的所得の範囲も一定の金融活動及び販売・サービス所得に拡大され、金融及びサービス活動等に係るセーフハーバー(第三者からの所得基準)も50%以上から2/3以上に引上げられ、既存の特定の中間持株会社に係るCFC規定の特例も廃止されるであろう。なお、EU・EEAの子会社・PEsが経済活動を行っている場合、CFC規定は適用されないであろう(現行規定では、EUの居住事業体のみの特例)。

タックスヘイブン

本法案により、本分野でのEU・OECDの取り組みに沿うよう、タックスヘイブンの概念は拡大し、今後政府が作成するリストには国/地域だけでなく、(有害な)税制も含まれる可能性がある。

 

出典:PwC, Tax Insights
「月刊 国際税務」2019年1月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人常任顧問 岡田 至康 監修

事業再編に関する移転価格ガイダンス(イスラエル)

2018年11月1日、税務当局(ITA)は、多国籍企業グループの一部であるイスラエルの事業体の事業再編(business restructuring)に関する考え方を示す通知(circular)を公表した。本通知では、事業再編の特定と性格付けに関するITAの考え方を示しており、事業再編があった場合、終了または国外に移転した機能・リスク及び/又は資産(FAR)の評価を行う方法を説明している。

事業再編が生じたかどうかの判定

本通知では、事業再編とは、FARの移転、中止又は清算であるとしている(通常、外国多国籍企業グループによるイスラエルの事業体の買収に伴って起こる)。関連する部分について、本通知でのITAの考え方と達した結論は、特定の事業再編の論点を取り扱ったイスラエルの最初の判決であるGteko事件での裁判所判決と整合している。この点で、ITAは、個々の事案の事実と状況の個別検証を認めるより、この特定事件の結論をすべての同様の事業再編に適用することを想定している。本通知では、OECDのガイドラインに沿って、事業再編があったかどうかを判定するに当たっては、機能分析を行い、契約内容を検証し、両当事者にとっての他に現実的に代替可能な選択肢を検証する必要があるとしている。FARの法的・経済的側面での何らかの変化があるかどうかを特定するために、要因となった事象(triggering event)の前後で徹底的な機能分析を行うべきとしている。この点に関して、契約内容により、事業再編の結果としてのイスラエルの事業体の責任、権利及び債務の変化の性質・程度を立証できる。しかしながら、契約がないか、状況が契約内容と実質的に異なる場合には、FARの法的所有権の移転がない場合でも、事業再編の性格付けは、両当事者の実際の行為に基づくことになる。ITAは、形式より実質を重視(「substance over form」)するOECDガイドラインとGteko判決によりその考え方を裏付けている。ITAは、事業再編を行わないことを含めて、両当事者により現実的な選択肢がある場合も検証を予定している。本通知によれば、この場合、実施された条件の調整も必要としている。本通知では、事業再編の性格付けが、無形資産を使用する権利の譲渡か、一定期間このような無形資産を使用する権利のライセンス供与なのかの区別もしている。取引の性質決定をサポートすることを意図した様々なパラメーターのリストがあり、主として、無形資産に関する意思決定に加え、移転資産の経済的有用性、将来の開発の責任、リスクと開発費用に言及されている。

事業再編の評価

事業再編があった場合、移転されたFARの独立企業間対価は、再編が非関連者との間で行われたとしたら実現されたであろう利得(return)として計算されるべきである。多国籍企業グループの内部事業再編の過程で価値は消失しないというのが、OECDガイドラインで支持されるITAの立場である。本通知では、主として比較対象取引(comparable transactions)及び/又はDCF法を使用した移転FARに係る特定の評価アプローチを詳細に検討している。

 

出典:PwC, Tax Insights
「月刊 国際税務」 2019年1月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人常任顧問 岡田 至康 監修

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