月刊国際税務 Worldwide Tax Summary 8月号

2018-08-05

2018年8月号Worldwide Tax Summaryトピックス

  1. 政府による連結納税制度の改正提案(オランダ)
  2. 株式譲渡に係るRETT(不動産譲渡税)規定の改正(ドイツ)
  3. ATAD措置提案を含む法案(ルクセンブルグ)
  4. デジタルサービスに影響する租税法令(ウルグアイ)

政府による連結納税制度の改正提案(オランダ)

2018年6月6日、財務省は、これまで伝えられてきたとおり、連結納税制度(fiscal unity regime)を2017年10月25日に遡及して改正適用する法案を提出した。本法案が承認されると、法人所得税法(CITA)のいくつかの規定は、連結納税がないものとして適用される。

関連者負債利子

CITAの第10a条パラグラフ1では、特定の「汚れた(tainted)」取引に関係する関連者負債の利子損金算入は認められない。

本法案では、連結納税がないものとして第10a条が適用される。つまり、連結納税内で生じたため従前は認識されなかった取引について、CITA第10a条の適用につながる可能性がある。本法案は、取引が2017年10月25日を含む前後のいずれの日の締結であっても適用されるであろう。CITA第10a条の範囲に当てはまれば、連結納税内の融資も認識されるであろう。

特に、納税者が、CITA第10a条パラグラフ3で言及している「反証(counter evidence)」を提示すれば、CITA第10a条の範囲に当てはまる負債の利子は、引き続き損金算入となろう。負債と関連取引の双方に関して、負債が、(a)主として事業上の考慮から設定されている場合、又は、(b)利子所得に関して債権者段階で十分な課税がなされている場合に、反証が存在するとされる。

過大資本参加利子

CITA第13l条では、CITA第13条の資本参加免税の対象となる資本参加への「過大(excessive)」融資に関係するとみなされる負債利子の損金算入は認められない。

本法案によれば、連結納税の場合、それがないものとして連結納税の個社毎にCITA13l条が適用される。75万ユーロの閾値も、これら個社毎に適用される。

ポートフォリオ投資の資本参加

本法案では、連結納税がないものとして、CITA第13条パラグラフ9-15が、連結納税の個社毎に適用されることとなろう。したがって、13条では、連結納税内のすべての子会社は、それが適格ポートフォリオ資本参加であるかどうかを判断しなければならない。

本法案には、「緊急措置(emergency measure)」として、CITA第13a条も含まれる。CITA第13a条では、特定条件のもと、非適格の資本参加について、時価での評価が求められる。本法案では、連結納税内の非適格資本参加にこの規定が適用されることとなろう。本改正は、2017年10月25日に公表されなかったため、本改正に遡及効果はなく、2019年1月1日の発効となろう。

資本参加免税のミスマッチ防止規定

CITA第13条パラグラフ17により、対応する支払い/対価が便益を付与する子会社の段階で損金算入される場合には、資本参加恩典への資本参加免税は認められない。2016年時点のCITAに加えられた本規定は、ハイブリッドミスマッチの防止を狙いとしたEU親子会社指令の改正に沿ったものである。

本緊急措置によれば、CITA第13条パラグラフ17は、連結納税がないものとして、個社毎に適用される。

欠損金の利用

利用可能な税務上の欠損金がある法人の株主が大幅に(30%以上)変わる場合には、株主変更日までに生じたすべての欠損金は、CITA第20a条の特定要件のもと、相殺ができない可能性がある。

本法案では、これらの規定は、個社レベルで適用されなければならない。

CITA第20条パラグラフ4-6には、持株会社と金融会社の欠損金利用制限が含まれる。

本規定は、EU法に適合するとみなされない可能性があるが、本法案では改正されないであろう。

配当源泉税

配当源泉税法(DWTA)第11条パラグラフ4には、国外配当を受領する法人が、配当受領後すぐにその株主に配当する場合の特別規定が含まれる。本条は、受領する配当が外国源泉税の対象になり、支払配当がオランダの源泉税の対象になる場合に関係する。DWTA第11条パラグラフ4は、現在、オランダの連結納税に適用される。本法案では、この規定は廃止されるであろう。

本法案は、今後数か月、議会で討議される。新規定は、法案が両院で可決された場合に最終となる。

財務省は以前、オランダの連結納税制度は、最終的には、持続可能で、連結納税を特徴としない可能性があるグループ税制に移行すると公表している。現行の連結納税制度の移行には数年かかると見込まれる。

 

出典:PwC, Tax Insights
「月刊 国際税務」 2018年8月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人常任顧問 岡田 至康 監修

株式譲渡に係るRETT(不動産譲渡税)規定の改正(ドイツ)

2018年6月21日、財務相は、不動産譲渡税(RETT)制度の強化につながるいくつかの措置に合意した。正式文書案は公表されていないが、近い将来、改正が見込まれる。

ドイツにある不動産を所有する不動産会社株式の95%未満の株式譲渡は、通常RETTの課税対象にならない。

財務相は、以下をカバーする法案の作成を委員会に求めると思われる。

  • パートナーシップ持分譲渡のモニタリング期間を10年に延長
  • 法人株式譲渡に係る新たなRETTの課税要件を導入
  • 閾値の95%から90%への引き下げ
  • パートナーシップのみに適用される特定優遇に係る取戻し期間の延長

本制度の発効のタイミングについて明確なコミットメントはないが、2019年1月1日までと見込まれる。

 

出典:PwC, Tax Insights
「月刊 国際税務」 2018年8月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人常任顧問 岡田 至康 監修

ATAD措置提案を含む法案(ルクセンブルグ)

2016年7月、EUの租税回避防止指令(「ATAD1」)が公表された。EU加盟国は、2018年12月31日までにATAD1を国内法に取り入れなければならない。

2018年6月19日、政府は、国内法としてのATAD1の実施となる法案(7318号)を議会に提示した。本法案は、今後法制化プロセスを経る必要があり、議会の最終決議前に修正の可能性がある。

ATAD1は、いくつかの分野で、EU加盟国に異なる選択肢を与えている。本法案は、政府の選択を示している。議会の最終決議を考慮すると、本法案の以下の措置について、2019年1月1日に発効が見込まれる。

  • 利子制限規定(BEPS行動4) - ATAD1第4条
  • 被支配外国法人(CFC)規定(BEPS行動3) - ATAD1第7条及び8条
  • EU内ハイブリッド防止規定(BEPS行動2) - ATAD1第9条
  • 一般的濫用防止規定(GAAR) - ATAD1第6条

出国税(exit tax)規定(ATAD1第5条)は、2020年1月1日に発効する。

法案には、いずれも直接ATAD1に関係しない国内法の2つの追加修正も含まれる。これらの措置は、非課税交換(tax neutral exchanges)と、恒久的施設(PE)の国内定義に関するものである。

第三国とのハイブリッドミスマッチのためのATAD1を修正する指令(ATAD2)は法案の一部ではないが、後に実施されるであろう。これらの措置は、2020年1月1日までは発効しなくてもよいことになっている。

利子制限規定

法案では、主要法規(1967年12月4日所得税法(LITL))の中に、ATAD1第4条に沿った新たな利子損金算入制限を規定する新168bis条を導入する。本法案では、ATAD1で規定するほとんどすべての救済オプション(relieving options)の採択がなされている。

納税者の範囲

利子制限規定は、税務上ルクセンブルグ居住者で、法人所得税の課税対象になる法人納税者と、他のEU加盟国又は第三国の居住法人のルクセンブルグPEに適用される。

しかしながら、ルクセンブルグは、ATAD1第4(7)条及び4(3)(b)条に規定するオプションを採択し、ATAD1で規定する「金融業(financial undertakings)」と「独立事業体(standalone entities)」を、利子制限規定の適用範囲から除外している。法案に掲載されている金融業とは、EU指令/規則で規定する各タイプの事業体である。独立事業体とは、会計上の連結グループの一部ではない納税者で、ルクセンブルグ以外の国に所在する関連事業体やPEがない納税者である。

制限規定の範囲に含まれる支出

利子制限規定の範囲から除外されない納税者は、利子・その他類似コスト(「借り入れコスト(borrowing costs)」)の損金算入制限の対象になる。

一般規定

制限は、「過大(excess)」借り入れコストに適用される。これらは、納税者の課税利子収入とその他の経済的に同等の課税所得を超過する損金算入借り入れコストと定義される。ATAD1同様、本法の借り入れコストには幅広く、例えば、金融取引に係る保証料や資金借入に係るアレンジメントフィー等も含まれる。本規定は、関連者、第三者からの借り入れにかかわらず適用される。

過大借り入れコストは、いずれかの課税期間で損金算入されるが、ⅰ)納税者の税務上のEBITDAの30%と、ⅱ)3百万ユーロ、のいずれか多い額までである。EBITDA計算上、免税所得とこれら所得に係る費用は考慮されない。

特定除外

2016年6月17日前に締結された融資に係る祖父条項 - 過大借り入れコストの計算上、納税者は、2016年6月17日前に締結された負債から生じる借り入れコストを除外できる(ATAD1第4条(4)(a))。

長期インフラプロジェクト - 過大借り入れコストの計算上、納税者は、長期インフラプロジェクトのオペレーター、借り入れコスト、資産、所得のすべてがEU内にある場合には、当該プロジェクトから生じる借り入れコストを除外できる(ATAD1第4条(4)(b))。

グループ

グループ資本比率 - 会計上の連結グループのメンバーである納税者は、その全資産に対する自己資本比率が、グループの同等(equivalent)比率と同値(equal to)又はそれ以上であることを証明できる場合には、過大借り入れコストの全額を損金算入できる(ATAD1第4条(1)(a))。納税者の資本比率は、グループの資本比率を2%の範囲内で下回る場合には「同値(equal to)」/「同等(equivalent)」とみなすことができる。

繰越

課税期間で損金算入されない過大借り入れコストは、無期限に繰越できる。当該課税期間で使用できない利子の余裕枠は、5年間繰越できる(ATAD1第4条(6)(c))。

ルクセンブルグ法の他規定との関係

本法案では、資本参加免税制度の「取戻し(recapture)」規定等、利子損金算入を制限する従前からある他の税務規定は修正されない。したがって、これらの措置(とその他の損金算入制限規定)と、新168bis条間の相互関係が考慮されなければならない。

CFC措置

本法案では、ATAD1第7条及び8条に沿った新たなCFC規定を規定する新164ter条を導入する。ルクセンブルグは、ATAD1第7条(2)(b)で想定されたオプションBを選択しており、税恩典を受けることを本質的な(essential)目的として設定された真正でない取決め(non-genuine arrangements)から生じる未分配のCFC所得をターゲットにしている。

ハイブリッドミスマッチ

2020年1月1日までに国内法に組み込まれる理事会指令(EU)2017/952(「ADAT2」)で規定する「ハイブリッドミスマッチ」状況を扱う規定が、ATAD1第9条に完全にとってかわるとの意見が大勢であった。したがって、EU加盟国は、2020年1月1日前までは、いかなる「ハイブリッドミスマッチ」規定も実施する必要はなかった。

しかしながら、政府は、新168ter条により、EU内だけでのハイブリッド商品(instrument)とハイブリッド事業体ミスマッチをカバーするATAD1のハイブリッド防止規定を2019年から導入することとした。より広範なEU内のミスマッチだけでなく、第三国とのミスマッチもカバーするATAD2のハイブリッドミスマッチ措置が、2019年中の法律に含まれ、2020年1月1日に発効すると見込まれる。LITL第168ter条は、ATAD1第9条に近似している。

一般的濫用防止規定

法案では、既存の一般的濫用防止規定(1934年10月16日適応則(Adaptation Law))を改訂・近代化する。「法の濫用」基準と一般的慣行は、起草者と判事によってここ数年で徐々に進展してきている。判例法で規定された4つの基準は以下の通りである。

私法形式の利用 / 税の軽減 / 不適切な手段の利用 / 取引に係る税以外の理由/正当な商業上の理由の欠如

既存規定は、その条文の意味において何が「法の濫用」となるのか、より正確に定義するべく、増補がなされている。

本法では、法的手段が、税法の目的/趣旨に反して、税の回避又は軽減を主たる目的(の一つ)として利用されて、すべての関連する事実と状況を考慮して真正でないとされる場合には、法の濫用とされる。

複数のステップ又は部分で構成される可能性がある法的手段は、経済実態を反映した正当な商業上の理由で利用されない限りにおいて、真正でないと取り扱われる。

新法は、ATAD1第6条を反映しているが、既存の判例法から生じる法的確実性を維持することを意図している。そのため、既存基準や一般的慣行の実質的な変更は見込まれていない。

このほか、出国税(Exit tax)、非課税交換(転換社債の株式への転換は非課税でなくなる)、PEの国内定義に関する改正(租税条約をもとに解釈)がある。

発効

本法案は、2020年1月1日以後開始課税年度から適用される出国税を除き、2019年1月1日以後開始課税年度からの適用になる。

 

出典:PwC, Tax Insights
「月刊 国際税務」2018年8月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人常任顧問 岡田 至康 監修

デジタルサービスに影響する租税法令(ウルグアイ)

2018年5月29日、経済・財務省は、インターネット、技術的プラットフォーム、コンピューターアプリケーション(apps)や同様の手段を通じたサービスの提供に関する租税規則を規定する法令(Decree 144/018)を官報に公表した。本法令では、課税対象となるウルグアイ源泉所得の決定にあたり、これらのサービスが税務上満たすべき要件と、サービス提供者とユーザーの所在地基準を明らかにしている。本規則は、デジタルサービスに影響する新税務規定を導入した法律(法律第19,535号)の発効日である2018年1月1日に発効した。

2018年1月1日から、以下の活動からの所得は、ユーザーがウルグアイに所在する限り、完全にウルグアイ源泉で、全額法人所得税(CIT)/非居住者所得税(NRIT)の対象になる。

映画フィルムとテープの製造、流通又は仲介 / 直接TV放送 / AVコンテンツの送信

これらの活動には、インターネット、技術的プラットフォーム、コンピューターアプリケーション(apps)や同様の手段を通じた活動が含まれる。

IPアドレスやユーザーの請求先住所がウルグアイの場合、ユーザーの所在地はウルグアイとみなされる。これらの場所が立証できない場合で、ウルグアイで管理されている電子手段(銀行口座、デビット/クレジットカードやEマネー等)を通じてサービスフィーが支払われる場合には、反証がない限り、ユーザーがウルグアイに所在するとみなされる。

付加価値税(VAT)について、仕向け地がウルグアイであるか、ウルグアイで費消/経済的に使用される場合、上述のサービスはすべてウルグアイで提供されたと取り扱われ、VATが課される。

このほか、電子化された手段を通じた仲介活動の課税、源泉義務者(納税管理人、文書化)についても規定がある。


出典:PwC, Tax Insights
「月刊 国際税務」 2018年8月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人常任顧問 岡田 至康 監修

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