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不満客の幸福度を高めることによるロイヤル顧客化

2021-08-19

パーパスドリブン経営、D2C(Direct to Consumer)などのキーワードが語られる昨今、「企業のパーパスや世界観をしっかりと表明し、それに共感・心酔するロイヤリティの高い顧客との関係性をどれだけ築けるか」が、企業のマーケティングを語る上で非常に重要になってきています。

そうした時に、「不満客」に着目することは1つの解だと筆者は考えます。なぜなら、不満客に適切な対応を施すことは、何も不満も表明しない顧客にそれをするのに比べて、高い顧客満足度やリピート率につながりやすいからです。

本稿では「幸福度」の切り口から、「不満客の声に真摯に対応して満足度を高める」ことを超えて、「不満客の声に真摯に対応するだけでなく、その顧客の幸福度向上を行うことでロイヤル顧客に育成する」ことを提案します。

不満客をクレーマーではなく、ロイヤル顧客の予備軍と捉える

そもそもなぜ、不満客はロイヤル顧客の予備軍と言えるのでしょうか。顧客からのクレームへの対応とカスタマーロイヤリティの関係性を「グッドマンの法則」として提唱したジョン・グッドマン氏によると、既存顧客の中には現状の商品・サービスに不満を感じつつも、声を上げることなく、仕方なく使い続けるか利用を止めてしまう、いわゆる「サイレントカスタマー」が圧倒的に多いのです。業種・業態による差はありつつも、既存顧客のうち苦情を申し立てるのは4~30%、企業の苦情担当窓口のマネージャーまでその声が届くのは、わずか1~4%と言われています*1

このように、全体数から見ると「不満や苦情を表明している」こと自体が顧客からの企業に対する積極的な働きかけであり、企業と顧客が関係性を深めるにあたってのきっかけと見ることができます。もちろん、不満や苦情を申し立てる顧客の全てがロイヤル顧客予備軍というわけではありません。苦情には正当性があるものだけではなく、悪質な要求も含まれるため、まずは内容の正当性を判断する必要があります。

不満への直接的な対応を超え、幸福度の向上によりロイヤル顧客化を目指すべき2つの理由

苦情を申し立てた顧客のうち、対応に満足した場合のリピート率が82%、反対に不満が残った場合はリピート率が19%に留まるという調査結果*2も存在するように、不満客への適切な対応は、高いリピート率につながり得ます。ではここからは、不満客の幸福度を向上することでロイヤル顧客増を目指すアプローチを紹介します。前述のような不満への直接的な対応をベースに、顧客の幸福度に着目することがなぜ必要なのかを考えましょう。

1つ目の理由は、不満への適切な対応だけでもNPS(Net Promoter Score)が高まり、リピート率も高まると考えられる中で、顧客の幸福度にまで踏み込んだ対応を行うことでさらに高いリピート率やロイヤリティが得られるのではないかと考えられるからです。私たちは、「全国消費者実態・幸福度調査2020」と同時期に「全国大学生実態・幸福度調査2020」(未公開)を実施しました。そこでは、全国の大学生・大学院生(N=5,250)に対して数々の質問を行っており、幸福度と自分が通う大学の推奨意向(NPS)も聴取しました。幸福度とNPSは相関係数が0.32で、弱い正の相関が観測されましたが、逆に言えば「NPSは高いが幸福度の低い層」あるいは「NPSは低いが幸福度の高い層」といったNPSと幸福度の高低が必ずしも一致しない層は一定数存在します。この事実に鑑みると、一般的なロイヤリティ計測ツールであるNPSだけでなく、幸福度も併せて顧客を見ることで、より立体的に顧客のロイヤリティを観測することができると考えます。ここでは大学生を例にしましたが、不満への直接的な対応(NPSの向上)だけでなく、顧客の幸せにもつながるデータドリブンのマーケティング活動を行うことで、LTV(Life Time Value)のさらなる向上も期待できると筆者は考えます。

図表1 幸福度とNPSの関係の例(全国大学生実態・幸福度調査2020より)

なお、株式会社Insight Techに蓄積されている不満に関するインサイトデータによると、苦情・不満を申し立てる顧客のうち、建設的意見を表明する顧客は幸福度が高い傾向にあるのではないか、と推察されます。

それは、さまざまな商材の不満インサイトデータにおいて、年収が高いほど、建設的意見を表明する比率が高い傾向が見えるからです。幸福度の高い人は、自信、信じる拠りどころ、考え方・価値観といった心の持ちように一定の傾向があることや、消費への積極性、新しいものに対する感度が高いといった傾向があることが分かっています。国内外の幸福学の先行研究によると、年収、年齢、健康状態などによって幸福度に一定の傾向があることも分かっており、年収の高さも1つの特徴と言えるでしょう。

ただし、「全国消費者実態・幸福度調査2020」で示す通り、年収や年齢などの違いから見える傾向よりも、自信などの心の持ちようのファクターが幸福度に影響しているため、不満と幸福度を組み合わせたデータ収集と分析を通じ、さらに高い解像度でメカニズムを解明していくことが求められます。

2つ目の理由は、幸福度の高い人はビジネス的に価値の高い顧客群だからです。「全国消費者実態・幸福度調査2020から見えてきた『幸福度が高い人のビジネス的な意味合い』」で考察した通り、幸福度の高い顧客は積極的な消費意向があるために高いLTVにつながるだけでなく、新しい商品・サービスに対する高い感度を持つので、企業にとっての共創パートナーともなる可能性があります。以上の2点から、幸福度に着目する意義は十分にあると筆者は考えます。

ここまで、不満客の幸福度を高めることが彼らをロイヤル顧客に転じさせる可能性を論じました。こうした可能性を具現化するためのアプローチとして、私たちは2021年8月19日、Insight Tech社と提携しました。

私たちが提唱する「幸福度マーケティング」に、消費者の不満に関するデータベースや消費者の声の分析技術を掛け合わせることで、不満客の幸福度向上によるロイヤル顧客化の実現、ひいては企業と顧客の共創に踏み込んだ関係構築の在り方をさらに追究していきます。

*1:株式会社セールスフォース・ドットコム, 2016. 「『グッドマンの法則』に学ぶカスタマー・エクスペリエンスの新常識」
https://a.sfdcstatic.com/content/dam/www/ocms/jp/assets/pdf/misc/goodman-cx.pdf

*2:NPO法人顧客ロイヤルティ協会, 「Goodmanの法則ーグッドマンの法則ー」
http://www.customer-loyalty.jp/goodman.html(2021年5月18日閲覧)

執筆者

行武 良子

株式会社Insight Tech

髙木 健一

髙木 健一

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

川上 晶子

川上 晶子

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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