欧州金融セクターにおけるTCFD対応状況に関する示唆(2019年3月)

2019-04-02

サステナビリティ・コンサルタントコラム


2017年6月、FSB(金融安定理事会)のTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)による提言が公表され、多くの企業が対応を開始しています。本コラムでは、PwCサステナビリティサービスに従事するプロフェッショナルが2019年3月に欧州の複数の金融機関、国際機関・政府機関を訪問し、TCFD対応に関する意見交換で得られた示唆について、4つの疑問に答える形式で整理を行います。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であり、属する組織の見解とは関係のない旨をあらかじめお断りします。

Q1:欧州金融機関はTCFD対応を内部でどのように位置づけているか?

欧州金融機関は、気候変動は当然に対応すべきグローバル共通の課題であると認識しています。欧州の多くの金融機関は、COP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)を受けて、あるいはそのずっと以前から、気候変動にかかるシナリオ分析(または類似の気候関連分析)を独自に行い、その結果を気候変動のリスクと機会を管理するために活用しています。つまり、欧州金融機関は、低炭素・脱炭素経済への移行がビジネスに与える潜在的な経済的影響を理解し、そのリスクと機会を管理することに焦点を当て、TCFDも関連する活動の一部と捉えています。

欧州金融機関は、TCFDを、気候関連のリスクと機会、特にサステナブルファイナンスに関するビジネス機会の創出を支援するツールであると捉えています。TCFDで提言されているプロセスは、さまざまなシナリオの下で気候関連リスクを定量的に分析し、潜在的リスクの高いエクスポージャーを理解し、新たな市場機会を特定するための構造的な方法を提供すると考えています。

欧州の金融機関は、気候変動は事業に重大な影響を及ぼす可能性のあるビジネス上の問題と考えているため、規制当局の動きを待つのではなく自らが進んで取り組んでいます。規制に関する議論に影響を与え、規制化が進んだ際に準備ができていない状態や、コンプライアンス対応コスト負担が膨らんだりするような事態を避けるため、準備を整えておくことを目指しています。

関連するステークホルダーの動き

  • 国際機関・国際的イニシアチブが積極的に気候変動対応を推進しています。
    • UN-PRI(国連責任投資原則)は、署名機関向けに気候関連情報開示を必須事項として要請しています。
    • Network for Greening the Financial System(日本の金融庁も加盟)は、アセットオーナーやアセットマネージャーを含む金融機関が、気候変動に取り組むことを奨励しています。
  • 規制当局(英国のPrudential Regulation Authorityなど)の行動は、現状は間接的な圧力にとどまっています。
  • 欧州の投資家(特に大規模な年金基金)が、積極的かつ頻繁に投資先経営陣と気候関連のエンゲージメントを進めているため、投資先経営陣は議論に耐えうる理解を有する必要性に迫られています。

Q3:TCFDや気候変動は社内で誰がメインで対応しているのか?

多くの欧州の金融機関では、CSR/サステナビリティユニットではなく、各事業ユニットの代表者から構成される委員会やワーキンググループの責任で、事業活動の中でどのように気候変動のリスクと機会を管理するかを検討しています。一部の金融機関は、「TCFDをどのように事業に組み込んでいくか」ではなく、「TCFDとESGの枠組みを使ってどのようにリスク管理を行い、新製品を開発していくか」という考えの下で、例えば、サステナブルファイナンスに特化した専門チームを組成し、新商品開発など新しいビジネス機会の発掘を積極的に推進しています。

関連するステークホルダーの動き

  • UNEP-FIのPRB(Principles for Responsible Banking)では、ESG管理の仕組み構築の一部で第三者保証に関する要求事項を定めており、これは、気候変動とESGは、CSR/サステナビリティユニットだけのものでなく事業活動全体に関連するものであるという認識を示しています。

Q4:以上の欧州の状況を踏まえて、日本の金融機関がTCFDや気候変動をビジネスに組み込む上で留意すべきポイントは何か?

日本では、TCFDがコンプライアンスや開示の問題と見なされているケースもあり、どのように対応したらよいかという方法論が先行していることを見かけます。Q1~Q3の考察から得られる示唆として、留意すべきポイントを3点挙げさせていただきます。第1に、気候変動とTCFDはコンプライアンスの問題ではないことを認識すること、第2に、気候変動を含むESGを、リスク管理の強化や新商品の開発といった競争優位のために、どのように活用できるかという視点を持ち、長期戦略の問題と捉えること、最後に、すぐに取り組みを開始する、つまり規制化を待つのではなくツールとして活用することです。

気候変動の問題は、不確実かつ複雑です。考えられるさまざまなシナリオを合理的な方法で検討し、検討結果をどのように長期戦略のインプットとして活用できるかといった視点を持ち、まずは100点でなく30点くらいを目指した取り組みをすぐに開始されることをお勧めします。

共同執筆者

フィリップ マシー

マネージャー, PwCビジネスアシュアランス合同会社

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※ 法人名、役職、コラムの内容などは掲載当時のものです。

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