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消費財・小売・流通セクター対談 第3回:オイシックス・ラ・大地のチーフ・オムニチャネル・オフィサー 奥谷氏に訊く(前編)「オンラインとオフラインの融合で変えるカスタマージャーニー」

2019-02-18

デジタル化が進む小売業では、顧客データも蓄積されるようになった。しかし実態は、業界として日本に大きな転換は起きてはおらず、旧態然としたビジネスモデルが依然続いている。なぜなのか?

オイシックス・ラ・大地の執行役員でCOCO(チーフ・オムニチャネル・オフィサー)を務める奥谷 孝司 氏は、日本の小売が陥りがちな失策を指摘し、選択肢が消費者側にある時代のカスタマージャーニーの重要性とリアル店舗の位置づけを語る。

(左から)小山 徹、奥谷 孝司氏

対談者

奥谷 孝司

オイシックス・ラ・大地 執行役員 COCO(チーフ・オムニチャネル・オフィサー)(写真右)

1997年良品計画入社。2010年WEB事業部長に就き、「MUJI Passport」をプロデュース。15年10月にオイシックス(当時)入社。早稲田大学大学院商学研究科博士課程修了(MBA)。17年4月より一橋大学大学院商学研究科博士後期課程在籍中。18年9月、大広との共同出資で顧客時間共同取締役CEOに就任。日本マーケティング学会理事。

小山 徹

PwC Japanグループ 流通セクター統括(写真左)

PwC Japan合同会社 パートナー

グローバルIT企業、事業会社を経て、旧プライスウォーターハウスへ入社。16年にわたり主にヘルスケア、流通業界を担当し、業務改善/改革からシステム導入/グローバル展開、企業統合などの戦略案件を含む数多くのプロジェクトに従事。その後、大手流通会社役員兼システム子会社代表取締役、IT部門長を経て2017年よりPwC Japanグループの流通セクター統括に着任。

データ活用で広がるバック・トゥ・ベーシックへの流れ

小山 最近の日本の小売を見ていて少し感じてきているのは、バック・トゥ・ベーシックへの流れです。デジタルが進めば進むほどそれを実感します。奥谷さんはこれまでさまざまな現場で小売に携わっていらっしゃいますが、近年の小売業界で注目されているトレンドはありますか?

奥谷 大きく二つ感じていることがあります。一つは、デジタル化によるマーケティングオートメーションへの挑戦の停滞です。企業としては推し進めたい思いはあるけれども、海外に比べればかなり遅れていると思います。「実験」という名のもとに、続けないことを前提に着手するケースも少なくありません。もっとやり続けてほしいなと最近強く思っています。もう一つは、大量生産・大量消費から脱却できないものかということ。デジタル化によってモノの作り方・売り方が変わり、小売業は今まで以上にお客様の姿が見えて来ているはず。それなのに、相変わらず大量生産・大量消費を続けています。安く売るために安く大量に作り、誰も着ない・食べないモノを作り出し、どんどん捨てていく。本当は顧客が見えているのだから、そこに向かって生産し、ロス率の少ないビジネスができるはずなのです。今では各種データが取れているのに、サブスクリプションに活かされてないのです。

両者に共通して言いたいのは、「川上も川下も、もっとデータに向き合おうよ」と。小売は、もっと高単価な理性的商品を作っていく必要があるんじゃないかと考えています。着ない服や食べない食材のような無駄は減らした方がいい。日本の食の自給率は低いと言われますが、500円でお腹いっぱいになれる毎日がある。でも、その500円で生産者が見える国産の野菜を買うという選択もできるわけです。それにもかかわらず現在も在庫を抱えて、売り場を作り続けるディストリビューション型の小売業を続けている。これを変えていかなくてはいけないと感じています。

オイシックス・ラ・大地 執行役員 COCO 奥谷 孝司氏

PwC Japanグループ 流通セクター統括 PwC Japan合同会社 パートナー 小山 徹

小山 先日フランスに視察に行った時に感じたのですが、フランスでは日本ほどセールやディスカウントがないように見受けられました。それぞれの店のコアコンピタンスがクリアで、それに相当するプライシングがなされている。価値に対する正しいプライシングというのは、フランスの文化なのでしょうか?

奥谷 僕が良品計画のWorld MUJI企画に従事していた頃、ヨーロッパのメーカーやデザイナーに、「こんなにいいものをなぜ外に売らないのだ」と聞いたことがあるのですが、彼らはそんな気が全くないんですよ。クオリティを落としたくないし、ヨーロッパでいっぱいいっぱいだと。当時は「この人たち、ビジョンがないな」と感じたものです(笑)。そのような気質は保守的とも言われていますが、今となってはまさに「バック・トゥ・ベーシック」で、それでいいのかもと思います。

データが見られる今は、かつてに比べて「お客様は目の前にいる」時代。地方の小売業などを見ていても、それを強く実感します。例えば、北海道のドラッグストアチェーンの企業は全国展開もできるはずだけれども、それよりも地場のお客様にどう愛されるかに真摯に取り組んでいます。地域循環型のロイヤリティープログラムを各所に波及させ、地元のお客様に愛される地域のリーダーとしての立場を確立している。北海道はインバウンド消費も大きいので、「WeChatPay」の採用なども積極的に進めています。内に向かって、いい意味で「閉じて」いる。お客様を知れば知るほど、目の前のお客様に注力する流れはあるかもしれません。

小山 「自分たちは何者か」「この商品は何の価値があるのか」などの視点から、潜在的なニーズにいかにリーチするかを考えることは重要ですよね。自分たちに今あるものを、まだ届いてない人に届けた時、本当に価値があればお客様は集まる。そのための手段として、デジタルをどう使うか。中長期的なビジョンがないまま、目の前の利便性を高めるためだけでデジタル化を推進することは、目的と手段をはき違えていて本末転倒のように感じます。

優れた顧客体験の提供は全てのチャネルで必須

小山 最近、オムニチャネル戦略からOMO(※1)へのシフトが盛んに言われており、奥谷さんの著書『世界最先端のマーケティング』(※2)においても、ネットとリアルの融合の最前線を分析し、これからの戦い方を説いています。リアルとネットの戦略は統合というよりも融合させるべきものだと僕は考えているのですが、奥谷さんからご覧になって、今後、この二つが担う役割はどう変わると捉えていらっしゃいますか?

奥谷 自分の学術的なテーマでもあるのですが、マーケティングの「4P」において、「Place」が今一度、非常に重要になっていると考えています。これまではいいモノを作って、適正な価格で、しかもマーケティングという名の販促も含めて投下すれば、小売が売ってくれるという時代でした。しかし、今は顧客にとってはオムニチャネルの時代だから、店舗で買うこともできればネットで買うこともできる。スマートフォンのアプリで購買も予約もできる。選択肢は複数あるけれども、顧客にとって全部フラットな存在なのだと思います。オフラインの小売業の人は、いまだにリアルな売り場作りに注力したがるけれども、実はお客様にとって、「Place」はフィジカルでタンジブルなものでなくてもいいわけです。もっとそこに危機を感じなくてはいけないと思います。ネット企業があえてリアル店舗を設けてメディア化する流れも戦略としてはありでしょう。オフライン中心の小売業は、これまで以上にホリスティックな顧客体験を提供していくことが大事で、そのカスタマージャーニーの中に店舗やネットも含まれている。例えて言うなら、各チャネルに先発完投型の役割を担わせ、店舗でもネットでも売り上げを上げるという時代ではない。先発・中継ぎ・抑えのようなもので、各チャネルが融合し、助けあうべきではないでしょうか。さらに、必ずしも最終目的は店舗での買い物ではない可能性もあり、モノを積んで、モノを取りにきて、レジを通過するだけの売り場を作っているようでは、早々に立ち行かなくなるでしょうね。もはや店舗に行く前にネットで情報収集をしたり、店舗で実物を見てネットで購入するなど、一つのモノを買うのに複数のチャネルを使うのは、当たり前。メディアが混然一体となった中で、お客様は顧客体験や買い物の価値を感じていくわけです。そこに気づくべきなのではないでしょうか。

小山 そして、いずれのメディアも顧客とのタッチポイントとして優れた場であるべきですよね。

奥谷 もちろん。店舗でもECでもモバイルでも優れた体験ができる場を作る必要があります。ダグ・スティーブンス(※3)も言っていますが、顧客は別にデジタル体験をしたいわけじゃなくて、たまたまそういう便利なものができたから使っているだけ。小売業がこれまで進めてきたような自己都合での顧客の囲い込みも成立しにくいでしょうね。極端に言えば、僕は買い物行為そのものが楽しいのかもよくわからなくなる時があります。

小山 僕の知り合いにも「モノは満たされているし、店舗に行く必要性を感じない」と話す人もいます。

奥谷 そうですよね。そうやってどんどん皆さん「コト消費」に移行している。買うモノが決まっているのであれば、棚からモノを取ってレジを通っていくプロセスそのものが無駄で、ますます意味をなさなくなる。でも、全員が全員、何が欲しいか明確な、合理的かつ功利的な消費者なわけではない。当然セレンディピティや新たな発見を求めて店舗に足を運ぶ人もいれば、店員に製品を勧められたい人もいる。その時小売が提供するべきなのが、優れた顧客体験だと思います。それもかつてのように店員が一方的に顧客にかかわっていくのでなく、話しかけられたくない人には話しかけないことも求められる。接客するスタッフをお客様が指名するスタイルもあるでしょう。接客だってお客様が選ぶ時代なのです。もしかしたら選べないものは任せる時代になのかもしれない。だから、優れた体験を全てのチャネルで作っておかないといけないのではないかと思います。

(後編に続く)

オイシックス・ラ・大地 執行役員 COCO 奥谷 孝司氏

※1 OMO(=Online Merges with Offline)
オンラインとオフラインの融合。顧客体験の向上を主軸に、オンライン/オフラインにこだわらず、適切なチャネルを適切なタイミングで使う考え方。

※2 『世界最先端のマーケティング 顧客とつながる企業のチャネルシフト戦略』
(日経BP社/著者:奥谷孝司・岩井琢磨)

※3 ダグ・スティーブンス
小売コンサルタント。著書に『小売再生 リアル店舗はメディアになる』(プレジデント社/訳:斎藤栄一郎)。

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