提供:PwCコンサルティング

PwCコンサルティングが
「メタバースのビジネス利用調査」を発表

メタバース時代に向け
「日本企業とるべき
アクション」とは?

2022年は“メタバース元年”とも言われるほど、メタバースをめぐる環境が激変している。関連技術の発達やインフラの整備が急速に進み、ゲーム・エンターテインメントからビジネスでの利用へと適用領域も広がりつつある。そこで、メタバースのビジネス利用の実態や課題を探るため、PwCコンサルティングが1000社を超える日本企業を対象に大規模調査を実施、その結果を発表した。調査結果からどのような示唆が得られたのだろうか。調査を主導したPwCコンサルティング長嶋孝之氏、丸山智浩氏に聞いた。

1000社超の日本企業を対象にメタバースの活用実態を調査

 インターネット上に構築された3次元の仮想空間を舞台に最新テクノロジーを駆使しながらさまざまなサービスを提供できるメタバースは、これまで主にゲーム・エンターテインメントの領域で発展を遂げてきた。それがここ1~2年、現実空間の課題や要請に対する解決策として、ビジネス利用を模索する動きが広がっている。とりわけ2021年10月に米Facebook(フェイスブック)が「Meta Platforms(メタ・プラットフォームズ)」へと社名変更したこともきっかけとなり、多くの企業がメタバースへ一斉に目を向けるようになった。

 メタバースがここまで注目されるようになった背景には、新型コロナウイルス禍による生活様式の変化、通信技術や仮想空間設計技術の向上などさまざまな理由が考えられる。また、NFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)のように唯一性の証明にもとづきデジタルデータの所有を表す概念を支える技術が進展し、デジタル世界に現実世界の概念を適用し、よりリアルな世界観を構築する手段が発展したことも一因だろう。いずれにせよ世界中の企業がメタバースビジネスに強い興味を示し、続々と参入を果たしているのが現在の潮流だ。

 こうした流れのなか、日本企業はメタバースをどのように捉え、どんなビジネス利用を考えているのだろうか。そうした実態や課題を探るために、PwCコンサルティングは22年3月、1000社を超える日本企業を対象に大規模調査を実施、その結果をまとめたリポートを発表した。

9割の企業がビジネスチャンスと捉える

写真:長嶋 孝之 氏

長嶋 孝之

PwCコンサルティング合同会社
ディレクター

 PwCコンサルティングがまとめた調査結果によると、メタバースを認知している企業は全体の47%だという。また10%の企業は「自社のビジネスへの活用に関心がある」と回答している。

 「調査結果からメタバースはいまだ黎明期にあると推察されます。メタバースから想起するワードは『没入感』のような感覚・概念的なものから、『3Dコンピューティング』といったテクノロジーを示すものまで広範囲にわたり、明確なイメージが確立されていないことも明らかです。実際にメタバース関連のサービスも『仮想現実(VR)』『拡張現実(AR)』『デジタルツイン』『NFT』など幅広いワードとともに語られています」(PwCコンサルティング ディレクター 長嶋孝之氏)

 とはいえ、メタバースを認知し、なおかつビジネス活用に興味を持つ企業は、メタバース活用への期待が高い。調査結果ではメタバースに興味がある企業の実に約9割がメタバースをビジネスチャンスと捉えている。とくに多いのは「新規ビジネスの創出」に期待する企業だが、「営業力の強化」「顧客サービスの向上」「商品・サービスの差別化」などへの活用も見込んでいる。

 「どのビジネス領域でメタバースを活用したいかを聞いたところ、マーケティング・販売・営業など“体験”を重視する顧客接点領域での活用に期待が集まっていることがわかりました。顧客接点領域では、メタバースによって変化する顧客ニーズを捉え、既存のWebアプリやリアルのサービスも含めて総合的な顧客体験を提供できるように設計することが重要になります。また顧客接点領域以外でも、バリューチェーン全体でメタバースの活用を検討することなどで、自社のビジネスを優位に進める可能性が見いだせます」(長嶋氏)

図1:メタバースの認知状況

図2:メタバースのビジネスチャンス

図3:メタバースを活用したい領域

小さく始めて、効果を見ながら拡大する

 さまざまなビジネスでの活用方法が考えられるメタバースだが、実際の進捗はどのような状況にあるのだろうか。調査結果では「具体的な案件を推進中」「予算化済み」「検討中」の企業は合わせて38%であり、決して進んでいるとは言えない状況だ。ただし、これらの企業のうち、1年以内にメタバースを活用したビジネスを実行する予定の企業は49%に上っている。

 「この結果から、1年以内にメタバースのビジネス活用を実行している企業が爆発的に増える可能性はあると考えます。しかし、こうした先行企業が出始めている一方で、どのように活用していけばよいのかわからないという企業も少なくありません。なかでも『導入する目的の明確化』『人材の育成』『費用対効果の説明』などが課題になっている企業が多いようです」(長嶋氏)

 今回の調査によって日本企業におけるメタバースのビジネス利用の実態や課題が明らかにされたわけだが、長嶋氏は今後のビジネス利用の進め方を次のように説明する。

 「まずはメタバースを体験し、メタバースがもたらし得る変化や提供可能な価値、リスクを手触り感を持って理解することが重要と考えます。そのうえでメタバースの活用施策を洗い出し、施策に優先度をつけて絞り込み、大枠の取り組みロードマップを作成します。新しい概念であるメタバースにはまだ成功事例が少ないので、小さく始めて効果を見ながら拡大していく、状況に応じて他の施策にピボットするというアプローチが望ましいと考えます」(長嶋氏)

図4:メタバース活用ビジネスの進捗

図5:メタバース活用ビジネスの実行時期

早期に着手したいNFTのビジネス活用

写真:丸山 智浩 氏

丸山 智浩

PwCコンサルティング合同会社
シニアマネージャー

 PwCコンサルティングの調査では、メタバースをけん引する重要な先端技術の一つとして「NFT」についての質問が含まれている。調査結果によるとNFTの認知率は26%、自社ビジネスでの活用に関心を持っている企業は10%だった。

 「政府がいわゆる骨太の方針の国家成長戦略にWeb3.0を取り入れたことと比較すると、市場のNFTへの理解・関心の広がりはまだ途上段階ですが、NFTを自社ビジネスにとってのチャンスであると捉えている企業は82%に上りました。ただし『NFTがよくわからない』といった意見も多く、NFTの定義や自社ビジネスへ与える影響と社会受容性の向上が必要であると感じています。一方でNFTのビジネス活用を推進している企業はすでに3割を超え、その半数以上が実現時期を1年以内の目標にしています。事業化を検討中で未着手であれば、競合他社に先んじるためにも早期に事業着手することが望ましいでしょう」(PwCコンサルティング シニアマネージャー 丸山智浩氏)

 NFT案件を進行中もしくは予算化済みと回答した企業の76%では、すでにメタバース案件も進行中である。丸山氏は「デジタル資産という考え方がリアリティーを持つメタバース世界の構築と合わせ、NFTビジネスを展開しようとしている企業が多い」と分析する。

 「ブロックチェーン技術をベースにしたNFTは、既存テクノロジーでは難しかった課題を解決し、新しいビジネスを創出し得るという価値があります。ただし、NFTによる社会課題解決にはデジタルコンテンツ市場の新たな形成が必須であり、例えば『デジタルアセット銀行構想』のような、NFTの既存課題を克服し、新しい市場形成を推進する必要があるとも考えています」(丸山氏)

図6:NFTの認知状況

図7:NFT活用ビジネスの進捗

図8:NFT活用ビジネスの実行時期

日本企業がとるべき「5つのアクション」

 PwCコンサルティングは今回の調査結果を受け、いま日本企業がとるべき5つのアクションを提言としてまとめている。

① 今すぐ小さく始める
 黎明期にあるメタバースやNFTが今後どのように成長していくのか、その未来シナリオを正確に予測することは難しい。こうした不確定要素が多い状況下では、リーンスタートアップ的アプローチで、トライ&エラーを繰り返しながら、競合よりも早く知見を蓄積していく必要がある。
② 経営者自ら体験する
 新しい概念を理解する最も効果的な方法は体験すること。とくに経営者が自ら体験して、利用者のニーズや、メタバースやNFTの可能性を肌で感じることが、有望な事業領域を識別する上で有益である。
③ 俯瞰(ふかん)的に検討する
 バリューチェーン下流にあたる顧客接点領域だけでなく、企画・調達・製造などバリューチェーン上流での利用シナリオ、バリューチェーンそのものの変革の可能性にも目を向けることで、投資対効果を高められる可能性がある。
④ 創造的に破壊する
 メタバースやNFTがもたらす事業脅威に備える必要がある。メタバースやNFTによって既存事業の提供価値が代替される、あるいは消失する可能性があるのであれば、業界内外から迫り来る競合よりも先に、自らの手で既存事業を破壊し、新たな事業へシフトする方法を模索する必要がある。
⑤ 共に創る
 メタバースやNFTのすぐ先の未来には、Web 3.0のような世界観が語られ始めている。巨大プラットフォーマーがイノベーションをけん引して利益を独占するような構造から、利用者・行政・研究機関・業界内外の他企業・投資家・ボランティアなどを巻きこんだオープンイノベーションモデルへの移行が起きる可能性を考慮して、「共創」アプローチを検討する必要がある。

 メタバースへの取り組みや事業化の遅れは、自社ビジネスへ大きな影響を及ぼすことも考えられる。ビジネスチャンスになるはずのメタバースが、他社の先行を許したために脅威になるおそれもあるのだ。

 いま求められているのは、メタバースをビジネスに活用するためのアクションを起こすことだ。企業がメタバースをビジネスに活用する時代は、すぐそこまで来ている。

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