インドでのGoods and Services Taxの導入を巡る最近の動向について

2016-10-28

インドでは物品税、サービス税、中央売上税、付加価値税、入域税、輸入基本関税、輸入相殺関税およびアルコール税などといった複数の間接税が定められ、なかには仕入税額控除が認められないものもあり、企業にとって控除不能な間接税がコスト増加を招いている。2008年においてシン旧政権は間接税のうち物品税などの主要なものを統合し簡素とするGoods and Services Tax(以下、「GST」)構想を公表したが、結局、法制化されなかった。その後、現政権であるモディ政権はこの構想を引継ぎ、導入の努力をすると表明している。通常、政権が交代すると前政権の租税政策は見直されることが多いにもかかわらず、この構想の引継ぎはGST導入に対する国内外の期待の高さを表していると推測される。そして、2016年6月14日にGST法案のベースとなるモデル法案が公表された。本稿では、GST法制化手続き、GSTモデル法案の概要および日系企業における今後の対応を解説する。

1.GST法制化に必要なインド国内の手続き

GST法制化のためにはインド憲法の改正およびGST法案の可決といった2つの法的手続きが必要となる。
インドでは、租税法律主義に従い、国家または地方自治体は憲法で定められた税金のみ国民から徴収することが認められるため、まずは現憲法にGSTという文言を加える改正が必要となる。2015年5月に憲法改正案が国会の下院で承認され、2016年7月開催の国会において上院でも承認されることが期待されている。
憲法改正後は、GST法案可決の手続へ移行する。GST法案のうち国税に関する部分については国会の承認および大統領の認証、地方税に関する部分については各州議会の承認が必要となる。憲法改正前ではあるが、2016年6月14日に中央政府と各州政府の代表から構成された委員会によって作成されたGSTモデル法案が公表された。

2.GSTモデル法案の概要

GSTモデル法案の概要は以下のとおりである。特筆すべき点は、一定の要件を充足することで、支払ったGST(以下、「仮払GST」)を預かったGST(以下、「仮受GST」)から控除(以下、「仕入税額控除」)が可能となる。また、自社における仕入税額控除要件の1つとして、仕入先のコンプライアンス遵守が要求されている。さらに、ある課税期間において仮受GSTから控除しきれない仮払GST(以下、「控除限度超過GST」)は、将来発生する仮受GSTから控除することとなっているが、例外として、売上(輸出含む)および仕入の各GST税率が異なることに起因し発生した控除限度超過GSTは還付が認められる。

項目

GSTモデル法案上の取り扱い

納税義務者

事業を営んでいる者でGSTの課税事業者登録をしていること

免税事業者

州内の取引のみ行う事業者で、1事業年度における売上が100万ルピー以下の者(北東部に位置する一定の州に所在する事業者の場合には50万ルピー)

課税事業者登録

事業拠点のある各州
ただし、1事業年度における売上が90万ルピー以下の場合には登録不要(北東部にある一定の州に所在する事業者の場合には40万ルピー)

リバースチャージ制度の有無

有り(対象取引は不明)

源泉徴収義務者
(料率)

以下の者に対して源泉徴収義務を課す
1. eコマースの運営事業者(料率は不明)
2. 1回当たり100万ルピーを超える支払をする一定の者(料率1%)

申告書の種類
(提出期限)

売上明細申告書(提出期限は不明)

仕入明細申告書(提出期限は不明)

月次申告書(翌月20日まで)

年次申告書(当年12月31日まで)

仮払GSTの配賦申告書(翌月10日まで)

源泉税申告書(源泉徴収した月の翌月10日まで)

納付期限

翌月20日まで

GSTの税目

Central GST、State GST、Integrated GSTの3つ
(同一州内の取引に対してはCentral GSTおよびState GSTが、州を跨ぐ取引に対してはIntegrated GSTがそれぞれ課される)

GSTの税率

不明

課税対象取引

資産の移動(同一法人間の資産移転含む)および役務の提供

非課税取引

有り(対象取引は不明)

輸出免税取引

1.資産取引
資産をインド国内から国外へ移動させる取引
2.役務提供
以下の要件を全て充足する取引
(1)役務提供の提供者がインド国内に所在すること
(2)役務提供の受益者がインド国外に所在すること
(3)役務提供先がインド国外であること
(4)役務提供対価が外貨建であること
(5)役務提供者および役務受益者が同一の者ではないこと

資産の移動および
役務提供の時期

1.資産の移動の場合
下記の日のうちいずれか早い日
(1)移動元が移動先に資産を移動した日
(移動の必要のない資産の場合には移動先が資産を使用できる日)
(2)移動元が請求書を発行した日
(3)移動元が対価を受領した日
(4)移動先が帳簿上資産の引き取りを記録した日
2.役務提供の場合
(1)請求書が所定の期限までに発行される場合には、請求書の発行日または対価の受領日のいずれか早い日
(2)請求書が所定の期限までに発行されない場合には、役務提供の完了日または対価の受領日のいずれか早い日
(3)上記に該当しない場合には、役務提供の受益者が帳簿上役務提供を受けたことを記録した日

課税標準

原則として取引対価が課税標準
ただし、関係会社間取引など一定の取引に該当する場合には規定に基づく評価を行う

簡易課税制度

州内の取引のみ行う事業者で1事業年度における売上が500万ルピー以下の者
なお、適用するみなし売上率は税務当局との交渉が必要

仮払GSTの税額控除

原則として、仮払GSTは、仮受GSTから税額控除が可能
ただし、仮払State GSTは同一州の仮受State GSTのみから税額控除が可能

仕入税額控除の要件

1.帳簿および領収書などの関係書類の保存
2.仕入先によるコンプライアンスの遵守
3.その他一定の要件

控除限度超過GSTの
取り扱い

繰越して将来の仮受GSTから控除するのが原則
還付は売上(輸出含む)と仕入の各々のGST税率が異なることに起因している場合に限定

更正期間

1.仮装隠蔽などがない場合は、年次申告書の申告期限から3年
2.仮装隠蔽などがある場合は、年次申告書の申告期限から5年

既存の間接税からGSTへの移行に係る経過措置

既存の間接税の申告書にて繰越した控除限度超過間接税はGSTへ移行後も税額控除の対象とすることが可能

3.GSTモデル法案から想定される日系企業の今後の対応

現在、インドにおける日系企業にとって、仕入税額控除が不能な間接税は企業のコストとなっている。仮にGSTが導入された場合には、仕入税額控除が可能となることで、この間接税コストの全部あるいは一部が減少する可能性がある。一方、所有権の移転を伴わない事業所間の資産移動を新たにGST課税の対象とするといった改正の可能性もあるため、必ずしもGST法制化によって間接税が減少するわけではない。従って、間接税の有利不利を判定するためには、個別にシミュレーションを実施する必要がある。また、仕入先のコンプライアンス遵守が自社におけるGSTの仕入税額控除要件の1つであるため、遵守していない場合には仕入先へどのように対応するか、または仕入先を見直すといった検討が必要となる可能性がある。