経営陣にとっての契約遵守 契約コンプライアンスの重要性

2014-08-27

はじめに

企業が技術革新、成長、価格、収益性、迅速な市場獲得、品質およびグローバル戦略において競争上の優位性を得るために、ほかの企業と戦略的提携や連携をすることは現在の市場において一般的で、時に不可欠です。そういった提携、連携を最初の段階からより効果的なものにするためには、さまざまな戦略的な動機に応じて、提携するビジネスパートナーと種々の契約を締結する必要があります。

業績の改善とコーポレートガバナンスの向上

多くの契約は、取引相手が契約書の内容を遵守しているかどうかを検査・分析すれば、短期的、あるいは瞬時に財務的な結果を出すことができます。こういった検査や分析は多くの場合、一般的な契約書に含まれている監査権限についての条項に基づいて行なわれます。

財務的な結果とは、ライセンス契約や収益分配契約の場合は収益の回収、販売や流通に関する契約、アウトソーシング、また調達に関連する契約の場合はコスト削減といった結果のことです。これらの結果は、収益性の改善など企業の業績に直接影響を与えます。つまり、契約コンプライアンスに対する取り組みは、ROI(投資収益性)やキャッシュフローの改善に寄与し、経営陣が将来に向けた経営判断をする上で重要な戦略となります。

株主をはじめとする各利害関係者の利益を重要視する日本のコーポレートガバナンスにおいて、経営陣は、契約コンプライアンスに真摯に取り組むことが、株主などの利害関係者の期待に応え、また戦略的な優位性を獲得するために重要であると確信しています。

収益の回収・コスト削減につながる可能性のある契約

下記のタイプの契約には、しばしば財務的リスクをはらむ条項を含んでいるため注意を払う必要があります。

  • 知的財産ライセンス
  • フランチャイズ
  • 収益分配
  • ジョイントベンチャー
  • 共同開発
  • 調達/供給
  • 流通販売
  • 建設
  • 広告・宣伝
  • アウトソーシングサービス
  • 政府間契約

なぜ契約相手は契約上の義務を遵守しないのか

契約上の義務を遵守しない理由はさまざまです。下記の例は、なぜ、どのようにして契約に内在するリスクを予期、発見すべきなのかを教えてくれます。

自己申告契約: 先に述べた例のような契約は、一般的に自己申告制であり、ビジネスパートナーの自己監視に委ねるものです。このような契約は、通常、ビジネスパートナーが契約を遵守しているかどうかが分かる詳細な情報がほとんど見えないようになっています。その結果、契約の交渉に相当な時間と人員を費やしたにもかかわらず、期待される利益が得られないこともあります。

モニタリングの欠如: 契約履行の後、必要がなければその契約が見直されることはほとんどなく、数年後の契約更新の際、もしくは同じビジネスパートナーと別の契約について交渉する必要がある際に確認されるのみとなってしまいます。

人員不足と統制の不備: 単純ではあるが看過されやすい現実として、ビジネスパートナーは最終的には自社の収益性や経営指標に注力し、契約時に交わした約束や期待があったとしても、契約内容を遵守するということに重点を置かない、ということがあります。その結果、契約遵守に関する内部統制は脆弱で適切でないことが多く、報告書の網羅性や正確性を担保できないものとなっています。

多くの契約において、適切な報告をするためには組織内のさまざまな部署(法務、財務/会計、製品開発、技術、販売、マーケティングほか)の連携を必要とします。この連携が多くの場合に不足しています。ビジネスパートナーによるロイヤリティ監査の(開始)通知を受けて初めて、過去のレポートがどの程度正確に報告されているかの確認や監査準備のためにほかの部署と連絡を取る、ということも珍しくはありません。また、こういった契約遵守に関係する作業が職位の低い一般社員に任されることも多く、一般的に離職率も高いことから、報告書作成時に計算ミスや報告ミスがあるのはごく自然なことです。

契約の解釈: 意図的に行われたかどうかにかかわらず、契約を自社の都合のよいように解釈して、契約義務を正しく遂行しない場合もあります。契約相手が勝手な解釈をしてしまうことにより、当事者たちが予想していたような結果が得られないこともあります。また、契約書に記載されている難解な文章や曖昧な表現、企業風土の違い、言語の壁により、純粋に間違った解釈をしてしまう場合もあります。第三者である監査人が監査することにより、さまざまなシナリオに基づく潜在的な過少もしくは過大報告が計算され、当事者同士が話し合いをするきっかけになるかもしれません。

経営陣の関与の重要性: 経営陣が契約遵守に関する制度(コンプライアンスプログラム)を直接指揮している場合、またはその制度を統括している部署や従業員が、経営陣によってしっかりとサポートを受けている場合、コンプライアンスプログラムは最もよく機能することが証明されています。経営陣がコンプライアンスプログラムを重要視し、責任を持って監督していることで、契約相手もまた、その会社における契約およびその遵守についての重要性を理解します。また、透明性の向上や信頼関係を構築し、監査結果に対する話し合いや契約の再交渉を効率的に進める上でも、経営陣の契約や契約上のコンプライアンス監査結果に対する知見や、経営陣が直接契約相手と定期的に話し合いを持つことは非常に重要でしょう。

契約の本来の価値を見い出す

多くの場合、企業は自分たちの契約の持っている隠れた価値に気づいていません。気づかないまま終わる場合もあるし、パートナーシップ自体にとって何か重大な問題が起きて初めて認識される場合もあります。ほんの少しの努力で、契約に隠れた財務上の価値を見つけることができるかもしれません。

体系的なリスク評価によって、ビジネスパートナーのコンプライアンスリスクの特定や優先順位をつけることができる

体系的にリスク評価を実施することにより、契約相手のリスク評価が可能になります。ビジネスパートナーのリスクは以下に挙げる事柄に基づいて階層化できます-業界、ビジネスパートナー固有の事情、契約固有の事情、業界の経済傾向などの関係性指標、法律および規制問題、競争環境、組織規模および複雑性、事業の多様性、地理的な分散性、会社の沿革、これまでの報告の状況(報告書の正確性、期限を守っているか、修正報告書があったか)など。このリスク評価の結果を基に、契約コンプライアンスの取り組みに重点を置いた戦略を前進させ、どのビジネスパートナーに対しての契約について監査を行うかといった優先順位をつけることができます。

契約遵守についての監査(契約コンプライアンス監査)をグローバルで行うことにより、収益増加とコスト削減がもたらされる

ビジネスパートナーが世界のどこで事業を行っていようと、契約上のコンプライアンス監査をできるようにする必要があります。企業が自社のビジネスパートナーとの間にある言語、文化およびビジネス慣習の壁を取り払うことができれば、収益回収やコスト削減が可能となるでしょう。PwCが近年世界中で行ってきた2,000近くの調査の中で、企業が有意義な洞察と戦略的な優位性を獲得した多くの事例を見てきました。PwCによるあらかじめ高リスクの対象を特定するフォレンジックアプローチによって、費用対効果の高い方法で、高リスクな契約相手のリスクをゼロに近づけることが可能である、ということが言えるでしょう。

包括的なコンプライアンスプログラムを導入、推進させることによって、ビジネスパートナーのコンプライアンスリスクをモニタリングし、管理することが可能になる

契約上のコンプライアンスに対する私たちのアプローチは、外部の契約コンプライアンス監査の実施と、先に述べた体系的なリスク評価を含む効果的な内部の契約コンプライアンス戦略およびプログラムの導入により総合的に行なわれます。

内部の契約コンプライアンスプログラムに使用される手続きや管理方法、ポリシーは、外部の契約コンプライアンス監査と同様に重要です。模範的な内部の契約コンプライアンスプログラムにおいては、一般的に以下の項目を含んだ手続きや管理方法が確立しています。

 

  • コンプライアンス、法務、調達、財務、会計、営業およびマーケティング担当者など、契約に関連する担当者間の内部のコミュニケーションを効果的に管理している。
  • ビジネスパートナー間におけるコミュニケーション窓口を明確にしている。
    契約に関連する文書や資料を効果的に整理し保存している。
  • マーケット情報、ビジネスパートナーの報告および関連事項についてデータ分析を行っている。

内部の契約コンプライアンスプログラムと外部の契約コンプライアンス監査は、統合的なシステムとして設計されるべきであり、全体的なコンプライアンスプログラムの効果を高めるための価値あるフィードバックや情報を提供すべきです。これは、契約書の曖昧な表現や、財務的リスクを引き起こすような解釈を可能にする契約書の文言を改善することを含んでいます。

PwCの経験上、契約上のコンプライアンス監査の約90%において、金額的影響のある発見がされており、これらの発見事項は契約上のコンプライアンス監査費用に対し、平均してほぼ10倍のROIをもたらしています。また、契約上のコンプライアンス監査の結果により、将来にわたってクライアントのコスト削減にも寄与するのです。

主要メンバー

平尾 明子

ディレクター, PwCリスクアドバイザリー合同会社

Email