
新たな境地を迎えた 新興国における贈収賄規制
企業の新興市場における新規ビジネス開拓の増加により、新世代のグローバル贈収賄防止コンプライアンス体制構築の必要性が高まってきています。贈収賄防止をめぐる国際開発金融機関(MDB)の制裁制度や日本企業が取るべき対応などについて解説しています。
2014-07-29
近年、日本企業の価格カルテルやFCPA(米国海外腐敗行為防止法)違反の摘発が後を絶ちません。これは海外規制当局が外国企業による価格カルテルやFCPA違反などの違反行為の摘発に対して、集中してリソースを投入していることが大きく影響していると考えられます。特に米国の司法省(Department of Justice)は外国企業に対しての取り締まりを強化することを明言しており、その下部組織であるFBI(連邦捜査局)をも投入して外国企業のカルテル行為の摘発に取り組んでいます。制裁金の額も日本と比較すると米国では桁違いに大きく、近年の自動車部品をめぐる独占禁止法違反事件では、26社が有罪を認め、合計2,000億円以上の罰金が科されています。
独禁法においては、米国でも日本でもリニエンシーという制度が整備されており、当局に最初に事実関係を報告した上位数社の企業については刑事告発または罰金が免除されるなどの措置がとられます。それ故に、このような国内外の規制当局による捜査に対しては全面的に協力姿勢を示し、必要な調査を行うことで証拠資料を迅速に開示することが非常に重要となります。その際に必要とされるのが、デジタルフォレンジックスおよびeディスカバリー(注1)の技術を使った調査になります。
米国司法省の管轄権外に本社を置く日本企業に対しては強制捜査ができないことから、日本企業はあくまで自主的に捜査協力を行うというスタンスで臨むものの、証拠となる電子データの取り扱いについては米国の刑事手続きに沿った内容で細心の注意を払いながら行う必要があります。その電子データの意図しない改変を防ぎつつ、証拠として収集するために必要となるのがコンピュータフォレンジックスの技術になります。しかし、正しい手続きで電子データの収集を行ったとしても、電子データ収集対象の従業員が会社または個人にとって「都合の悪い」メールやドキュメントを隠ぺいもしくは削除し、それが発覚した場合には司法妨害(Obstruction of Justice)として20年以下の懲役も含む重い刑事罰が科される可能性があります。それらのデータの消去や改変について調査を行う際にも、コンピュータフォレンジックスの技術が使われます。
特に独禁法関連の捜査の場合、リニエンシー制度の影響で、調査対象となった各社は一斉に証拠を当局に提出してくることが予想され、その証拠の中に自社から送られたメールも含まれている可能性があります。したがって、メールの送信者がデータを消去していたとしても、受信側である他社から証拠として提出されている場合があります。その場合、削除したメールが「訴訟ホールド(注2)」が実施される以前に明確な文書管理規定に従って処分されているデータではない限り、送信者側で何らかの証拠隠滅行為があったと疑われるリスクが高まります。したがって、日本企業の法務やコンプライアンス部門は、海外の係争または規制当局による捜査の対象となった際には従業員に対して訴訟ホールドの通知からフォローアップまでを迅速かつ適切に行い、証拠の削除または隠ぺいが起こらないように保全の義務を果たすことが非常に重要となります。また、有事の際には、弁護士事務所に加えて早い段階から専門家としてPwCのような第三者を参加させるケースも増加の傾向にあります。その背景としては、社内リソースのみで有事対応する場合と比較すると、専門家を含む社外リソースを積極的に利用することでeディスカバリー手続き全体を効率的に進めることができ、意図しないデータの消去などの事故が発生するリスクを回避することが可能となるからです。
調査段階では、一般的に収集したデータの中からメールデータを中心に弁護士がレビューを行い、特定された証拠書類を当局に提出します。しかしながらスピードと精度が同時に要求され、調査対象となるデータ量が膨大な規制当局による調査においては、レビューの対象となるデータをあらゆる角度から分析し、対象のデータを合理的な範囲で限りなく絞り込む必要があります。レビューの対象となるデータが極端に多い場合には、一部のドキュメント・レビュー・ツールに組み込まれているコンピューターの学習機能を応用したTechnology Assisted Review(TAR)という最新技術を使って、人間によるレビュー対象のドキュメント数を限りなく絞り込むこともできます。これらの作業は経験のあるeディスカバリーの専門チームによって通常行われます。また、特に専門性が高い金融などの分野については、弁護士以外の専門家、具体的には会計事務所やビジネスインテリジェンスサービスを提供しているコンサルティングファームなどが書類のレビューを実施する場合も少なくありません。
膨大なリソースと多岐にわたる専門知識が必要とされる案件には、弁護士事務所に加えて積極的に専門分野のエキスパートを起用することで、効率的な問題解決につなげることができると考えられます。
フォレンジックサービスではこれまで培ってきた経験と知識を集約した、画期的なeディスカバリーサービスを近日日本国内で開始します。詳細は2014年7月29日のプレスリリースをご確認ください。
(注1)eディスカバリーとは米国連邦民事訴訟規則(Federal Rules of Civil Procedure)において定められている、原告被告、双方が互いに要求された電子データの証拠を開示する手続き。連邦民事訴訟規則は2006年12月1日に一部改正され、電子データの証拠としての取り扱いに関する一貫性のある基本原則が盛り込まれた。
(注2)訴訟ホールドとは係争または当局による捜査が発生することが予想される場合、案件に関連する可能性のある全ての情報(データ、ドキュメントなど)が削除されないように保全することを指す。
企業の新興市場における新規ビジネス開拓の増加により、新世代のグローバル贈収賄防止コンプライアンス体制構築の必要性が高まってきています。贈収賄防止をめぐる国際開発金融機関(MDB)の制裁制度や日本企業が取るべき対応などについて解説しています。
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