カナダにおける採取企業の政府への支払いに関する開示(ESTMA)について

2015-09-25

目次

  1. ESTMAとは何か?
  2. 誰が開示するのか?
  3. 何を開示するのか?
  4. いつ開示するのか?
  5. その他の留意事項
  6. ESTMA適用に向けて

1. ESTMAとは何か?

ESTMAは、カナダにおける採取産業の資金の流れの透明性を高めることを目的として制定された法律で、2015年6月に本法の施行がカナダ政府より宣言され、2015年7月1日以後開始する事業年度から適用されることとなりました。ESTMAは上場の有無にかかわらず、石油、ガス、鉱物資源の商業開発を営んでいる事業体に対してカナダ国内外の政府機関への支払いの開示を求めており、その開示範囲は先住民グループへの支払いを含みます(先住民グループへの支払いの開示は2017年7月1日以後開始する事業年度から適用)。またESTMAに基づく開示が求められる事業体はカナダに本社を置く事業体に限定されません。外国法人であっても石油、ガス、鉱物資源の商業開発のための事業拠点、事業活動、もしくは関連する資産がカナダ国内にあり、かつESTMAが求める一定の開示要件を満たす事業体は本法に基づく開示が要求されることになります。
ちなみにカナダは資源国の資金の透明性を高め、健全な成長を図ることを目的としたEITI(Extractive Industries Transparency Initiative)の支援国であり(EITIについては2015年8月20日の「採掘事業における政府への支払いに関する開示について」コラム において取り扱っていますので参照ください)、ESTMAの施行はカナダのEITI支援国としての取り組みの一つであると言えます。

2. 誰が開示するのか?

ESTMAはカナダもしくはその他の地域において石油、ガス、鉱物資源の商業開発を営んでいるいかなる事業体(会社、信託、パートナーシップ、その他法人格のない団体を含む)、もしくはこれらを支配している事業体に対して、以下の要件を満たす場合に開示を求めています。

  • カナダにおいて上場している事業体、もしくは
  • その事業拠点、事業活動、もしくは関連する資産がカナダ国内にある事業体でかつ、その連結財務諸表において、直近2期の会計期間のうち少なくとも1期で下記の条件の2つ以上を満たしている事業体
    A. 総資産が20,000,000CAD以上
    B. 総売上が40,000,000CAD以上
    C. 平均従業員数が250名以上

3. 何を開示するのか?

ESTMAは以下の支払いについてその開示を求めています。

  • 石油、ガス、鉱物資源の商業開発に関連する年度支払額が100,000CADを超える支払い
  • カナダ国内政府および海外政府に対する支払い(先住民グループを含む)

開示対象は貨幣による支払いのみならず、物品などによる支払い(納付)を含みます。物品などによる支払い(納付)が行われた場合、その支払額は当該物品のコストに基づき測定し、コストが測定できない場合はマーケットバリューに基づき測定することが必要となります。なお、ここに言う支払額は企業の財務諸表に計上される発生主義に基づく金額ではなく、実際支払額に基づく金額開示が求められるため、場合によっては財務諸表計上金額からの調整が必要となる点について注意が必要です。
上記の支払いは以下の項目を含み(その他の項目が担当大臣の指示により追加される可能性あり)、これらの項目ごと、支払相手となる政府機関ごとに開示がされます。また事業体が複数のプロジェクトを有している場合はプロジェクトごとの開示が求められます。

  • 税金(消費税、個人所得税を除く)
  • ロイヤリティー
  • 手数料(賃貸料、入場料、規制料を含む)およびライセンス、許可証、利用権にかかわる料金またはその報酬
  • Production entitlements
  • ボーナス(契約(signature)、発見(discovery)、生産(production)ボーナスを含む)
  • 配当(普通株主としての地位に基づく配当を除く)
  • インフラ改善費用

また、上記の支払いにはESTMAにおける開示が求められる事業体が支配、もしくは支配していると考えられる事業体からの支払いを含みます。例えばカナダにおいて上場している会社Aの海外子会社Bが現地政府に石油、ガス、鉱物資源の商業開発に関連する支払いを行っている場合、その支払いも会社AのESTMAレポートに含めることが原則必要にとなるということです。この点についてESTMAは他国などにおいてESTMA以外の法令などに基づくレポートが作成される場合のレポートの代替可能性を考慮しており、代替可能であると判断された場合の手順を示しています。
なお、ESTMAにおける開示が求められる事業体の100%完全子会社で、その子会社もまたESTMAに基づく開示が求められる事業体に該当する場合、その子会社単独でレポートを作成するのではなく、その会社を支配している事業体のレポートに含めて報告することも認められています。

4. いつ開示するのか?

ESTMAレポートはその事業体の事業年度末日から150日を越えない日までに提出することが必要です。従ってESTMAが最も早いタイミングで適用になる6月末を事業年度末とする事業体についてはESTMAレポートを2016年11月27日までに提出することが必要となります。

5. その他の留意事項

報告様式について

本法はESTMAレポートの雛形を含んでいません。ESTMAレポートの雛形はカナダ天然資源省(Natural Resource Canada)および業界団体から2015年中に公表されることが期待されています。

証明業務について

ESTMAレポートにはその情報の適切性(True)、正確性(Accurate)および完全性(Complete)に関する事業体の責任者(Director、Officer)、もしくは独立の監査人、会計士による証明を付すことが必要です。また本法への準拠性を確認することを目的として大臣が事業体に対して特定の情報や文書の提出を求めることがあり、その中にはESTMAに対する特定の一般に公正妥当と認められた監査基準に従って独立の監査人により行われた監査の結果が含まれることがあります。

ペナルティについて

本法の遵守がなされなかった場合、一日(違反日数)当たり250,000CADを上限とした罰金が違反案件ごとに課されるとしています。

6. ESTMA適用に向けて

ESTMAによって求められる報告内容の理解、要求される報告水準を担保する内部統制の構築、適切な開示を行うためには早期の準備が不可欠です。

  • 報告が求められる支払い範囲、対象の特定のための調査
  • 組織内部の政府に対する支払情報を適切に集計、把握するためのプロセス構築
  • 既存システムを最大限用いたESTMAレポート作成プロセスの構築
  • 組織内部のデータをESTMAで求められる報告単位ごとに数量化するプロセス構築
  • 情報の適切性、正確性および完全性を担保するに足る責任者による十分な検証プロセス構築

私たちPwCはESTMA適用に伴う初期の影響調査から実行段階、報告段階まで、ESTMAが求める信頼性に足る適切な報告を企業が適切に行うためのサポートを行います。

並木 俊朗

PwC Canada
シニアマネージャー 並木 俊朗

2004年より国内上場企業、外資系国内企業などの日本基準の監査およびIFRS基準の監査、US-SOX・J-SOX監査のほか、J-SOXの導入プロジェクトや株式上場支援、各種アドバイザリー業務を担当。特にエネルギー業界に強みを持ち、国内大手の上場石油元売企業の監査現場責任者を長きにわたり担当。
2015年1月よりPwCカナダ(カルガリーオフィス)に着任。初の日本人駐在員として、日系企業を含むカナダ国内外のエネルギー企業に対して、石油・ガスなどの開発部門(上流部門)に関するIFRS・USGAAPに基づく会計アドバイザリー業務に従事。
PwCカナダは、エネルギー業界の専門スタッフ1,000人以上を擁し、カナダのエネルギー業界に関連する1,600社以上の会社に対してプロフェッショナルサービスを提供している。

※ 法人名、役職、コラムの内容などは掲載当時のものです。

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