フランスにおける取締役会の実務

2019-06-10

コーポレートガバナンス強化支援チーム‐コラム


前回に引き続き、フランスの上場企業における取締役会の実務を、同国のコーポレートガバナンス・コード(以下、Afep-Medefコード1)への対応状況と合わせて解説します。フランス国内の上場企業のコーポレートガバナンスの実施状況を監督し、助言する機関として、コーポレートガバナンス高等委員会(以下、HCGE)があります。HCGEは2017年度(前年度)以降、取締役会と個々の取締役の貢献度を適切に評価する機能を持つことの重要性を強調してきました。2018年度の活動報告書2(対象期間は2017年9月から2018年9月まで)では、取締役会議長や筆頭取締役の役割に関する傾向をまとめています。

1.フランスの会社の機関設計は複数のタイプがある

フランスの上場企業においては、各々が選択した機関設計の方法を通じて、取締役会の監督機能を確保しています。取締役会の監督機能を理解するために、まずは、フランスの会社機関設計について説明します。

フランスの会社の機関設計には一層構造と二層構造があり、どちらを選択するかは会社に委ねられています。二層構造の場合には、取締役会の監督を監査役会が担っています。この場合、取締役会は専ら業務執行の機能を担い、監査役会が監督機能を担う形で、役割と責任が分担されることになります。ちなみにこの二層構造は、ドイツの会社の機関設計であるスーパーバイザリー・ボード制に近いものです。

一方、一層構造の場合、取締役会は取締役会議長とCEOの機能を分離するか、または兼務させるかを選択できます。この選択の如何によって、議長とCEOそれぞれの機能が確保されるよう、さまざまな工夫が採られています。

SBF1203の会社のうちAfep-Medefコードを参照している104社は、以下のような機関設計を取っています。

3.議長がCEOを兼務するケース

議長がCEOを兼務する場合には、筆頭(独立)取締役が重要な役割を担うことになります。2018年度の活動報告書では、SBF120社の調査対象104社のうち33社が、コーポレートガバナンスまたは株主との関係の観点から筆頭取締役または副議長を任命していました。Afep-Medefコード§6.3は、筆頭取締役の業務について以下のように記載しています。

原則6.3
取締役会がガバナンスや株主に関連する特定の職務を、取締役に、特に筆頭取締役または副議長として任命し、割り当てることを決定した場合、当該職務とその手段および権限は、社内手続規則に記載しなければならない。筆頭取締役は独立していることが推奨される。

~議長がCEOを兼務する場合、半数の会社が筆頭取締役を任命している~

104社のうち53社(51%)は、取締役会議長がCEOを兼任する会社設計を選択している会社で、前述の33社のうち27社(全体に対し26.0%)が筆頭取締役を任命しています。なお、筆頭取締役を設置した会社の全て(100%)が、任務や権限を社内規程に記載していることが分かっています。

~筆頭取締役の職務を独立取締役に委任している会社は約9割~

上述のとおり、調査対象104社のうち会社の機関設計に関係なく筆頭取締役や副議長を任命したのは全体で33社(31.7%)ありました。そのうち29社(調査対象の104社に対して27.9%、任命している33社に対して87.9%)が、独立取締役にその職務を委任しています。この割合は、前年度の30社(全体に対して30.8%)に引き続き安定しています。

~筆頭取締役を設置している会社の情報開示例~

以下は、筆頭取締役を設置した会社の年次報告書の内容です(一部編集)。

大手保険会社A社:

議長とCEOの機能を分離するという決定の結果、取締役会は、特に取締役会議長が非独立取締役であることから、筆頭独立取締役を引き続き設置することを選択しました。

筆頭独立取締役は、一時的な障害や死亡が生じた場合には、取締役会議長に代わることを求められます。議長が欠席の場合、取締役会の会議の議長を務めます。

その職務は、特に、議長のために独立取締役のスポークスマンとなることであり、議長が特定したであろう利益相反が生じ得る状況に注意を向けさせることです。議長と連携して、取締役会の会議の議題を検討し、取締役に提供する情報の質を確保します。

加えて特に、筆頭独立取締役は、議長およびマネージメントの立ち会いなしに議長の業績と報酬を審査するため、議長の後継者の準備をするために取締役会のメンバーを招集することができます。筆頭独立取締役はまた、いつでも具体的な議題について取締役会の招集を要請することができます。

筆頭独立取締役は、株主総会に対する報告を行っています。

2017年度中、報酬・ガバナンス委員会の委員長を兼務するX氏は、以下のことを行います。

・一方で議長と、他方でマネージメント(すなわち、CEOと副社長)との定期的な対話を行う。
・取締役会の会議の準備を議長およびマネージメントとともに行い、大きく関与する。
・取締役会およびその委員会の将来メンバーの選考過程を主導する(フランスおよび海外)。
・議長と連携し、取締役会の実効性を定期的に評価する自己評価組織と非常に密接に関連する。
・特にガバナンスや役員報酬に関する問題について、株主とのコミュニケーションに貢献する。

同氏は、自身の活動について2017年度X月の定時株主総会に報告しました。

大手自動車会社B社:

取締役会は、取締役会議長およびCEOの兼務を継続する場合、取締役会の構成員の中に「筆頭取締役」を選任しなければなりません。

筆頭取締役の役割は、独立取締役の活動を調整することです。筆頭取締役であるY氏は、議長兼CEOと独立取締役の間との連絡役を務めています。筆頭取締役は、指名・ガバナンス委員会の提言に基づき、取締役会により独立取締役の中から任命されます。筆頭取締役は取締役の任命期間中に任命されますが、取締役会はいつでも任期を終わらせることができます。

筆頭取締役の役割を4年以上連続して行使することはできません。

筆頭取締役の任務は以下のとおりです。

・各委員会の委員長および取締役会議長に助言する。
・取締役が最善の状態で職務を遂行できるようにし、特に取締役会の上流でのみ共有されているハイレベルの情報から利益を得ることを確保する。また、独立取締役にとって望ましい窓口となる。
・利益相反を管理・防止する。
・手続規則の尊重を確保する。
・取締役会の議題を決定する。
・取締役会議長兼CEOの不在の間、取締役会の議長となる。特に、議長兼CEOの業績を評価し、報酬を決定することを目的とした討論を行う。
・例外的な場合にのみ、議長および各委員会の委員長に意見を求めた後で取締役会を招集する。
・グループのマネージャーと定期的に会合を持つ。
・有価証券報告書に自身の活動報告を記載する。

筆頭取締役はまた、複数の専門委員会の委員になることもできる。また、委員でない専門委員会にも出席することができる。

4.非業務執行役員だけの会議

~業務執行役員が出席しない会議が6割の会社で行われている~

Afep-Medefコードでは、監査役等の非業務執行役員が業務執行役員の職務執行の監視・監督をする目的で「経営幹部が出席をしない取締役会を開催する」ことを勧告しています。これが実施されるケースが、年を追うごとに多くなってきています。調査対象104社のうち、非業務執行取締役のみの取締役会を開催する予定の会社が62.5%であったことが分かりました。前年度は60.6%でしたので、わずかに上昇しています。

5.取締役会の社内規程

~ほぼ7割の会社が取締役会の社内規程の全文を公表している~

Afep-Medefコードでは、「戦略的業務の見直しと決定を行うことができるよう(§3.2)、取締役会はその社内規程を設けなければならない」(§1.3)と勧告しています。

実際、コーポレートガバナンス報告書や自社のホームページにおいて取締役会の社内規程を完全に公表している会社の割合は72.1%(調査対象104社のうち75社)に上り、前年度(71.2%)から安定的に推移しています。それ以外の27.9%の会社(29社)も、取締役会に関する社内規程の一部を公表しています。

Afep-Medefコード3.2では、「社内規程に取締役会による事前承認が必要なものを記載する」としています。社内規程に、取締役会の事前承認に関して記載している会社の割合は98.1%(104社のうち102社)で、前年度の94.2%(104社のうち98社)から増加しています。こうした情報を公表することは、権限に対する大きな抑止力となるため、取締役会議長がCEOを兼務している会社にとっては特に重要だとされています。

まとめ

日本では取締役会議長とCEO兼任について、会社法やコーポレートガバナンス・コードの下では特に言及・限定されていません。また、筆頭取締役を置くという実務もほぼ存在しません。このことが、日本の上場企業において、取締役会が本来の監督機能を十分に発揮できない理由の一つと思料されます。

議長とCEOの兼務は、野球で例えれば、4番バッターもしくはピッチャーがチームの監督をやるようなものと言えます。その負荷は相当なものであり、かつ不正の呼び水であるとも、過去の例から見て考えられます。

イギリスのコーポレートガバナンス・コードのもとでは、取締役会議長は就任時に独立性基準を満たすことが要求されますし、フランスでは一律のルールはなくとも実務上での職務の分離が進んでいます。兼務が一概にいけないということではありません。しかし各社が今後、議長の任命に関する方針を議論する際、また筆頭取締役を置くかどうかを検討する際に、ヨーロッパ諸国のコードや実務は一考に値するのではないでしょうか。このコラムの情報が、今後の対応や開示を考える上での参考になれば幸いです。

以上

注記

1 フランスAfep-Medefコード[French]
私企業協会(AFEP)およびフランス企業連盟(MEDEF)の作業部会がAFEP/MEDEFコード(Code de gouvernement d'entreprise des sociétés cotées)を策定している。文中で説明しているCGコードは、2016年11月に発行されたバージョンであり、統計をとった時点において企業が参照していたもの。

2 コーポレートガバナンス高等委員会(HCGE)「2018年度活動報告書」(2018年10月公表)
Haut Comité de Gouvernement D’Entreprise – Rapport d’activité (Octobre 2018)[French]

3 SBF120
ユーロネクスト・パリ取引所に上場しているフランス企業の中で、時価総額と流動性が高い120社のこと

執筆者

阿部 環
PwCあらた有限責任監査法人 シニアマネージャー
コーポレートガバナンス強化支援チーム

※法人名、役職、コラムの内容などは掲載当時のものです。

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