コーポレートガバナンス・コードの改訂(2018年改訂)

2018-04-13

コーポレートガバナンス強化支援チーム‐コラム


現在、これまでのコーポレートガバナンス改革の成果・現状と諸課題を踏まえ、コーポレートガバナンス・コード改訂が進められています。対応する側である企業の実務担当者が知っておくべき改訂の内容を解説します。

  • 金融庁「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」においてコーポレートガバナンス・コードの改訂に向けた議論が進められ、提言として改訂案が本年3月に公表された。
  • 改訂案に対するパブリックコメントを経て、本年5月にコーポレートガバナンス・コード改訂版が公表され、翌6月に東京証券取引所の上場規則等に反映される見込み。
  • 現行と比べ、改訂版の内容は企業に求める内容のハードルが高くなっており、追加的な対応を求める内容となっている。
  • 対象となる上場企業は、改訂版に則した「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」を準備、速やかに提出する必要がある(遅くとも本年12月末まで)。
  • 併せて、形骸的な取り組みに対する問題意識が高まっており、今後、企業としても実施内容の中身(質)の向上と説明・情報発信が求められる。

アベノミクスが推進するコーポレートガバナンス改革の一環として、「コーポレートガバナンス改革元年」と言われた2015年より、コーポレートガバナンス・コードが実施されました。改革元年から数年経ち、関係機関によりコーポレートガバナンス・コードの改訂に向けた取り組みが進められています。

コーポレートガバナンスに関する制度は、ここ数年間に目まぐるしく変わっており、企業側の視点に立てば、実務面での対応に苦心されてきたご担当者も少なくないものと思われます。そのような中、コードの改訂により、また新たな対応を求められることになります。コードの改訂から「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」の提出までに時間的猶予があまりない状況下、具体的にどのような改訂が見込まれているのかについて、あらかじめ把握することが有用です。

1. コーポレートガバナンス・コードの改訂に向けた動向

金融庁に設置された「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」において、コーポレートガバナンス・コードの改訂に向けた議論がなされています。同会議の議論内容や取り組み状況に基づいて、本年3月に同会議から改訂案が公表され、これを踏まえ、同月末に東京証券取引所によるコーポレートガバナンス・コード(改訂案)に対するパブリックコメント手続が始まっています。

このパブリックコメント手続の募集期間は4月29日までとなっており、5月をめどにパブリックコメントの結果を考慮した改訂版が公表され、6月から東京証券取引所の上場規則等に反映される見込みです。

対象となる上場企業はコーポレートガバナンス・コード改訂版に則した「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」を準備し、本年12月末までに速やかに提出することが求められています。企業にとって慎重に対応すべき内容や、一筋縄ではいかない内容が多く、今後の方針の検討をはじめ社内的な議論を要するものも多くあります。改訂内容を見るにつけ、企業の実務担当者にかかる負担も小さくないと考えられ、まずは改訂の趣旨を正しく把握し、該当する項目について社内関係者間の連携を密にし、形式のみに陥ることのないよう、実効性のある対応を検討することが肝要です。

2.主な改訂内容

具体的な改訂内容は以下のとおりです。コーポレートガバナンス・コードの5つの基本原則は従来通り(現行からの改訂なし)ですが、原則および補充原則に対して“改訂”および“新設”が加えられています。

(1)政策保有株式の縮減等

(2)アセットオーナーとしての企業年金 ※新設

(3)後継者計画に対する取締役会の関与・監督

(4)持続的成長に繋がる経営陣の報酬制度の手続について

(5)CEOの選任・解任手続の整備 ※新設

(6)独立社外取締役

(7)任意の指名・報酬委員会等の独立諮問委員会の設置・活用

(8)取締役会・監査役会の実効性を確保するための要素

(9)資本コストの把握、事業ポートフォリオの見直し、資源配分

なお、改訂案の公開前に注目を集めていた論点である社外取締役の人数について、現行の「2人以上」から「3分の1以上」とすることは見送られました。

※以下、改訂により「追加」となった部分に下線(アンダーライン)、「削除」となった部分に取り消し線を引いています。

(1)政策保有株式の縮減等について

全体として企業の政策保有株式は減少傾向にあるものの、事業法人による保有の減少スピードは緩やかであり、政策保有株式が議決権に占める比率は依然として高い水準にとどまっているなど、本質的な改善はまだ道半ばの状態です。改訂コードは、政策保有株式に関する投資家と企業の対話をより深めるとともに、企業による政策保有株式の縮減を促す内容となっています。また、「政策保有株主(自社の株式を政策保有株式として保有している会社)」に関する補充原則も新設されています。

原則1‐4.いわゆる政策保有株式

上場会社がいわゆる政策保有株式として上場株式を保有する場合には、政策保有株式の縮減に関する方針・考え方など、政策保有に関する方針を開示すべきである。また、毎年、取締役会で主要な、個別の政策保有株式についてそのリターンとリスクなどを踏まえた中長期的な経済合理性や将来の見通しを検証し、これを反映した保有のねらい・合理性について具体的な説明を行うべきである。、保有目的が適切か、保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているか等を具体的に精査し、保有の適否を検証するとともに、そうした検証の内容について開示すべきである。

上場会社は、政策保有株式に係る議決権の行使について、適切な対応を確保するための具体的な基準を策定・開示し、その基準に沿った対応を行うべきである。

(主な変更点)

  • 政策保有株式に冠していた「いわゆる」の文言を削除
  • 開示対象として「政策保有株式の縮減に関する方針・考え方など」を明記
  • 対象について「“主要な”政策保有株式」から「“個別の”政策保有株式」に置き換え
  • 政策保有株式の「保有目的の適切性」および資本コストとのバランスの精査、適否の検証、検証内容の開示」を明記
  • 政策保有株式の議決権行使の基準について「具体的な基準」を明記 等

補充原則1‐4(1) ※新設

上場会社は、自社の株式を政策保有株式として保有している会社(政策保有株主)からその株式の売却等の意向が示された場合には、取引の縮減を示唆することなどにより、売却などを妨げるべきではない。

補充原則1‐4(2) ※新設

上場会社は、政策保有株主との間で、取引の経済合理性を十分に検証しないまま取引を継続するなど、会社や株主共同の利益を害するような取引を行うべきではない。

(主な変更点)

  • 「政策保有株主の売却等に対する妨害」の抑制に関する補充原則1‐4(1)の新設
  • 「政策保有株主との経済合理性に反する取引」の抑制に関する補充原則1-4(2)の新設

(2)アセットオーナーとしての企業年金について

インベストメントチェーンの最適化に向けたコーポレートガバナンスを実現する上で、企業とより直接的に接するアセットマネージャーなどの運用機関に対して大きな影響力を持つアセットオーナーの存在と役割が重要とされています。翻って企業が持つ企業年金がアセットオーナーとしてあるべき機能を発揮するよう、企業自身が企業年金のそのような機能を発揮できるように取り組み、それを開示することを促すための原則が新設されています。

原則2‐6.企業年金のアセットオーナーとしての機能発揮 ※新設

上場会社は、企業年金の積立金の運用が、従業員の安定的な資産形成に加えて自らの財政状態にも影響を与えることを踏まえ、企業年金が運用(運用機関に対するモニタリングなどのスチュワードシップ活動を含む)の専門性を高めてアセットオーナーとして期待される機能を発揮できるよう、運用に当たる適切な資質を持った人材の計画的な登用・配置などの人事面や運営面における取組みを行うとともに、そうした取組みの内容を開示すべきである。その際、上場会社は、企業年金の受益者と会社との間に生じ得る利益相反が適切に管理されるようにすべきである。

(主な変更点)

  • 「企業年金のアセットオーナーとしての機能発揮に向けた取組み内容の開示、および利益相反の管理」に関する原則2‐6の新設 等

(3)後継者計画に対する取締役会の関与・監督について

多くの企業において、取締役会が後継者計画(サクセッションプランニング)を十分に関与・監督できていないと指摘されています。社長・会長等、特定のポジションの専権事項(聖域)であり、実務としては変えづらい企業も多いことでしょう。筆者も、実務において、「この領域は対応できていない、対応が難しい」という企業のご担当者の声を多く耳にしています。改訂案においては、後継者育成に対する取締役会の関与・監督を促すべく、改訂が行われています。

原則4‐1.取締役会の役割・責務(1)

補充原則4-1(3)

取締役会は、会社の目指すところ(経営理念等)や具体的な経営戦略を踏まえ、最高経営責任者(CEO)等の後継者計画(プランニング)についての策定・運用に主体的に関与するとともに、後継者候補の育成が十分な時間と資源をかけて計画的に行われていくよう、適切に監督を行うべきである。

(主な変更点)

  • 「後継者計画の策定・運用に関する取締役会による主体的な関与」に関する文言を明記
  • 「後継者計画の時間・資源をかけた計画的な実行」に関する文言を明記

(4)持続的成長に繋がる経営陣の報酬制度の手続について

経営陣の報酬制度について、客観性や透明性が不足していること、また、経営陣が追求すべき持続的な成長の追求を促すインセンティブとして機能する制度となっていないことに対し、投資家等から指摘がなされています。改訂コードでは、報酬制度の改善を促す改訂が行われるとともに、手続の実効性を確保するため、独立した報酬委員会の活用が念頭に置かれています。

原則4‐2.取締役会の役割・責務(2)

補充原則4‐2(1)

取締役会は、経営陣の報酬は、持続的な成長に向けた健全なインセンティブの一つとして機能するよう、客観性・透明性ある手続に従い、報酬制度を設計し、具体的な報酬額を決定すべきである。その際、中長期的な業績と連動する報酬の割合や、現金報酬と自社株報酬との割合を適切に設定すべきである。

(主な変更点)

  • 経営陣の報酬制度を設定する主体として「取締役会」を明記
  • 報酬制度における「客観性・透明性ある手続」を明記
  • 報酬制度において「具体的な報酬額を決定すべき」を明記

(5)CEOの選任・解任手続の整備について

本来は最も重要な戦略的意思決定であるべきCEOをはじめとする経営陣の選解任について、現状では取り組みが不十分であると指摘されています。選任および解任について、それぞれ「客観性」、「適時性」および「透明性」のあるプロセス(手続)の確立を促すべく、補充原則が新設されています。

原則4‐3.取締役会の役割・責務(3)

補充原則4‐3(2) ※新設

取締役会は、CEOの選解任は、会社における最も重要な戦略的意思決定であることを踏まえ、客観性・適時性・透明性ある手続に従い、十分な時間と資源をかけて、資質を備えたCEOを選任すべきである。

補充原則4‐3(3) ※新設

取締役会は、会社の業績等の適切な評価を踏まえ、CEOがその機能を十分発揮していないと認められる場合に、CEOを解任するための客観性・適時性・透明性ある手続を確立すべきである。

(主な変更点)

  • 「CEO“選任”の客観性・適時性・透明性ある手続」に関する補充原則4-3(2)の新設
  • 「CEO“解任”の客観性・適時性・透明性ある手続」に関する補充原則4-3(3)の新設

(6)独立社外取締役について

フォローアップ会議において独立社外取締役に関する議論や問題提起は多くありましたが、人数について改訂はありませんでした。ただし後段については、若干の改訂があります。

原則4-8.独立社外取締役の有効な活用

独立社外取締役は会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に寄与するように役割・責務を果たすべきであり、上場会社はそのような資質を十分に備えた独立社外取締役を少なくとも2名以上選任すべきである。

また、業種・規模・事業特性・機関設計・会社をとりまく環境等を総合的に勘案して、自主的な判断により、少なくとも3分の1以上の独立社外取締役を選任することが必要と考える上場会社は、上記にかかわらず、そのための取組み方針を開示十分な人数の独立社外取締役を選任すべきである。

(主な変更点)

  • 選任を「企業の自主的な判断」に委ねる文言を削除
  • 3分の1以上の独立社外取締役を選任することが必要と考える上場会社について、「取組み方針を開示すべき」の文言を削除し、「十分な人数の独立社外取締役を選任すべき」の文言に置き換え

(7)任意の指名・報酬委員会等の独立諮問委員会の設置・活用について

経営陣の指名や報酬に関する取締役会が担う機能の独立性、客観性さらには説明責任を強化する方法として、現行コードでは例示にとどまっていた「任意の指名委員会や報酬委員会の活用」について、より明確な選択肢としての記述がなされています。また、「CEOの選任・解任手続の整備」に関する改訂について先に述べましたが、ここでも、指名委員会の設置・活用が念頭に置かれている旨が明記されています。任意の諮問委員会を設置する企業も多くなっており、この流れを後押しする改訂となりそうです。

原則4-10.任意の仕組みの活用

補充原則4-10(1)

上場会社が監査役会設置会社または監査等委員会設置会社であって、独立社外取締役が取締役会の過半数に達していない場合には、経営陣幹部・取締役の指名・報酬などに係る取締役会の機能の独立性・客観性と説明責任を強化するため、例えば、取締役会の下に独立社外取締役を主要な構成員とする任意の指名委員会・報酬委員会など、独立した諮問委員会を設置することなどにより、指名・報酬などの特に重要な事項に関する検討に当たり独立社外取締役の適切な関与・助言を得るべきである。

(主な変更点)

  • 活用すべき仕組みとして「任意の指名委員会・報酬委員会」を明記
  • 活用すべき諮問委員会の「独立性」を明記

(8)取締役会・監査役会の実効性を確保するための要素について

取締役会の多様性(ダイバーシティ)の確保が進まないこと、監査役を担う人材に適切な経験・能力・知見が欠けていること、これらに対して改善が必要であるとの問題提起がありました。フォローアップ会議の提言においても、日本の上場企業役員に占める女性の割合が現状3.7%にとどまっている旨を明記の上、多様性の重要性を再確認しています。今回は多様性の内容として、ジェンダーと国際性について明記されました。

また、監査役となり得る人材に対する要求事項を具体化する改訂が行われています。監査役たる人材に対して求められる経験・能力・知識、またその知識の内容として財務、会計、法務が具体的に列挙されています。特に財務と会計については、知識の“十分性”を求める内容となっています。

原則4-11.取締役会・監査役会の実効性確保のための前提条件

取締役会は、その役割・責務を実効的に果たすための知識・経験・能力を全体としてバランス良く備え、ジェンダーや国際性の面を含む多様性と適正規模を両立させる形で構成されるべきである。また、監査役には、適切な経験・能力及び必要な財務・会計・法務に関する知識を有する者が選任されるべきであり、特に、財務・会計に関する適切十分な知見を有している者が1名以上選任されるべきである。取締役会は、取締役会全体としての実効性に関する分析・評価を行うことなどにより、その機能の向上を図るべきである。

(主な変更点)

  • 取締役会に求められる多様性の属性として「ジェンダー」および「国際性」の明記
  • 監査役に求められる「経験・能力・専門性」の明記、「財務・会計の十分な知見」の特記

(9)資本コストの把握、事業ポートフォリオの見直し、資源配分について

資本コストを意識した経営が進んでおらず、事業ポートフォリオの見直しが必ずしも十分に行われていないとの指摘がありました。フォローアップ会議においては、そもそも資本コストとは何かを適切に理解している、または説明できる人材が取締役会にいないとの指摘もありました。事業ポートフォリオの見直しなど、果断な経営判断が重要であることや、そうした経営判断を行っていくために、自社の資本コストを的確に把握すべきことの明確化を促す内容となっています。

原則5-2.経営戦略や経営計画の策定・公表

経営戦略や経営計画の策定・公表に当たっては、自社の資本コストを的確に把握した上で、収益計画や資本政策の基本的な方針を示すとともに、収益力・資本効率 等に関する目標を提示し、その実現のために、事業ポートフォリオの見直しや、設備投資・研究開発投資・人材投資等を含む経営資源の配分等に関し具体的に何を実行するのかについて、株主に分かりやすい言葉・論理で明確に説明を行うべきである。

(主な変更点)

  • 「自社の資本コスト」の明記
  • 「経営資源の配分等」の例示を追記
    (事業ポートフォリオの見直し、設備投資・研究開発投資・人材投資等)

上記の他、「原則3‐1」および「補充原則3‐1(1)」にも若干改訂が入っておりますが、主な改訂内容は以上です。

※補充原則の番号末尾の表記については、実際は丸で囲った数字ですが、環境依存文字による、文字化けを防止するため、括弧の数字として記載しています。

まとめ

改訂内容をご覧いただいたとおり、改訂の趣旨や理念として、より高度なコーポレートガバナンスを求める内容であることが読み取れます。一方で、対応する実務者側にとっては、対応にあたって慎重を要する、一筋縄ではいかない内容になっていると言えます。

企業のご担当者の皆様におかれましては、改訂版が確定し、実施される6月よりも先立って、改訂「案」の段階から、改訂の趣旨を正しく理解し、どのように実効性のある対応を行うべきか、社内関係者と連携の上で検討されることが望ましいと考えられます。

次回以降は、コード改訂以外の関係機関によるコーポレートガバナンス改革に係る取り組みについてお伝えする予定です。

以上

河合 巧

PwCあらた有限責任監査法人 マネージャー

コーポレートガバナンス強化支援チーム

お問い合わせ:takumi.t.kawai@pwc.com

※ 法人名、役職、コラムの内容などは掲載当時のものです。

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