CEO’s Interview 対談 木村 浩一郎×田中 正明

デジタル化時代の変化を成長機会に変える

テクノロジーが急速な進歩を続け、世界各地でナショナリズムが勢いを増しています。かつてないほど激しく変化し続ける経営環境の中、日本企業がさらなる成長を実現するためには、これまでにないスピードでの変革が求められています。

PwC Japanグループ代表の木村が、アドバイザーの田中と共に語り合いました。

収録: 2018年1月

木村 浩一郎   田中 正明

木村 浩一郎   田中 正明

PwC Japanグループ代表
木村 浩一郎 Kimura Koichiro

PwCあらた有限責任監査法人代表執行役
公認会計士
経済同友会幹事、会計教育研修機構理事

2012年6月より、あらた監査法人の代表執行役
2016年7月、PwC Japanグループ代表に就任

PwCインターナショナル シニア・グローバル・アドバイザー
田中 正明 Tanaka Masaaki

米日カウンシル評議員会副会長、金融庁参与、
ならびにマネーフォワード、GCA等顧問
元株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ取締役副社長

金融庁、経済産業省にてさまざまな会議の委員を務める

デジタル化、機械化が進む社会に対応するために

木村 PwCでは、社会のさまざまな課題の根底にある大きな変化「急速な都市化の進行」「気候変動と資源不足」「人口構造の変化」「世界の経済力のシフト」「テクノロジーの進歩」を、5つのメガトレンドと捉えています。また、これらのメガトレンドに加え、テクノロジーの進展などを背景に、ここ数年で急速に世界全体の課題として認識されてきた事象を“ADAPT”と名付けている枠組みで捉えています。“ADAPT”とは、Asymmetry、Disruption、Age、Populism、Trustの頭文字を取ったもので、世界中で見られる格差の拡大や多様性を否定する不寛容な社会の広がり、政治や社会に対する信頼の失墜などを読み解く上で有用なフレームワークです。こうした企業経営に破壊的な影響をもたらす可能性のある変化の波にどう適応し、いかにして新たな成長機会へと変えていくか、といった点は、企業の皆さまに限らず私どもPwCにとっても今まさに直面している課題であり、従来のプロフェッショナルサービスを提供する立場から一歩踏み込み、課題解決に向けて知恵を絞りたいと思います。

また、日本では今、官民が両輪となって、これらの課題を解決する「Society 5.0」の実現を目指し、テクノロジーの活用を進めています。日本企業がこうした社会変化を成長機会へと転換していく上で重要な鍵となるであろう「デジタル化」「人材戦略」「信頼」をテーマとして取り上げ、今後の日本企業のあるべき姿を探りたいと思います。

デジタル化/企業・事業の変革

日本企業が組織・事業の改革をするために必要なことは?

木村 最初のテーマはデジタル化と企業のイノベーションです。

米国をはじめ、世界ではデジタルテクノロジーを駆使して業界に破壊的なイノベーションを起こした企業がプラットフォームビジネスを展開して大きく成長しています。主に製造業において世界的な競争力を持つといわれてきた日本企業も、デジタル技術への取り組みを進め、プラットフォームビジネスの構築に動き始めています。一方、デジタル化時代を勝ち抜くには、プラットフォーマーといわれるプレイヤーがどのような戦略を持ち、実際に何をしているのか、また急速な技術革新を支えるリスク資金の流れがどう変わってきているのかを理解することが重要です。その上で、自社の強みを集中すべき分野を見定め、それ以外では他社とオープンに連携して圧倒的なスピード感で魅力的なエコシステムを構築できれば、市場に対してこれまでにない価値を提供できるものと考えています。

この「自社が何をすべきか」という戦略に沿った組織の変革を、PwCでは「Fit forGrowth」と呼んでいます。自社の成長戦略に必要不可欠な強みをより生かすために組織全体のフィットネスを良好な状態に保つ、そのことがエコシステムを構築していく上でも重要だと思います。田中さんは今のデジタル化時代をどのように捉えていますか?

田中 「未来投資戦略2017」にあるように、日本のビジネス社会は、付加価値を生み出す競争力の源泉が「モノ」や「カネ」である旧来型の経済システムに立脚してきました。

そこでは、「集約化」や「均一化」が効率的な経済活動を可能とする成功モデルを生み出しました。しかし、第四次産業革命の進展により、価値の源泉が「ヒト」や「データ」に移る「Society 5.0」の経済システムでは、「自律分散」する多様なもの同士を、新たな技術革新を通じてつなげ「統合」することが大きな価値を生みます。そこでは、多様な個人や知恵がつながり合い、新しいモノを創り出す。あらゆる世代の人が技術革新を味方に付け、眠っている知恵・技術・情報・人材をつなげ、イノベーションを発生させて社会課題を解決し、前進させる。デジタル化の時代とは、そのようなイメージになるかと思います。

木村 変革の時代には、自ら変わる企業文化が求められますね。デジタル化時代の企業には、これまで以上にスピードを重視して素早く挑戦をスタートし、いち早く失敗から学び、次の挑戦へとつなげていく「fail fast」を企業文化に取り込んでいくことが重要かもしれません。

ところで、資金の流れの面から捉えてみると、デジタル化時代には、国家レベルでリスクマネーをマーケットに適切に供給する仕組みが欠かせないように思います。資金調達手段も多様化している中で、日本の取り組みについてはどのように評価されていますか?

田中 残念なことに世界の時価総額トップ100の中に日本企業は数社しかランクインしていません。日本の企業は相対的に歴史のある企業であるのに対し、時価総額の上位企業はデジタル化をリードしてきた若い企業が占めています。日本においてはデジタル化を強く推進するために必要な、アーリーステージのリスクマネー供給が効率的でないように思います。中国は「中国製造2025」の中で、10年間で130兆円もの投資をして世界ナンバーワンになる産業を育てようとしていますし、アジアではソブリンウェルスファンドが、欧米では民間レベルでプライベートエクイティやベンチャーキャピタルが非常に発達しています。日本が投資後進国になってしまっていることを危惧しており、官民一体となってリスクマネーを供給する仕組みをしっかり作っていくことが求められるのではないでしょうか。

木村 日本企業の課題の一つであるデジタル化への対応は、私どもPwC Japanグループにとっても大きな課題であります。デジタル化へと大きく舵を切っている日本企業の皆さまと一緒になって、変化をチャンスに変えていくため、2017年11月にエクスペリエンスセンターを東京・大手町に開設しました。エクスペリエンスセンターは、日常と異なる環境の中に身を置き、自身の中に染み込んだ発想や枠組みにとらわれない、従来とは異なる視点を体験していただく「場」です。デザインシンキングのプロフェッショナルがファシリテーターとなり、お客さまと一緒に新たなエクスぺリエンスを創り出していくことを通じ、企業の皆さまと共にデジタル化を推進していきたいと考えています。

人材戦略

急速に発展するテクノロジーが事業環境を激変させる時代の人材戦略とは?

木村 最近、働き方改革や生産性革命が注目を集めていますが、こうした人材に関する問題は、個別に対処するものではなく、デジタル化時代の事業戦略とそれを実行するための組織の抜本的な改革の中で捉えていくべき問題であると考えます。いわゆる「デジタル人材」とは、単にテクノロジーに精通しているだけでなく、価値の源泉であるデータから仮説を導き出し、現実のサービスやソフトウェアを通じて新たな価値創造を実現していく能力を持った人材です。デジタルネイティブともいわれるミレニアル世代は、今後さらに活躍の場が広がるでしょう。また、企業側は、多様な人材を惹き付ける社会的な意義のある価値観やビジョンを共有、実践する組織であるのと同時に、人々が協調して働ける場であることが求められるでしょう。

田中さんは米国での経営経験がおありですが、組織が新しい価値観を取り入れ、多様な人材が活躍できる場になっていくために重要なことは何だとお考えですか?

田中 2007年当時、私は株式会社三菱東京UFJ銀行の企画部長だったのですが、米国の上場子会社だったユニオンバンクが抱えていた経営上の問題を解決すべく、頭取として赴任することになりました。翌年、日本の銀行の100%子会社となった際、当時のユニオンバンク社内には日本型経営を押し付けられるのではないかという懸念が高まりました。また、リーマンショックにより金融業界で大規模なレイオフが実施されていたことも重なって、従業員の間には不安が拡大していました。そこで私は数百人の幹部を集めて二つのことを伝えました。一つは人員整理を一切やらないということ。もう一つは経営上の問題を解決した次のステップとして、ユニオンバンクを全米トップテンの銀行にするというものでした。その場のどよめきは今でも耳に残っています。

また、その後、米州本部長に就任した際は、重要な経営判断には現地の幹部に全て参加してもらうことにしました。トップが会社をこうしたいというビジョンを示し、透明性を持ってそれを実践し続けたところ、その経営手法が米国の金融業界でも評判になり、優秀な人材が外部からも入ってくるようになりました。共通のビジョンを持ち、透明性が確保され、公平な機会があると信じて働くことができる組織の強さを実感する経験となりました。

木村 まさに多様な人材が同じビジョンを共有し、公平性、透明性を高めることで組織全体として経営力が上がったということですね。必ずしも米国だから実現できたということではなく、日本においても実践できると自信をもらえる実例ですね。

実は、PwCではこれからの人材に関してオックスフォード大学との共同研究をまとめたレポート、「Workforce of the future」を発表しています。デジタル化が進展する中で、未来の働き方がどう変わるかを4つのシナリオに沿って整理したものです。将来の働き方ならびに組織運営を考える上で、これらのシナリオが経営者の皆さまにとって意味のある気付きに結び付くことを期待しています。PwC Japanも今、テクノロジーを積極的に活用し、多様な働き方を採り入れ、生産性の向上に取り組んでいるところです。私どもの経験を企業の皆さまとも共有し、それぞれの状況に適した働き方の形を模索していければと思っています。

田中 今後ますます必要になるのは、自分自身の足でしっかり立って自分で物事を考え、新たな付加価値を創り出せる人材です。海外で活躍する日本人スポーツ選手にはそういう人材がたくさんいますが、ビジネス社会にもそういう時代がもう来ていると思っています。日本の企業には年功序列や組織への忠誠心を極端に求める文化がありますが、そうしたものを抜本的に作り直す時期に来ているといえるでしょう。

信頼

企業のガバナンス構築と信頼の醸成はどうあるべきか?

木村 PwCは自らの存在意義を示したPurposeの中で、「信頼」を最も重要なものと位置付けています。デジタル化が進展する社会でも、信頼の重要性は変わりません。一方で、社会全般の信頼に対する期待は過去と比較しても非常に高まっており、同時に質的な変化も生じてきていると感じます。例えば、従来、部門最適追求のために目こぼしされてきた、ある種の「ごまかし」などは、現在のガバナンス強化の流れの中では許容されない状況になっています。また、テクノロジーの進展によって、個人の発信した情報がいとも簡単に拡散する社会になっており、こういった事象がひとたび明るみに出た場合の影響は以前とは比較できないくらい甚大なものとなっています。透明性に対する社会からの高度な要求に対応するために、こうした社会の意識変化を組織のメンバー全員で認識することが信頼向上の第一歩です。そしてその上で、規範の明文化や第三者によるチェック体制の強化、さらにテクノロジーを活用した強力なガバナンス機能の構築なども必要でしょう。

田中さんは、銀行という「信頼」をベースにしたビジネスを長い間経験されてきたわけですが、デジタル化時代の「信頼」についてはどのようにお考えですか?

田中 デジタル化時代の信頼の確保という点で、監査法人にとっても大きなチャレンジになると思います。ビッグデータやAIの活用が進むにつれ、飛躍的に高度な対応が求められるでしょう。AIを構成するアルゴリズムが理解できなければ監査ができないとか、ディープラーニングのプロセスをどのように監査するかといった問題が出てくるものと思います。最近では、仮想通貨の取引所や新たな資金調達手段であるICO(Initial Coin Offering)といった新たな仕組みや取り組みが始まっています。これらにどう対応していくか、監査法人としてもリスクを恐れてばかりいては変化についていけません。監査・保証業務の専門家集団として、デジタル化時代の新たな社会的仕組みや取り組みに対する信頼の醸成にどう貢献していくか、監査法人に対する期待や求められる役割も広がってくるのではないでしょうか。

木村 監査のあり方が大きく変わるというのはその通りですね。PwCでは、デジタル技術を監査業務に活用し、従来とは違う検証の仕方や監査機能を実装することで、より効果的なガバナンス機能の構築を推進しています。

新しい業態や業務が出現したときに、それに対する信頼が生まれなければビジネスとして成長できませんし、新たに創り出された価値が経済や社会へ波及しません。私たちPwC Japanは、経営者の方々が説明責任を果たされるに当たって、第三者機関として保証を付与することにより、しっかりサポートしていきます。特に、ガバナンスは重要な要素です。それはデジタルビジネスの世界であっても同じであり、ガバナンスがあってこそ、事業の実効性を高めていくことができます。

田中 PwCというネットワークは、極めてグローバルでプロフェッショナルな組織の集まりだと思っています。私は、日本の企業が改革を進めるに当たって、PwCに対して「世界のリーディング企業の実例を教えてほしい」と要望するところを何度も見てきました。PwC Japanグループは、国内でナンバーワン・プロフェッショナルサービスネットワークになるということを標榜しています。ナンバーワンになるのは大変だと思いますが、これを口にし続けることで、全てのメンバーがその達成を本気で目指すようになることが極めて大事だろうと思います。各ビジネスライン同士の連携や、世界各地のPwCのファームとの連携を一層強化することで、また一段上の成長と発展が見込めることでしょう。ぜひ、全てのメンバーの方々が真摯に取り組まれることを期待しています。

木村 ご期待に応えていきたいと思います。今日はありがとうございました。

まとめ

私たちPwCは、社会に信頼を構築し、重要な課題を解決することを自らのPurpose(存在意義)として掲げています。世界は今大きな転換期にあり、日本企業を取り巻く経営環境は、デジタル化をはじめとするテクノロジーの進展により、急激に大きく変化しています。しかし、変化は同時に成長の機会でもあります。日本企業が直面している課題は私たちPwC自身の課題でもあり、皆さまと一緒に社会の重要な課題の解決に貢献していけるよう、さまざまな専門分野を持つプロフェッショナル・サービス・ネットワークとして全力を尽くしてまいります。