移転価格に関する改訂ガイドラインの公表(OECD)

OECDは7月22日、多国籍企業及び課税当局のための移転価格ガイドラインの第Ⅰ~Ⅲ章の改訂案を了承した。この改訂テキストは、世界の多くの地域での移転価格分析の適用に重要な影響を与えるOECDの承認アプローチに大きな変更をもたらす。加えて、OECDは同時に事業再編に関する移転価格ガイドラインの新たな第Ⅸ章を公表した。ガイドラインに新規追加されたこの部分は当問題に関するそれまでの論点整理に基づいている。

第Ⅰ~Ⅲ章の改訂は一般的な比較可能性及び特に利益法の使用に関する数年の作業の結果である。これらの改正についての施行日は記されておらず、そのため多くの国でこのガイドラインの改訂テキストで公表されている諸原則が直ちに適用開始になるものとみられている。

第Ⅰ~Ⅲ章の改正の概要
OECDは、加盟国の立場、即ち、独立企業原則(ALP)が利益の課税場所を決定するための最も公平で信頼性ある基盤であること、また、代替案、特に全世界定式配分を拒否してきたこと、について再確認をした。

最も重要な改正は、伝統的な方法と利益を基礎とする方法との間の差異の除去である。原則として、公認されているOECDの方法は今や全て同列である。その結果、その他二つの主要な改正が適用されることとなる。すなわち、“最も適切な方法(most appropriate method)”のルール、及び利益を基礎とする方法を使用する場合のより高い比較可能性の基準である。

最も適切な方法
これまでのOECDの算定方法の優先性としては、CUP法(独立価格比準法)が最も好ましい方法であり、次に他の“伝統的な取引単位”法(再販売価格基準法及び原価基準法)であり、続いてこれらの三方法が信頼性をもって適用されない例外的な場合に利益基準の方法(取引単位営業利益法(TNMM)及び利益分割法)になる、とされていた。

この明確な優先性がなくなれば、一つの方法を選定するに当たっての基準は、“特定の事案について最も適切な方法を見出すこと”と表される。これは、“最も適切”であると思われる方法を選定するまでに各方法を詳細に検討する必要はないことを明確にしている要件緩和の表現が入っていることを除けば、ベストメソッドルールに近い。

それでもなお優先性がある程度維持されており、諸算定方法が同等に信頼性ある場合には、CUP法が他の方法よりも好ましい、及び伝統的な方法が利益法よりも好ましい、とされる。従って、もし例えばCUP法とTNMMが同等の選択肢であるならば、CUP法が依然優先することになる。

比較可能性の基準
比較可能性に関する記述は序説部分(比較可能性が独立企業原則の適用に当たって果たすべき中心的な役割を明確にすること)及び比較可能性分析についての詳細な記述である第Ⅲ章の双方で精査されているが、この作業の主たる焦点は公の入手可能なデータベースを使用しているTNMM(及び、暗黙のうちに、原価基準法及び再販売価格基準法)に係る比較対象の使用についてである。OECDは、初めて、事案の状況によっては適切となりそうな他の統計的なアプローチの使用を排除しない条件ではあるが、四分位幅の使用を是認している。

9段階プロセス
1995年以来ガイドラインで記述されている5つの比較可能性の要素に加えて、9段階プロセスが、改訂ガイドラインの規定及び勧告がどのように実際に適用され得るかの例として加えられた。この改訂テキストは、単に形式的にこれらの段階を踏んでいるだけでは必ずしも独立企業結果を導くものではなく、また逆に別のプロセスを採ったからといって独立企業結果を排除するものでもないと明確に述べている。しかしながら、明確なのは、信頼性と透明性のあるプロセス、即ち税務調査官が必要に応じて検討・追認・検証できるものである必要があるということである。

実際、ガイドラインで提示されている9段階プロセスは、OECD非加盟国を含めて、OECDのアプローチをかなりそのまま取り入れる多くの国で、共通に通用するものとなるであろう。納税者は、どのようなプロセスを採ったのかが問われることになり、またその答えはガイドラインで提示されている事例と比較されることになるであろう。更に、納税者は詳細な比較可能性分析を行ったことを示す文書を提供することが期待されることとなろう。

利益水準指標
TNMMの位置づけを引き上げたことから、このガイドラインでは利益水準指標(PLI)の選定に多大の注意が向けられ、また、詳細なガイダンスが、売上高対利益、原価対利益、資本(資産)対利益、等の最も一般的なものについて提供されており、ベリーレーシオについてもかなりの記述がなされている。

利益分割法
利益分割法もその位置づけが引き上げられた。しかしながら、改訂ガイドラインは、利益分割法を、主たる算定方法としても、或いは検証分析の方法としても、より一層幅広く使用することを促進する意図がないことを明確にしている。

この改訂ガイドラインで記述されているのは、今後利益分割法が最も適切な方法となりそうな場合、また重要なことには実際にその限度や不利なところが何であるか、更にどう適用されるべきか、についてのより詳細な分析である。この分析で一つの鍵となる要素は、無形資産の重要性であり、“価値あるユニークな無形資産”とルーティーン、すなわち大して価値のない可能性のある無形資産とを区別することを意図したもの、である。2ないしそれ以上の関連者が価値あるユニークな無形資産を有している場合には、利益分割法は最も適切な方法のようであるとされる。

データと情報
OECD加盟国の見地から、税務当局にとって利益分割法に魅かれる一つの理由は、取引の両当事者をみることであるが、それはすなわち、あらゆる関連事業がどこにあろうとそれらに係る詳細情報(従って、その情報の開示)及び合算利益の計算が必要となる。改訂ガイドラインは明確にこの点について述べており、暗黙のうちに両者をみる方法が好ましいことを認めている。ただ、取引の一方だけをみる方法が最も適切な場合を明確にすることによってバランスが保たれ、当該方法が適用される納税者以外の関連者からは機能とリスクに関する限られた情報が求められるに過ぎず、そのような関連者に係る詳細な財務情報は必ずしも必要とはされないであろう。

出典:PwC US, Pricing Knowledge Network
「月刊 国際税務」 2010年9月号収録 Worldwide Tax Summary
税理士法人プライスウォーターハウスクーパース編