第6回 企業結合をめぐる国際的な会計基準の動向

2007年12月と2008年1月に,米国財務会計基準審議会(FASB)と国際会計基準審議会(IASB)はそれぞれ企業結合会計に係る改訂基準を公表しました。この改訂により,従来の企業結合の会計処理や連結財務諸表に対する基本的な考え方は大きく変わることになります。また,一部に差異は残るものの,国際財務報告基準(IFRS)と米国基準における企業結合会計に係る会計基準についてのコンバージェンスが進みました。

1 企業結合の改訂基準の公表の背景

米国における企業結合に関する会計基準の歴史は古く,1970年にAPB意見書16号が公表されて以来,この基準が長く使われてきました。その後,2001年にFASBは,SFAS141号「企業結合」を公表し,企業結合の基準の改訂を行いました。この改訂では,持分プーリング法が廃止されパーチェス法に一本化され,またのれんの償却が禁止されましたが,企業結合時のパーチェス法の具体的な会計処理については検討を継続することとなりました。一方,IFRSにおいても,IASBが2004年にIFRS3号「企業結合」を公表しSFAS141号と同様,企業結合の会計処理をパーチェス法に一本化すると共に,のれんを非償却とする改訂を行いました。

上記の改訂後も,IASBとFASBは企業結合におけるパーチェス法適用のためのガイダンス作成の検討を継続して行い,共同でプロジェクト(フェーズⅡ)を進めていました。この結果,今回,FASBからはSFAS141R号「企業結合」およびSFAS160号「連結財務諸表における非支配持分-ARB51の改訂」が公表され,IASBからはIFRS3R号「企業結合」及びIAS 27R号「連結財務諸表および個別財務諸表」(以下,これらを「改訂基準」という)が公表されました。

改訂基準の適用は,米国基準については,2008年12月15日以後開始する事業年度における企業結合についてSFAS141R号等が強制適用されます(早期適用は禁止)。国際財務報告基準については2009年7月1日以後開始する事業年度の財務諸表における企業結合に対し てIFRS3R号等が強制適用されます(2007年6月30日以後開始する事業年度に早期適用可能)。

企業結合の形態がパーチェス(買収)とは限らないため,パーチェス法は取得法(acquisitionmethod)という用語に変更され,また従来の少数株主持分には非支配持分(Non controllingInterest)という用語が採用されています。改訂基準の特徴は,被取得企業の識別可能な資産,負債,非支配持分の全てを,支配獲得時に公正価値で測定するとしている点です。このような支配を基準に取得法を適用する考え方は,支配獲得時,支配喪失時の会計処理に影響を与えています。ここでは,こうした支配を基準に取得法を適用する会計処理に焦点をあて解説します。

2 全部のれんの計上

従来の基準によった場合は,取得企業の持分についてのみのれん(購入のれん)が認識されてきました。一方,改訂基準によった場合には,取得企業は,被取得企業の識別可能資産,負債,非支配持分,及び取得企業の持分(取得企業が被取得企業を取得するための対価として現金あるいは取得企業の株式を交付することによって取得した持分)は支配獲得日で公正価値により測定します。公正価値で測定された取得企業の持分の総額及び被取得企業の非支配持分と,取得した識別可能資産の資産及び負債の純額との差額をのれんとして認識することになります。したがって,非支配持分も公正価値で測定される結果,非支配持分に対応するのれんが計上され,全部のれんが計上されることになります。これは,以下のように図示することができます。

図表1 被取得企業の貸借対照表
被取得企業の貸借対照表

3 段階取得の会計処理

改訂基準においては,段階的な取得の会計処理について,支配が獲得された時点で取得の会計処理を行うものとし,その結果生じた損益は当期の損益として認識されます。

(設例) 段階取得の会計処理

例えば,ある会社を当初40%取得し,その後追加取得で20%を取得し支配を獲得したケースでは,この支配獲得時に当初持分と追加取得分を合わせた60%部分が公正価値で再測定されることになります。したがって,当初から保有していた部分40%について持分法を適用していた場合には,図表2に示したとおり,この持分法の簿価に代え支配獲得時の公正価値による再測定額が計上され,その差額が当期の損益として計上されることになります。

図表2 支配獲得時の被支配持分の評価
(借)支配獲得時の40%持分の公正価値 (貸)40%持分の持分法適用による簿価
  損益

4 支配獲得後の持分の変動に関する処理

1.支配の変更を伴わない取得及び処分

支配獲得後は,親会社が,子会社の持分の一部を売却した場合でも,支配を喪失しない限りは,支配持分と非支配持分の間の移動となるため,資本取引として取り扱います。したがって,損益は認識せずにのれんも再測定しません。非支配持分の変動と,支払ったあるいは受取った対価の公正価値との差額は,資本で直接認識し,親会社の所有者に帰属させるとことになります。

2.支配の喪失

一方,持分の一部売却により支配を喪失した場合には,親会社は子会社の資産,負債及び非支配持分について,連結財務諸表上の帳簿価額で認識が中止され,また,同時に支配の喪失時,当該子会社への残余持分を公正価値で認識します。これらの結果生じる差額について,親会社に帰属する損益として計上することになります。すなわち,親会社に帰属する損益は,親会社の売却分に対応する売却損益及び残余持分の公正価値評価による評価損益から構成されます。上記の設例で,20%を売却して関連会社として処理する場合は以下の仕訳が行われます。

(支配喪失時の仕訳)
(借) 非支配持分(帳簿価額) 〔40%〕 (貸) 子会社の資産・負債の純額
(帳簿価額) 〔100%〕
売却による対価(公正価値) 〔20%〕
関連会社株式(公正価値) 〔40%〕 親会社に帰属する損益

(注)〔〕内は当該会社に対する持分比率を示している。

5 その他の改訂点

その他の主な改訂点としては,上記の取得法の適用に関連して,負ののれんと割安購入,条件付取得対価の公正価値の測定,取得に要した支出額の即時費用化,リストラ・コストの費用処理,偶発事象の公正価値での計上などについての改訂が行われています。また,IFRSでは仕掛研究開発費の資産計上を従来から要求していましたが,米国は今回の改訂で資産計上を要求することになりました。

6 国際財務報告基準と米国基準との相違点

今回の改訂は,IASBとFASBの共同プロジェクトで実施されたものですが,偶発事象から生じる資産及び負債,従業員給付契約及び繰延税金資産,非支配持分,偶発対価,貸し手側のオペレーティングリースの会計処理等について,両者の基準で相違が残ります。特に,SFAS141R号は,非支配持分は公正価値で測定しなければならないとして例外を認めていないのに対し,IFRS3R号では,非支配持分を公正価値で測定するほかに,被取得者の識別可能純資産の非支配持分に帰属する金額によって測定する代替処理も認めています。この代替処理を適用した場合には,図表1において非支配持分に対応するのれんの部分は計上されないことになります。

7 おわりに

上記の通り,国際的には企業結合会計基準の改訂が大幅に進みました。企業結合に係るわが国の会計基準は,2006年4月から適用され,実務に定着をしてきたといえますが,IFRSとのコンバージェンスの観点から2007年12月に,企業会計基準委員会(ASBJ)から「企業結合会計の見直しに関する論点の整理」が公表されています。さらに,のれんの償却や非支配持分の公正価値測定による全部のれんについては,第2段階として検討が進められ,2009年末までに公開草案が公表される予定です。本改訂基準の公表が,今後のわが国への基準設定に大きな影響を与えることが予想されます。

このQ&A は、『週刊経営財務』2868号(2008年5月12日)にあらた監査法人企業会計研究会として掲載したものです。発行所である税務研究会の許可を得て、あらた監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載·転用はご遠慮ください。