2015-05-26
一定規模以上の医療法人と社会福祉法人は、監査法人等の監査を受けなければならないと法律で定められる予定です。今回のコラムでは医療法人と社会福祉法人の概要と、会計監査制度の改革の動向について取り上げます。
わが国は、世界史上も類を見ない超高齢化社会を迎えています。最新の人口統計(注1)によると、総人口1億2708万人、年少人口(0~14歳、1622万人)および生産年齢人口(15~64歳、7776万人)はいずれも減少する中、高齢者人口(65歳以上、3309万人)は増加傾向にあります。現在、高齢化率は約26%ですが、今後ますます増加し、2060年には約40%に達すると推定(注2)されています。
また、高齢者の増加に伴い、医療・介護費用を中心とした社会保障関係費は年々増加しています。平成27年度当初予算(注3)では社会保障関係費は83兆円となっており、歳出合計238兆円の約35%と、国債費90兆円に次ぐ大きな歳出項目となっています。
こうした社会環境を背景として、現安倍内閣は、増え続ける社会保障関係費の抑制や、持続可能な社会保障制度の構築などの観点から、医療・介護関係の改革に取り組んでいます。
今回のコラムでは、当該領域の主要な事業主体である医療法人および社会福祉法人の概要と、両者に関する会計・監査制度の改革の動向について取り上げます。
わが国の病院は、国および地方公共団体などの公的機関のほか、さまざまな民間組織により運営されていますが、医療法人による病院は施設数および病床数の双方で最も大きな割合を占めています。
医療法人の数については、平成26年3月末現在、全国で49,889法人であり、年々増加傾向にあります。
開設者別 施設数・病床数(平成26年12月末現在)(注4)
|
病院 |
一般診療所 |
歯科診療所 |
||
施設数 |
病床数 |
施設数 |
病床数 |
施設数 |
|
国および地方公共団体など |
1,274 |
358,782 |
3,791 |
4,838 |
274 |
医療法人 |
5,720 |
858,156 |
39,627 |
79,643 |
12,517 |
医療法人以外の民間組織 |
1,501 |
353,074 |
57,509 |
27,428 |
56,048 |
合計 |
8,495 |
1,570,012 |
100,927 |
11,909 |
68,839 |
従来、医療法人の会計は、施設単位の会計基準である病院会計準則などに拠っていましたが、平成26年2月、法人単位の会計基準として医療法人会計基準が作成、公表されました。
また、医療法人の監査については、これまで社会医療法人債を発行する社会医療法人以外、公認会計士または監査法人による外部監査は義務付けられていませんでした。平成26年6月の規制改革会議第2次答申において、「医療法人は株式会社等と比較して経営の透明性が低く、法令等遵守体制の構築が十分に担保されていない」などとし、「社会的に影響が大きい一定規模以上の医療法人について、外部監査を義務付ける」こととされました。
これを受け、平成27年4月、医療法改正案が国会に提出され、厚生労働省令に定める基準に該当する医療法人は、公認会計士または監査法人の監査を受けなければならないと法律上明記されました。(規模基準および監査開始時期は本コラム執筆時点(平成27年5月)で未定)
社会福祉法に基づき、高齢者、障害者および児童等に対する社会福祉事業を営む社会福祉法人は、平成25年度末現在、全国で19,636法人あり、そのうち施設運営法人が17,199法人と大半を占めています(注5)。
多様化、複雑化する福祉ニーズなどの変化を踏まえ、社会福祉法人のあり方について、平成25年以降、厚生労働省の検討会で議論が重ねられてきました。特に会計面については、法人経営の透明性の確保の観点から、財務諸表の公表の義務化が図られています。
また、平成27年2月、厚生労働省の社会保障審議会福祉部会が取りまとめた社会福祉法人制度改革に関する報告書では、一定規模(収入10億円または負債20億円)以上の法人への会計監査人の設置義務化や、内部留保(利益剰余金)のうち再投下可能財産額がある場合の再投下計画の作成義務化などが盛り込まれました。
これを受け、平成27年4月、会計監査人の設置等を含む社会福祉法改正案が国会に提出されました。改正法の成立により、厚生労働省令に定める基準に該当する社会福祉法人(特定社会福祉法人)については、会計監査人の設置が義務付けられるとともに、計算書類等に対する会計監査人の監査が平成28年度(平成29年3月期)決算から適用される予定です。
特定社会福祉法人の皆さんは、来年度から導入される会計監査人監査の実施に向けて、会計監査の仕組みの理解とともに、監査の前提となる内部統制の整備・運用状況の見直し等に早急に着手する必要があります。
PwCあらた監査法人のメディカル・ウェルフェアグループは、経験豊富なスタッフにより、医療法人および社会福祉法人に対する会計監査およびアドバイザリーサービスを提供しています。
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成長戦略支援 製造・流通・サービス(MDS)本部
メディカル・ウェルフェアグループ
注2 国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口」
注3 財務省「財政法第28条等による平成27年度予算参考書類」[PDF 4,268KB]
平成27年度歳入歳出予算の純計表(一般会計と特別会計の合計)より